徒然なれど薑桂之性は止まず⑬ 司法制度改革審議会への参加
何故、司法制度改革が求められたか
日本の司法は、明治時代に制定された大日本帝国憲法から日本国憲法への憲法改正等を受け、太平洋戦争前後でかなりの制度変更があった。運営・運用の修正が行われ、戦前の司法制度とは様変わりした。この戦後司法も数十年の年月を経て、要改善、新制度創設要求の声も上がり、司法制度改革についても審議会等を設置し検討を行うべきとして小泉政権の時代に「司法制度改革審議会」が設置されることになった。
改革を求められる課題は多岐に亘り、2年ほどの年月が審議期間として予定され、1999年秋に議論が開始された。
なお、この「改革審議会」以前にも「臨時司法制度審議会(臨司)」が司法のプロをメンバーとして設けられ、検討の結果をまとめた「臨司報告書」も策定された。その内容にも見るべきものもあったが、具体的な制度改訂や新制度創設まで行き着くことなく死蔵された経緯があった。
1999年夏、連合からこの「司法制度改革審議会」の委員への就任要請があった。法学部出身ながら大学の授業にまともに出席したことがない髙木が委員を務めることになった。
審議会の委員は13人。法曹三者、法学者、経団連、中小企業連合会、主婦連、連合からそれぞれ選ばれた。2年の検討期間の縛りがあったせいか、延べ110~120回、1回4~5時間の所要で、傍聴者(司法マスコミ中心)もいる結構大変な審議会であったが審議会の名称に「改革」の2文字を挟み込んで、その意欲を顕示した。
何故、司法制度改革が求められているのか。日本の司法社会は法の救済を受けることもないまま泣き寝入りも多い。中坊公平委員いわく「日本の司法は2割司法」。アメリカなどの訴訟社会と比べるまでもなくヨーロッパ各国に比べても目立って小さい。
「小さな司法」の故か、法曹資格者数も少ないため法曹人口をいかに増やすかも大きな課題であり、地域的にも弁護士不足が故の司法過疎の問題もある。司法制度のより広範な利用を促すための仕組みも弱い。また、裁判に時間がかかり過ぎるし、冤罪もなくならない。他にも国民の司法制度に関与するレベルの低さ、法学研修を始め司法試験、司法履修等の見直し、社会現象の変化に対応が遅れている分野―例えば、雇用・失業問題等の個別労使紛争の増加、特許事件の解決スピードの遅さ故の問題点の克服等々、数え上げればきりがない程の課題が眼前にある。
私もいくつかの省庁の審議会の委員として参加してきたが、この「司法制度改革審議会」が最もハードでタフな参加を求められた。
「意見書」手交と政府の司法制度改革推進本部の設立
2001年5月、「司法制度改革審議会意見書」としてまとめられたものが佐藤幸治会長から小泉首相へ渡された。その後の意見書の内容の具体化の検討・実施に向けての作業等は、政府に設けられた司法制度改革推進本部の16のテーマ別の検討会で対応を委ねられた。
(2024年9月15日号掲載、全30回連載予定)
執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。