第19回 世界をリードする顔認証、暮らしの中へ NEC

連載「ミライを変える革新力」⑲ 世界をリードする顔認証、暮らしの中へ NEC

顔パスは空港、病院、鉄道改札へと広がる

成田国際空港の朝。チェックインカウンターには、パスポートを出さずにゲートを通る人たちの姿がある。搭乗券もいらない。カメラの前に立つだけで、扉が静かに開く。
NECの顔認証技術が搭載されたシステムが搭乗者の顔画像を一度登録すると、パスポートと顔の照合を自動で行う。手続きの待ち時間が短縮され、旅のはじまりがスムーズになる。
NECは、顔認証技術を世界最大の航空連合スターアライアンスに提供する。さらには航空系ITソリューションプロバイダーであるSITAとも協業。フランクフルト、ミュンヘン、ウィーン、ハンブルクの4空港におけるサービス運用をはじめ、世界の空港における導入数は延べ80を数える。出入国管理や税関申告、搭乗手続き、おもてなし等、さまざまな用途での活用が進んでいる。
ある病院の受付。NECの顔認証システムが、初診時に患者の顔を登録。再来院の患者がカードを出す必要がない。鉄道では「ウォークスルー」改札の実証実験も進む。2025年大阪・関西万博では、入場や決済に顔認証が使われ、トラブルもなく運用を終えた。一般利用への信頼が確実に高まった。

顔認証技術、世界一の評価獲得

「NECでは、生体認証の取り組みを何十年も続けています」。そう語るのは、NECバイオメトリクス・ビジョンAI統括部プロフェッショナルの高島慎也氏だ。その歩みは、高度成長期、「光学文字認識技術」を用いた郵便番号の読み取り機の開発から始まった。さらに、指紋認証といった警察の犯罪捜査など、正確さが最も求められる分野で技術を磨き続けた。80年代後半から挑戦したのが顔認証だった。
当初、顔認証は「3割程度は間違える」といわれた。照明や角度が少し違うだけで誤認識が出た。そこから10年以上にわたり、「顔検出」、「特徴点検出」、「顔照合」の技術開発を進めた。膨大な画像データをAIに与え、何万回も研究を繰り返した。失敗しても諦めなかった。
2009年、世界中のIT企業、研究機関が参加する米国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストにおいて、世界No1を獲得。以来、何度も世界一の評価を重ねてきた。

顔認証
顔認証端末の前に立つと、カメラが顔を読みとって本人確認する
"
マスクをつけたままでも本人確認ができる(左右共NEC提供)

磨き続ける見分ける力

特に、経年変化への対応の強さはNECの大きな強みだ。パスポート更新のように10年単位で本人確認が必要な場面でも高い精度を維持できる。
高島氏は「顔は光の加減や表情、年齢で大きく変わります。だからこそ、変化しにくい特徴、例えば目と目の距離や鼻や口の形状などを抽出して判定するアルゴリズムを磨き続けてきました」と説明する。コロナ禍で全員がマスクを着ける状況でも、NECの顔認証は、鼻まで覆っていても99.9%以上の認識精度を実現した。
生体認証には、顔だけではなく指紋や静脈、虹彩(こうさい)など多様な方式がある。NECはそれぞれの特性を理解したうえで、複数の生体情報を組み合わせる「マルチモーダル生体認証」にも力を入れてきた。
指紋は摩耗に弱く、静脈は寒さで血流が減ると反応しにくい。そこで指紋と静脈を同時に読み取る方式を開発した。非接触で使える〝顔+虹彩〟の組み合わせも増えている。

進化する技術は実用価値へと転換

NECは、1899年に日本初の外資系ベンチャー企業として誕生。通信技術のベンチャーから始まり、ICT企業としてコンピューターや携帯電話事業で成長。現在は第3 の創業期を迎え、テクノロジーを核にイノベーションを生み出し続けている。
顔認証は技術の進化だけでなく、実用面でも価値を生み出すことが重要となる。NECでは、インバウンド需要の急増を背景に空港をはじめとする交通機関やアミューズメント施設など、多人数が集まる混雑下においても人物を継続して認識し続ける技術を開発。1分間に100人のリアルタイムな認証により、多人数が立ち止まらず自然に歩きながらのスムーズな入場を実現、行列や混雑の緩和に貢献する。

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