第21回 AIを活用し、企業と価値を共創する リコー
連載「ミライを変える革新力」㉑ AIを活用し、企業と価値を共創する リコー
東京・港区。「RICOH BIL TOKYO」(RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO)の扉を開けると、自然光が降り注ぐ広々とした空間が現れる。ゆるやかな曲線を描くテーブルやソファが心地よく配置され、壁面には大型ディスプレー。〝対話のための舞台〟として設計された空間だ。
年間に訪れる企業は約400社。製造、物流、小売――業界は多岐にわたる。来訪者の8割以上がトップマネジメント層という。この場所を立ち上げたのは「RICOH BIL TOKYO」のGeneral Managerの菊地英敏氏だ。「AIを活用した価値共創拠点です。経営者の皆さまと対話を通じて洞察と問いを深め、気づきの臨界点を生む場所です」。例えば「工場のこのプロセスでは、こうしたデジタルサービスが大幅な効率化につながるのではないか」。経営者との対話は、こうした「価値仮説」の提案から始まり、約2時間にわたって深まっていく。
経営者の〝ありたい姿〟を掘り起こす
これまで「価値仮説」の作成は、担当者が膨大な情報を調べ、資料を読み込み、組み立てる作業だった。現在はAIツールとリコーの技術を活用し、仮説提案の準備を大幅に効率化できるようになった。菊地氏は「準備時間が大幅に短縮され、担当者は仮説の質を磨くことに集中できるようになりました。生産性向上がそのまま〝思考の質〟の向上につながっています」と語る。
RICOH BIL TOKYOでは「ビジネスデザイナー」と呼ばれる専門家集団が未来起点でバックキャストし、経営者が描く〝ありたい姿〟を可視化。理想とギャップを共に発見し、問いへと変換する。対話の中では、リコー自身の改革事例も提供する。象徴的なのが、115部署、900人以上が参加した「企業内DXプロジェクト」。従来業務を徹底的に棚卸しし、集約・自動化・移管を検討。10カ月という短期間で20%の業務効率化を達成した。机上の理論ではなく〝自分たちがやってきたこと〟を語れることが大きな強み。経営者の心に深く刺さる。
アイデアを〝可視化〟する会議
施設奥のガラス張りの会議室では、ひと味違う企業ワークショップが行われていた。参加者が自由に話すだけで、AIが発言内容を30秒ごとに要約し、壁にデジタル付箋がパッと貼りつくように現れていく。話せば話すほどアイデアが形を成し、議論が立体的に深まっていく。そんな〝クリエーティブな会議体験〟が自然と生まれる仕掛けだ。
この空間は、360度カメラ「RICOH THETA」で撮影した点群データをもとに維持管理に最適にデータを構造化。デジタルツインとして再現する。150点以上の固定資産情報にタグ付けすることで、直観的な管理が可能になる。Webブラウザーで3D表示・閲覧できる。棚卸しの作業時間を大幅に短縮。誰が担当しても〝再現性の高い仕事〟へと変わった。いわゆる企業の暗黙知の形式知化だ。建物や設備管理など様々な業務領域で活用できる。
紙ドキュメント問題に挑む
もう1つは、企業内に長年堆積してきた紙ドキュメントの問題だ。貴重な経営資源でありながら、その複雑さゆえにデジタル化のハードルが高い。菊地氏は「統合報告書1つとっても文字、画像、グラフ、年表が絡み合う。表現の構造を理解し、必要な情報を抽出して再編する。それが企業独自AIの基盤知になります」と話す。リコーは国の国内生成AI強化プロジェクト「GENIAC」に採択され、こうした「難読紙ドキュメント群」を読み解く「マルチモーダルLLM」の開発にも取り組んでいる。
リコーが掲げる3本柱。プロセスオートメーション(PA)、ワークプレイスエクスペリエンス(WE)、ITサービス・IT基盤は、1977年に同社が提唱した「OA(オフィスオートメーション)」の進化形でもある。AIによって再び力強く花開こうとしている。
菊地氏は最後にこう語る。「AIで業務を減らすこと自体が目的ではありません。生まれた余白をいかに創造的な活動に生かすかです」。リコーが展開するデジタルサービスは、企業が未来をひらく原動力になる。
- ※日本企業は世界を変えるイノベーションの数々を生み出してきた。企業の革新力の源泉に触れつつ、新たなビジネス展開の動きを探っていく。
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