第18回 1枚のガラスが社会を大きく変える AGC
連載「ミライを変える革新力」⑱ 1枚のガラスが社会を大きく変える AGC
窓から差し込む朝の光。人の心を整え、地球の未来さえも変えていく。ガラスは「透明な板」から、エネルギーを生み出し、情報を伝え、心を癒す素材へと進化している。その最前線に立つのが、AGC(旧旭硝子)だ。
明治の終わり、日本の板ガラスは輸入頼みだった。様々な企業が国産化に失敗する難しい事業。「日本の街を、日本のガラスで輝かせたい」。そう決意した若い技術者がいた。創業者の岩崎俊彌氏だ。1907年、旭硝子株式会社を設立。兵庫県尼崎市に工場を構えた。試行錯誤の末、1909年、ついに国産板ガラスが生まれた。「易きになじまず難きにつく」。創業の精神は、脈々と続くAGCグループの事業の原点だ。
1950年代から、テレビのブラウン管用ガラスや自動車ガラス製造をスタート。高度経済成長の影で公害問題が深刻化する中、1975年、苛性ソーダ製造で水銀を使わない電解法を開発。1990年代には代替フロン「AK225」、2000年代にはスマートフォン用強化ガラスを生み出した。
建築ガラス、快適性と創エネの両立
温室効果ガス排出の約4割は建築・建設とその後の運用に伴うものだ。AGCは、省エネ性能に優れた「Low-E複層ガラス」に加え、既存建物にも後付けできる「アトッチ」を開発した。AGCは「足場不要、短工期で、既存窓を高機能化できる」と説明する。窓改修のハードルが高かったが、「アトッチ」により、古い建物のままで、省エネ性と快適性を両立させた。
注目されているのが、「NEB(NonEnergyBenefit)」の発想だ。「高機能ガラスが室内温度を安定させ、ヒートショックや熱中症のリスクを低減する。自然光は、人の心と体の健康に影響を与える」(AGC)。光がもたらす心理的・生理的効果を科学的に研究。WEBサイト「ミライヲテラス―光と心の研究所」で発信している。
さらに、建材一体型太陽光発電ガラス「サンジュール」によって、ビル外壁や手すりが〝発電部位〟に変わる。都市空間の「外皮」そのものがエネルギーを生み出す――。「創エネ」を都市機能に組み込む取り組みも進む。
車が通信するモビリティに
自動運転とEV化が進む自動車業界でも、ガラスは主役の1つだ。AGCは、LiDARやカメラなど自動運転の〝目〟を支える高透過・低反射ガラスを開発。赤外線カメラ対応ウィンドシールドや、ルーフガラス内蔵型の5Gアンテナを実用化し、車を「通信するモビリティ」へと変えつつある。
EV向けには、遮熱・遮音・調光機能を併せ持つ複合ガラスで空調負荷を軽減。太陽光発電ガラスルーフを組み込むことで、車そのものがエネルギーを生み出す仕組みも現実味を帯びてきた。ガラスは今、移動空間の快適性とエネルギー効率を同時にデザインする「インテリジェンス素材」だ。
窓を通信基地化するガラスアンテナ
1枚のガラスを窓に貼るだけで屋外を5GC移動通信エリア化する。そんな画期的な製品を開発した。ガラスアンテナ「WAVEATTOCH」だ。
また、ディスプレイ一体型ミラー「ミラリア」は、鮮明な映像を表現する。デジタルサイネージへの利用など新しい表現の可能性を形にしている。
AGCのもう1つの主力が、半導体材料事業だ。ガラス・化学・セラミックス分野で長年培った高い技術力が強みだ。顧客ニーズに基づいた技能開発力とグローバルな製造・供給体制もある。
製造プロセスの脱炭素化にも挑む。ガラス製造の要である溶解窯の燃料を半分電化する。残りは酸素とガスの混合燃焼でまかなうハイブリッド窯を実証実験中だ。さらに、建築物の解体で発生する廃ガラスを再び板ガラスに戻す〝水平リサイクル〟や、使用済み太陽光パネルのカバーガラスを再利用する技術も確立。その取り組みは大阪・関西万博で展示された。
「Blue planet」「Innovation」「Well-being」。この3つの価値を柱にAGCは、〝透明な素材で未来をデザインする企業〟として進化を続けている。
- ※日本企業は世界を変えるイノベーションの数々を生み出してきた。企業の革新力の源泉に触れつつ、新たなビジネス展開の動きを探っていく。
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