徒然なれど薑桂之性は止まず㉒(最終回) 低下を続ける労働組合の組織率~労組専従者の責務は組織化
1989年の「連合」結成時の加盟組合員数は約800万人。それが2024年には700万人を割り込むところまで減少している。
何故「連合」加盟組合員数は増えないのか。最大の理由を単刀直入に言えば、組織化の運動がなきに等しい産別・単組が多く見られるからだ。ローコスト経営等の企業の対応が人員削減に向いてきたことによる組合員数の減少分を補填するどころか、ほとんど毎年減少を繰り返している。
中小企業・非正規労働者の組織化が急務
未組織の労働者を対象とするアンケートでは、「労働組合がほしい」「労働組合を結成して労働条件や働く環境の整備を行いたい」といった声も多く聞かれるのに何故新たな組合の結成が進まないのか。この点も率直に言えば、既存組合の、未組織労働者の労働組合を持ちたいという願望をサポートしようとする意識の希薄化や、組織化が労働運動の必須の活動という認識が欠如している情けない状況を指摘せざるを得ない。
労組専従者の重要な責務は組織化
特に労働組合業務に専従する役員の最大の仕事は組織化にある、という意識の弱さには忸怩たる思いを禁じ得ない。
際立って組織率が低いのは100人未満の中小企業労働者である。組織率1%未満がその低さを物語っている。続いて非正規労働者の組織率も総じて低い。パートタイマーを除いた派遣労働者等の組織率は見る影もないほど低い。なお、派遣労働者の組織化については派遣元・派遣先の隘路が克服可能な労働組合の組み立て方や、そのサブシステム(例えば産業・職種横断的な統一労働協約、そのための労働者派遣事業体の連合団体と派遣労働者の組合の連合体の交渉・協議の場の設定)の確立が必要になるだろう。
組織率が際立って低い中小企業の労働組合設立に資するべく中小企業にも労使協議体設置を義務付ける法制度を策定し、その労使協議体の労働者代表の選出団体を労働組合化するという、中小企業にも労働組合を!を眼目にした法制化の動きがある。事の成否が煮詰まった話ではないが、いろいろな方途を駆使するという意味で検討する余地のある話だと思う。 労働組合(産別の単位)が組織化に格段の努力を傾注出来なければ、日本の労働運動はジリ貧の道をたどり、やがて自然死に至るしかない。
SNS、AIの時代の労働運動の在り方を探求するのも否定はしないが、日本の労働運動のポテンシャルの低下を喰い止めるため、組織化の活動への意識改革と地道な熱意あふれる活動が待望される。
経営側も、未組織の関連企業の組織化に、親会社の組合が事前相談などを契機にアプローチし始めると、そのアプローチを嫌悪し、組合役員に組織化を止めるよう働きかけたりするような不当労働行為まがいの挙動に及ぶことは、厳に慎んでほしい。
早すぎる大卒組合員の非組合員化の時期
もう一つの日本の労働組合組織率の低さの原因として、日本的な労歴観が組合員の範囲にも影響を与え、大卒で30歳前後に達すると非組合員化する企業が多い。大卒社員が課長相当職(スタッフ職でも)になると職種・職域を問わず非組合員となるルールのもとでは、社員の中での大卒比率が高まるほど、組合員減少のテンポは早まる。大変難しいテーマにはなるが学歴と組合員範囲の年限の問題に関する緩和策はないのか、検討してみる必要はないのであろうか。
組織化範囲の民主化のレベルを測るリトマス試験紙―まず20%超を!
「労働組合組織率は、その国の民主化のレベルを測るリトマス紙」と言われるが、全体主義的運営の色が濃い共産圏の国々の組織率は概して高い。北欧は組織率が高いがその理由は失業保険の胴元を労働組合がやっているから。学歴観が異なる仏や米が低いのは何故か等々、組織率をめぐるコメントもいろいろあるが、日本の組織率もせめて20%を超えればと思っている。
重ねて訴えたい。少なくとも労働組合専従役員の最も重要な活動は組織化である。「組織化」という単語の匂いをかぐこともなく専従役員の任期を過ごすことは許されないことだと猛省を促したい。
(2024年12月15日号掲載)
執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。
おことわり
髙木剛氏は2024年9月2日に逝去されました(80歳)。謹んで哀悼の意を表します。本連載については、筆者より寄稿頂いた原稿(全22回)を最終回まで掲載いたしました。