パネルセッション「次代を担う経営者の挑戦」要旨
テクノロジーで介護の課題解決
登壇者
宇井吉美 aba 代表取締役CEO
曽根岡侑也 ELYZA 代表取締役CEO
<モデレーター>冨山和彦 IGPIグループ会長 / 日本共創プラットフォーム (JPiX)代表取締役会長
社会課題解決をビジネスに
パネルセッション「次代を担う経営者の挑戦」では、ゲストスピーカーにaba代表取締役CEOの宇井吉美氏と、ELYZA代表取締役CEOの曽根岡侑也氏が登壇した。モデレーターは冨山和彦氏が務めた。
祖母と中学時代の自分を救う
宇井氏は「テクノロジーで誰もが介護がしたくなる社会をつくる」をビジョンに掲げて、起業。中学生の時、ラーメン店を営む両親の代わりに〝育ての母〟だった祖母がうつ病になったことをきっかけに介護に関心を持ち続けている。
介護ロボットを開発するために千葉工業大学に進学。介護現場を視察し、答えのない課題に悩みながら、日々向き合っている介護職の人たちに対するリスペクトを抱いた。
abaが開発したヘルプパッドは、「おむつを開けずに中が見たい」という介護現場の声に応えた製品だ。介護施設では、おむつ交換にかける時間が長く、あけてみたら空振りだったり、タイミングを逸して尿便漏れするなど、おむつの中の情報を把握することが課題だ。
15年かけて開発したヘルプパッドは、約37万回の排泄データを収集して精度を高めた匂いセンサーが、おむつの中の状態を知らせることができる。導入した施設では、おむつの確認回数が35%減、空振り回数90%減、漏れ回数86%減と効果を発揮している。
宇井氏は「今後は、海外展開を進める予定で、すでにシンガポールで実証実験を行い、本格運用に向けて進行中だ。介護領域にとどまらず、病気を見つけることにも応用できるはずで、医療やその他の業界にも展開したい」と話した。
失敗から学んだ教訓を生かす
一方、ELYZAは2018年、東京大学松尾研究室からスピンアウトしたスタートアップで、生成AIの中核技術である大規模言語モデル(LLM)に特化したAI企業。同規模のモデルサイズの中で、日本語性能や推論能力が高いモデルの開発に成功し、大手企業などの社会実装の実績もある。
最初の創業チャレンジは、11年前の2014年に遡る。知人とスマホアプリ開発のノーコードサービスを2016年にリリースした。1アプリ月1万円で売ってしまったことで採算が合わず苦境に。サービスリリースして1カ月後、共同経営者の知人が離脱してしまったことで、事業の継続をあきらめた。曽根岡氏は「仮説を実行して社会に問いかけることは楽しいし、先端技術を扱っていること自体も楽しい。しかし、ビジョンがない活動は途中で辛くなる」との教訓を得た。
2年後に「未踏の領域で当たり前をつくる」を掲げて、ELYZAを立ち上げて、再チャレンジを試みる。「過小評価されている技術・課題・モノを見つけ、それらに賭けることができるアンダーバリュー投資」と、より長期的な視点で最適化を行うロングタームグリーディーを意識した。
そして、チャットGPTの登場による環境の変化に対応し、2024年4月から、KDDIグループ入りし、KDDIの計算基盤・営業基盤をもとに、LLMの開発・社会実装を加速している。
(生産性新聞2025年8月5日号掲載)
登壇者略歴
宇井吉美 aba 代表取締役CEO
中学時代に祖母がうつ病と診断され、介護家族となった経験を元に、介護者を支えるロボット開発の道に進む。2011年千葉工業大学在学中に株式会社abaを設立。学生時代、実習先の特別養護老人ホームにて「おむつを開けずに中が見たい」という介護現場の願いを聞き、においで検知する排泄センサー「Helppad (ヘルプパッド)」を開発・製品化。おむつ交換タイミングの最適化や排泄情報の活用により介護する人・される人双方の負担軽減を目指す。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2024」(日経BP主催、内閣府後援)に選出。
曽根岡侑也 ELYZA 代表取締役CEO
東京大学大学院工学系研究科松尾研究室修士卒。学生時代に未踏プロジェクトに採択され、起業を経験。その後、松尾研究室にて共同研究のプロジェクトマネジャーやNLP講座の企画・講師を務める。2018年にELYZAを設立。同社は、生成AI(人工知能)の基盤となる大規模言語モデル(LLM)の開発を手掛け、2024年KDDIの連結子会社となる。KDDIはLLMの開発に欠かせない計算基盤の整備に今後1000億円規模の投資をすると発表。2020年より、株式会社松尾研究所 取締役を兼任。未踏クリエイタ。
冨山和彦 IGPIグループ会長 / 日本共創プラットフォーム (JPiX)代表取締役会長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年 経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年10月よりIGPIグループ会長。 2020年 日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立。 メルカリ社外取締役、日本取締役協会会長。内閣官房新しい資本主義実現会議有識者構成員、内閣府規制改革推進会議議長代理、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、国土交通省インフラメンテナンス国民会議会長、他政府関連委員多数。 主著に『ホワイトカラー消滅私たちは働き方をどう変えるべきか』『コーポレート・トランスフォーメーション日本の会社をつくり変える』『コロナショック・サバイバル日本経済復興計画』『「不連続な変化の時代」を生き抜く リーダーの「挫折力」』『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』他。 東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。
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