第16回 デジタルとロボット活用で変わる建設現場 大林組
連載「ミライを変える革新力」⑯ デジタルとロボット活用で変わる建設現場 大林組
国境を超えた施工管理
シンガポールの建設現場。工場で製作された巨大ユニットがタワークレーンで吊り上げられ、ゆっくりと高層階へとはめ込まれていく。遠隔操作室では、技術者がモニターを通じ、重機を安全に操る。タワークレーンの動きと建物をリアルタイムで同期し、干渉(接触)リスクをAIが即座に検知。万一の事態には、非常停止が自動で作動する。
これにより、作業の安全性と生産性向上、技能補完と省人化を実現した。東京から技術者たちが、デジタル空間上で、遠隔監視を行う。東京にいながら、鉄骨を組んでいるかのようだ。
大林組は、シンガポールの関係省庁と議論を重ね、安全ルールを策定し、当地で自動施工の普及にも貢献。現実世界(現場)と仮想空間上で再現したデジタルの双子(ツイン)を活用することで、距離を超えた施工管理が現実のものとなった。
ロボットと人の両者の最適分担
建設現場の光景が大きく変わろうとしている。大林組ロボティクス生産本部技術開発部長の三輪敏明氏は次のように述べた。「建設業界は、熟練技能者の引退や少子高齢化による人手不足、さらには、働き方改革による労働時間制限などに直面している。高い技術を持つ職人さんに頼る体制は維持できなくなる可能性がある」。
こうした状況を打開する切り札として、大林組が力を入れているのが、「ロボティクスコンストラクション」だ。サイバー空間を新たなフィールドとして、人とロボットが協調し、高め合い、持続可能な建設プロセスを実現する「新しい建設のかたち」だ。 三輪氏は「デジタルツインやロボットで建設プロセスを変革し、生産性向上と安全性を同時に高めていく。熟練者の技能はデジタル化することで、次世代に継承する。人とロボットは、それぞれ得意分野を生かしていく。例えば、鉄骨柱の多層溶接ロボットや耐火被覆吹付ロボットは既に開発済だ。ロボットは重労働、反復性作業に集中する。人は判断力を要する複雑工程を担当する。一方で、溶接不要化設計や代替耐火工法といった作業そのものをなくす設計的なアプローチも同時並行で検討が始まっている」と説明する。
施工中は、現場のデジタル情報をもとに、デジタルツインを構築して、現実空間とデジタル空間を同期させて施工管理を行う。建設現場の上空では、ドローンが舞う。施工中または施工後の状態を空中から撮影、計測、記録する。
デジタルツインを活用した次世代クレーン運転支援システム。画像は大林組提供
創業の原点「三箴(さんしん)」の精神息づく
大林組は1892年(明治25年)、大林芳五郎氏によって大阪で創業。近代日本の成長と共に歩みを進め、数々の大型建築に携わってきた。東京中央停車場(現東京駅)の駅舎の施工や、ダムや橋梁などの大型インフラの整備を担ってきた。戦後は、広島平和記念資料館のほか、日本を代表する公共施設を担当。高度経済成長期に超高層ビル建設にも参入。東京スカイツリー、熊本城天守閣復旧プロジェクトなど時代や文化を象徴する事業を手掛けてきた。
「良く」、「速く」、「廉(やす)く」。創業以来受け継がれてきた精神「三箴(さんしん)」(「箴」は戒めの意)。「良く」とは品質についての「箴」。卓越した技能を緯(よこいと)とし、最善の努力を経(たていと)として、「優良工作物」を織り出す。優れた技術による誠実なものづくりを通して、新たな価値を提供し、社会に貢献してきた。その理念は、130年以上にわたり、脈々と続いてきた。
多様な人が参加可能な建設現場に
大林組が将来像として描くのは、サイバー空間と現場をより連携させ、複数の現場を統括管理していく施工管理だ。ロボットの活躍もあり、効率化が進み、労働時間も減る。
モニター画面上で、大型重機を操作し、ドローンからの情報データを分析。作業の形も大きく変わる。多様な人たちが、自分にあった働き方で、建設業に携わる。そんな「持続可能な建設の未来」へとつなげていく。
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