分科会B「顧客と創る新たな付加価値~期待を超えるサービスの実践」要旨
顧客と探る新たな価値
登壇者
天沼 聰 エアークローゼット代表取締役社長兼CEO
大西 啓介 ナビタイムジャパン代表取締役社長
<モデレーター>松井 拓己 サービスサイエンティスト/松井サービスコンサルティング代表
分科会Bは、日本サービス大賞の受賞企業によるセッションとして開かれ、エアークローゼット代表取締役社長兼CEOの天沼聰氏と、ナビタイムジャパン代表取締役社長の大西啓介氏が、サービスの付加価値を高める構造的、組織的な取り組みについて掘り下げて議論した。
両社は、顧客視点を起点に、技術や人材を生かして新たな価値を生み出す仕組みと実践例を具体的に紹介し、今後の展望についても語った。ビジョンを判断軸とする経営や、技術資産を生かした事業創出、顧客と期待を探る姿勢の重要性も改めて共有した。モデレーターはサービスサイエンティストの松井拓己氏が務めた。
ビジョンを判断軸に
天沼氏は、「ワクワクが空気のようにあたりまえになる世界へ」を掲げ、時間の価値を高めることを事業の核に据えていると説明した。買い物に時間を割けない女性に、スタイリストが選んだ服を届けることで、何が届くか分からない楽しさも提供する。
事業や施策の可否は、時間価値の向上、顧客体験(UX)の最大化、ブランド価値の向上という三つの軸で判断する。会議には顧客を象徴するクマのぬいぐるみを置き、常に利用者の視点を意識する。社員のエンゲージメントも定期的に数値化し、ビジョンの浸透と組織改善につなげている。新入社員には、入社直後から実際の課題に取り組む機会を設け、組織の価値観を体験しながら理解させる。既存の文化に合わせるだけでなく、新たな価値観を加える「カルチャーアド」の考え方も重視している。
技術資産から事業創出
大西氏は、少ないメモリで経路を探索する技術を基盤に事業を広げてきた経緯を紹介した。社員が自ら欲しいと考えたサービスを起点に、日陰を選んで歩ける地図や自転車向けナビなどを開発。試作品を小規模に公開し、利用者の反応を踏まえて段階的に拡大する。
全社員が新規事業を提案できる「ナビタイムチャレンジ」を設け、技術資産を生かせるか、社会に貢献できるか、事業として成立するかの三条件で判断する。開発を内製化し、技術とデータを社内に蓄積している点も競争力となっている。社員の約9割をエンジニアが占め、新卒採用を中心に技術者を育成する。AIの活用を前提に教育内容も見直し、技術を使う力だけでなく、解くべき課題を見極める力を養っている。
顧客と期待を発見
松井氏は、顧客が既に諦めている期待や、一見すると欲張りに見える要望を捉える視点を提示した。企業が一方的に提案するのではなく、顧客と共に課題や期待を探る「探索型」のサービスモデルへの転換が重要だとした。
両社は、AIをスタイリング支援や在庫管理、旅行計画などに活用する。効率化にとどまらず、独自データと人の深い課題解決力を組み合わせ、競争優位につなげる考えだ。天沼氏は、人事評価制度もAI活用を前提に見直していると説明。大西氏は、自社で蓄積した移動データや経路探索技術を外部との差別化につなげる重要性を強調した。
AI時代ほど、誰のどのような時間や体験を豊かにするのかという原点が問われるとの認識を共有した。
(生産性新聞2026年8月5日号掲載)
登壇者略歴
天沼 聰 エアークローゼット代表取締役社長兼CEO
ロンドン大学にて情報・経営を学び、帰国後アビームコンサルティングにてIT・戦略コンサルタントを約9年間従事。2011年、楽天に移籍し、UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務める。2014年7月、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに掲げ、エアークローゼットを創業。2015年2月、日本初の普段着に特化した月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」を立ち上げる。2022年「第4回 日本サービス大賞」内閣総理大臣賞受賞。
大西 啓介 ナビタイムジャパン代表取締役社長
1993年に上智大学大学院理工学研究科電気電子工学博士後期課程を修了、株式会社大西熱学に入社。環境試験装置のアルゴリズムやソフトウェア開発に携わる。1996年、大学の後輩(現副社長兼CTO)とともに、社内ベンチャーとして経路検索エンジンビジネスを立ち上げる。1998年、モバイル向け経路探索地図描画に関するアルゴリズム及び独自データフォーマットを開発。世界初の多様な移動手段に対応したトータルナビゲーションを完成。2000年3月に株式会社ナビタイムジャパンを設立、代表取締役社長兼CEOに就任。2025年「第5回 日本サービス大賞」内閣総理大臣賞受賞。
松井 拓己 サービスサイエンティスト/松井サービスコンサルティング代表
1981年岐阜県生まれ。ブリヂストンにて商品開発および新規事業開発PJリーダー、平均年齢62歳170名の専門家が集うワクコンサルティングの副社長を経て、現職。目に見えない“サービス”の本質を科学する「サービスサイエンス」を活かして、業種を問わず様々な企業の変革を支援。日本最高峰のサービス表彰制度である日本サービス大賞の選考専門委員、サービス学会理事、ルネサンス社外取締役なども務めている。主な著書に『事前期待~顧客価値の設計図~(2025)』などがある。
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