「主体性と共感力、人を巻き込む力を養う」
東原 敏昭 日立製作所 取締役会長 代表執行役 基調講演要旨
内なる国際化を進め 国も企業も元気に
東原 敏昭 日立製作所 取締役会長 代表執行役
未来を予測、ビジョンを持つ
東原氏は日立に入社して以来、35年間、現場経験を積んできた。日立が2009年3月期に7873億円の赤字を出さなければ、「自分は社長になることはなかった」と言う。企業が危機の中にある時こそ、「現場を知っている人間が舵取りした方が良い」と話す。
東原氏は、「市場はグローバルであり、日本の市場だけを見ていれば、その会社は数年後に淘汰される」とし、「リーダーの役割は5年後、10年後にどうなるのかを予測し、ビジョンを持つことだ」と述べた。
変化に対する柔軟な対応力のほか、自分と違った考えの人の意見を聞く「傾聴力」が重要であり、「AIを使わない企業も、やがて淘汰される」とも述べた。
日立は、十数年の改革を経て、社会から地球規模の課題に至るまで、様々な難問の解決に取り組む社会イノベーション事業を推進する企業へと変貌を遂げた。「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げ、時代と共に変わりゆく社会の課題に応えている。
日立が危機に陥った原因について、東原氏は「大企業病」を挙げる。終身雇用のもと、本音と建前を使い分け、他人に合わせる一方、自分の仕事に関しては完璧主義を貫く「日本人気質」が官僚主義を生んだ。組織の硬直化、人材の固定化によって、「赤信号みんなで渡れば怖くない」という風土が広がった。
東原氏は「これは日本人が陥りやすいパターンだ。もう一度、社内がこういう状態になっていないか、チェックすることが大事だ」と話す。多様性がなく、画一的な経営を推進すれば、大企業病の穴に落ちやすい。
2040年も人間中心の社会
2014年社長に就任。ライバルのGEが進めたデジタル改革に対し、日立は、強みであるITとOT(制御・運用技術)と、110年の歴史を持つプロダクトをバランスよく掛け合わせ、イノベーションの創出によって、顧客の課題を解決する戦略で勝負することを決断した。
中期経営計画ごとに目標を定め、段階的に復活から成長に向けた取り組みを推進した。社内カンパニー制を廃止し、経営単位を小さくしビジネスユニット制を導入し、ユニット長会議で課題解決を探った。
ポートフォリオの入れ替えを進めるため、子会社の経営陣とパートナーを選んで世界に打って出るにはどうするべきかを議論した。売上高30%相当の事業を入れ替えた。連結上場会社は、2006年に22社だったが、22年にはゼロにする一方、さらなる成長のためにABB送配電事業やTHALES鉄道信号事業、GlobalLogicなどを買収した。
今後は、自律的に行動する各要素の相互作用によって全体として機能する自律分散型グローバル経営の構築を加速させる。社長と考えを同じくし、共通の資源を活用する。各地域に権限委譲し、顧客に対するレスポンスを迅速化する。イノベーション事業を創生する戦略SIBビジネスユニットとして、デジタルをコアにした「One Hitachi」の実現を目指す。
東原氏は「社会やお客様の課題を主体的に引き出し、より良い価値を提供し続けるループを回すことが大事だ。社会課題に気づくには、自分ごとで考える主体性と、多様性を理解する共感力、人を巻き込む力が重要になる」と話した。
また、「AIがどんなに発展しても、2040年は人間中心の社会でなければならない。未来からバックキャストし、ビジョンを作り、具現化する実行力が求められている」と話した。
(生産性新聞2025年8月5日号掲載)
登壇者略歴
東原敏昭 日立製作所 取締役会長 代表執行役
1977年日立製作所入社。電力や鉄道など様々な分野の制御システムの品質保証や取り纏め業務に長く従事。国内外の子会社社長等の経営経験を経て、2014年執行役社長兼COO兼取締役、2016年執行役社長兼CEO兼取締役、2021年執行役会長兼CEO兼取締役、2022年4月より現職。社外でも経団連において副会長を経て審議員会副議長を務めるほか、日本科学技術振興財団理事長などを務め、社会課題解決や科学技術教育支援に尽力。
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