徒然なれど薑桂之性は止まず⑪ イスラエル、パレスチナの労組との交流支援

国際労働財団(JILAF)は長年にわたり、イスラエル労働総同盟(HISTADRUT)およびパレスチナ労働総同盟(PGFTU)と友好的な協力関係を続け、同地域における二千数百年にわたるバビロン幽閉以来の怨念の連鎖を緩和するため両国労組の幹部間交流や合同セミナー等の活動を続けてきた。
相互交流を含めて30年近い年月が流れ、相互理解が進んだかと思っていると同地域や近隣地域で何か紛争やトラブルが起き、続けてきた努力が台無しになるということも再々である。二千数百年は簡単に取り戻せないと歯を食いしばり、JILAFの宇佐美初代理事長や清水2代目専務理事のこの問題に関する思いをJILAFの歴代役員が引き継いできている。
ところで、2023年10月、パレスチナのハマス軍がいきなりイスラエルに進撃し、2千人近くが亡くなり、捕虜として数百人を留置したといわれる。ハマス側にも4千人を超える戦死者が出た。
このハマスの侵攻に激怒したイスラエル側もガザ地域に反撃を加え、9カ月余戦闘状態が続いている。以降、ガザ地域のみに留まらずヨルダン川西岸地域や隣国レバノンのヒズボラ軍やイエメンのフーシ派との戦闘も加わり、捕虜交換や停戦をめぐる交渉も進展せず、イスラエル批判の国際世論が高まっている。
二千数百年余にわたる相互不信の歴史にはセム・ハム語族の葛藤、ローマ帝国・神聖ローマ帝国の宗教と統治論上の差別的取扱い、19世紀から20世紀にかけてのイギリス・フランス・トルコ等の二枚舌外交、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教間の教義・伝承の違い等々、多くの背景の違いが影響を与えており、同じ信教の自由論に依拠する論理に濃淡が見られることも再確認された。

パレスチナ問題の解決に向けた糸口は見つけられたか

パレスチナ問題の解決に向けての糸口は見つけられないのか。複数民族が異なる伝統・文化・宗教を持ちながら知恵を絞り合って共存している例はないのか。多数民族共存は確かに難しい話だが、例えば労働者同士の間に多民族共和は見いだせないのかと、宇佐美さんや清水さんは労働者同士の親和の形成を訴えたのである。私自身も国際繊維被服皮革労組同盟の立場から国際労働財団の運動をサポートするため何度もパレスチナやヨルダンを訪れ、両組合のリーダー達と話し合ったことがあった。
同じ地域に混在するが故の課題も多い。共同して取り組めば解決できる課題も多いはずだ。「トラブル・紛争の発生」→「批判の応酬・戦争の繰り返し」では人類の英知が泣く。
ロシアのウクライナ侵攻も連綿と続いている。戦争は一般国民、特に女性や労働者、子どもに過酷である。一日も早い平和の到来を願うばかりである。
パレスチナやウクライナの戦争は、労働組合の国際組織ITUC(国際労働組合総連合)の連帯に大きなひび割れをも招き、プーチン大統領の判断の支持を表明したFNPR(ロシア独立労働組合連盟)については、現在は加盟資格停止という扱いになっている。この問題の解決のためにも停戦が求められる。特に、ロシアとイスラエルに戦争に対する自制を強く求めたい。

G8レイバーサミット(労働大臣会合)

2006年7月、G8(ロシアの対NATO関係の融和によりロシアがG7に加盟し、G7がG8に)の労働組合リーダーとG8議長(この年はロシアのプーチン大統領が議長を務めた)のサミット・ミーティング(労働大臣会合)がモスクワのクレムリンで開催された。私も連合を代表して参加した。
ルーティーンのG8サミットと連動した議論の後、自由討議の場が持たれた。そこで私からプーチン大統領に「今朝(レイバーサミットの日の早朝)、北朝鮮がミサイルを発射し、日本国民に不安を与えている。国連の安保理決議違反の行為であり、北朝鮮のこの蛮行をやめさせるよう大統領の協力を得たい」と要請したところ、プーチン大統領は「北朝鮮の今朝のミサイル発射の情報には接しているが、詳細は未詳だ。髙木さん、貴兄の発言はテイク・ノートさせてもらう」という発言があった。その後、プーチン大統領は2~3分中座し、両手に青色の柔道着を持ったまま「この柔道着は日本の山下泰裕IOC会長に貰ったものだ」という紹介がなされ、びっくりしたのを覚えている。
プーチン大統領のロシア、ウクライナ、ベラルーシの関係に関する基本認識に関する論文も読んだが、民族に関する思い込みがロシアのウクライナ侵攻に強く係わっていることが判る。
しかし、国際法違反である他の主権国家の侵略が許されるものではない。この戦争はプーチン大統領がやめるしかない。 。

(2024年8月25日号掲載、全30回連載予定)

執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。

関連するコラム・寄稿