分科会B「付加価値創出の実現」要旨
お客様の心動かす体験が鍵
登壇者
中村栄輔 モスフードサービス 代表取締役社長
長久保達也 東京エレクトロン コーポレートオフィサー Global Business Platform本部 ファイナンス本部担当 専務執行役員
<モデレーター>安田洋祐 大阪大学大学院経済学研究科 教授/エコノミクスデザイン 共同創業者
分科会Bは「付加価値創出の実現」をテーマに行われた。ゲストスピーカーとして、モスフードサービス代表取締役社長の中村栄輔氏と東京エレクトロンコーポレートオフィサー専務執行役員の長久保達也氏、モデレーターとして、大阪大学大学院経済学研究科教授でエコノミクスデザイン共同創業者の安田洋祐氏が登壇した。
安田氏は、「日本企業は技術力で高い価値を生み出している。それが価格に反映できず、収益に十分に結びついていない」と述べた。企業の競争力について、「モノや価格の優位性だけでは語れなくなっている」と指摘。「付加価値」をどう生み出し、どう持続させるのかについて事例発表後、意見交換が始まった。
現場で考え、心を動かす体験を提供
中村氏は、「お客様の心を動かす体験が鍵」と述べた。定番商品に加え、ライスバーガーやグリーンバーガー(動物性食材不使用)など商品を多様化。生野菜は、協力農家から調達。産地、生産者を店内に掲示する。厨房では、野菜を「丸」のまま、注文を受けてから包丁を使って調理する。創業以来、マニュアルを超えた「体験価値」を磨き、差別化を図ってきた。母の日など店舗イベントもある。
モスバーガーの強みは、おいしさ、商品の質、価格だけではない。「ありがとう」と言ってもらえる接客だという。中村氏は、「それは、お客様が商品を選んだ納得感、現場スタッフのおもてなしに対するものであり、ブランド価値そのものになっている」と述べた。こうした消費者との接点を「付加価値」に昇華させている。
中村氏は、「現場は自らの頭で考え、お客様と向き合っている。現場を信じ、それを支えていく。それが結果として、お客様の満足につながっていく」との見方を示した。
顧客と密接に連携して「共創」する
東京エレクトロンは、半導体製造装置では世界有数のシェアを持つ。長久保氏は、「変化が激しく、技術革新のスピードも速い。変化への対応力が成長の源泉」と述べ、技術に加えて「人」の力の重要性について語った。
長久保氏は、「顧客企業と次世代技術を共創する開発体制が強みだ。現場の技術者が顧客の課題を深く理解し、自ら提案することが当たり前の文化になっている。どうすればもっと良くなるかについて考え抜く。その姿勢こそが付加価値になる」とした。顧客ごとに最適なソリューションを設計。技術的優位性を確立しているという。また、リスクを適切に管理しながら、変化の中でも「攻めのガバナンス」を経営改革に取り入れている。これが、事業の成長につながる。
経営理念、人材育成、制度改革、経営者のリーダーシップ。これら4つが組織全体を貫き、変化に対応していく。例えば、管理職が経営理念を自分の言葉で再定義することで、現場での浸透、理解が進むという。
差別化だけでは価値は伝わらない。付加価値創出を通じた生産性向上の源泉は結局、「人」。現場が考える文化や自律的な人材をどう育てていくのか。討論では、経営と現場をつなぐ「人と組織」の在り方について議論が深まった。
(生産性新聞2025年8月5日号掲載)
登壇者略歴
中村 栄輔 モスフードサービス 代表取締役社長
1958年福岡県生まれ。1982年中央大学法学部卒。1988年モスフードサービス入社。1995年法務部長、1997年社長室長、法政大学院修士課程修了(経営学修士 MBA)。2007年執行役員 第四営業本部長、2008年執行役員 モスフードサービス関西代表取締役社長、2010年取締役執行役員 開発本部長、2012年ハーバードビジネススクールAMP修了、取締役執行役員 営業本部長、2014年常務取締役執行役員、2016年代表取締役社長(現任)。
長久保 達也 東京エレクトロン コーポレートオフィサー Global Business Platform本部 ファイナンス本部担当 専務執行役員
1986年東京エレクトロン入社。2004年財務部部長、2010年人事部部長兼人材開発センター長、2011年執行役員兼人事部長兼人材開発センター長、2015年取締役人事・総務本部長/CSR推進担当執行役員、2017年取締役 人事・総務・CSR推進担当常務執行役員 コーポレート管理本部 副本部長、2022年コーポレートオフィサー 専務執行役員 Global Business Platform本部 本部長などを経て現職。
安田 洋祐 大阪大学大学院経済学研究科 教授/エコノミクスデザイン 共同創業者
政策研究大学院大学助教授、大阪大学経済学部准教授を経て、2022年7月より同大学教授。専門はゲーム理論、マーケットデザイン。American Economic Reviewをはじめ、国際的な経済学術誌に論文を多数発表。2020年6月にエコノミクスデザインを共同で創業。政府の委員やテレビのコメンテーターとしても活動。主な著書(共著)に『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』(2024年)など。
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