全体セッション「AI共生時代、経営者が描く人と組織の未来像」要旨

第69回軽井沢トップ・マネジメント・セミナー 全体セッション 要旨

競争力の源泉探る

登壇者

小野和俊 クレディセゾン取締役兼専務執行役員CDO兼CTO

野呂侑希 燈(あかり)代表取締役社長兼CEO

<モデレーター>入山章栄 早稲田大学ビジネススクール教授

<コメンテーター>冨山和彦 日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役会長

全体セッションの様子。左から小野氏、野呂氏、入山氏、冨山氏

AIが情報処理や知識の整理を担う時代、企業はどのような組織を築き、人材の力を生かすべきなのか。

全体セッションでは、モデレーターを務めた早稲田大学ビジネススクール教授入山章栄氏のもと、クレディセゾン取締役兼専務執行役員CDO兼CTO小野和俊氏と、産業特化型のAIソリューションを提供する燈(あかり)代表取締役社長兼CEO野呂侑希氏が、それぞれの実践を紹介した。コメンテーターは日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役会長冨山和彦氏

人間の仕事改めて問う

冒頭、入山氏は「AIはテクノロジーの話に見えるが、本質的には組織と人の話だ」と語り、その文脈で言及したのが、経営学者・野中郁次郎氏が提唱した「知識創造理論」だ。現場で培われた経験や勘といった言語化しにくい「暗黙知」を、人との対話を通じて共有し、新たな知識へと転換していく考え方である。
新しく出版された野中氏の知識創造の思想を辿る『日本型独創経営』(生産性出版)も紹介。入山氏は、現場でしか得られない一次情報や、人間同士の対話から生まれる暗黙知の価値は、AI時代だからこそ一層高まるとの見方を示した。

全社員がAIを使う組織へ

小野氏は、クレディセゾンで進める全社的なAI活用を紹介した。同社では生成AIを全社員3656人へ展開。月に1回以上利用する社員は約92%に達し、社員1人当たり月約100回、AIへの指示や質問である「プロンプト」を書いているという。
しかし、小野氏は「AIを配るだけでは変革は起きない」と強調する。315人が参加したパイロット調査では、AIで代替可能な業務が社員1人当たり平均で月170時間相当に及ぶことが分かった。株主総会の準備では、AIを株主役に見立てたロールプレーを実施。回答に対してAIが追加質問を重ねることで、本番さながらの訓練が可能になった。
小野氏は「AIは実際に使って初めて『仕事に使える』と腹落ちする。その体験が何より重要です」と述べ、組織への浸透には「トップダウンとボトムアップの両方が必要」と語る。経営トップがAI活用の方向性を明確に示す一方、現場では具体的な成功事例を積み重ねる。「上が本気でやるとなり、現場も賛同している。そのムードを両側からつくると、中間管理職も『自分はやらない』とは言いにくくなる」。上下から組織を動かす「サンドイッチ構造」が、全社的な変革を後押ししているという。

顧客接点が価値生む

野呂氏が繰り返し強調したのは、「現場」と「一次情報」の重要性だった。創業当初、自らGoogleマップで営業先を探し、一件ずつ飛び込み営業を続けた経験を振り返り「AIがあるから現場に行かなくていいのではない。AI時代だからこそ一次情報を取りに行く」と語る。
AIは公開情報を瞬時に集め、分析できる。しかし、現場の担当者が何に困り、何を求めているかは、実際に会って話を聞かなければ分からない。
その考え方は組織運営にも表れている。同社は完全出社を基本とし、仕切りのないオフィスで社員同士が自然に連携できる環境を整備。野呂氏も1日に50~100人の社員と対話し、週3~4回は会社のビジョンを語る。「経営者は何度でも同じことを言わなければならない」と野呂氏。
元プロスポーツ選手や甲子園経験者、ロボット世界大会準優勝者など、多様な分野で活躍してきた人材を積極的に採用。さらに建設業界経験者も迎え、「専門知識、AI、実行力を掛け合わせる組織」を目指していると説明した。
両氏の実践を受け、入山氏はAI時代の組織像を「スマイルカーブ」の視点から整理した。付加価値が高まるのは、企画や意思決定などの上流工程と、顧客接点や現場などの下流工程。その間に位置する管理業務はAIによって大きく変化していくと分析する。そのため、今後は4~5人程度の小規模チームが迅速に意思決定する海兵隊型組織や、小集団が自律的に動くアメーバ型組織の重要性が高まるという。

現場に出て知の探索を

後半は会場との質疑応答を交えながら、議論を深めた。「AI時代に中間管理職をどう育成すべきか」という質問が寄せられた。小野氏は「中間管理職が不要になるわけではない」と前置きしつつ、「間違いなく層は薄くなっていく」と述べた。ただし、その変化は急激ではなく、現場の納得を得ながら進めるべきだと強調する。「私のDXのポリシーは、否定と破壊は一切しないこと。現場の合意を得ながらスリムになり、気が付けばスタートアップのような組織になっている状態を目指しています」。
さらに、会場から、「AIが誰でも使える時代に、企業の競争力はどこで生まれるのか」と質問が投げかけられた。野呂氏は「お客様との信頼関係、ここに尽きる」と即答した。「AIの技術がどれだけ進化しても、その価値を顧客が実感できる形へ落とし込むには、人が伴走し、課題を理解し、信頼を築くことが欠かせない」と述べた。実際に訪問して初めて知る情報が必ずあるという。
入山氏もこれに深く同意した。「知の探索は、これからますます人間の役割になる。現場へ行き、人と話し、その場の空気を感じる。その先でしか得られない情報があり、そこに人間の価値がある」と述べた。

(生産性新聞2026年8月5日号掲載)


登壇者略歴

小野 和俊 クレディセゾン 取締役兼専務執行役員CDO兼CTO

1999年サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。米国本社での開発などを経て2000年に株式会社アプレッソを起業、データ連携ミドルウェアDataSpiderを開発し、SOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞。2013年に株式会社セゾンテクノロジーとアプレッソが資本業務提携。2019年に株式会社クレディセゾンへ入社。取締役CTOなどを経て、2023年3月より現職。Forbes CIO Award 2021準グランプリ、日経クロステックCIO/CDOオブ・ザ・イヤー 2023特別賞受賞。

野呂 侑希 燈 代表取締役社長兼CEO

東京大学工学部卒業。高校1年次にYahoo!OpenHackUで審査員特別賞を受賞。入学後、東大松尾研主催のGCIで優秀賞受賞。2020年に新卒就活向けHRテック企業を創業。松尾研究所にて上場企業とのAI共同研究やコンサルティングに従事。2021年燈株式会社を創業、CEOに就任。『Forbes JAPAN 30 Under 30 2022』選出。2026年1月、三菱電機から企業評価額1,000億円超で約50億円を調達。ユニコーン予備軍の仲間入りを果たす。

入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授

慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008年米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。

冨山 和彦 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長

ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立。メルカリ社外取締役、日本取締役協会会長。内閣府規制改革推進会議議長代理、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、他政府関連委員多数。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

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