第22回 強みを掛け合わせ、医療分野を幅広く展開 DNP

連載「ミライを変える革新力」㉒ 強みを掛け合わせ、医療分野を幅広く展開 DNP

「なぜ印刷会社が医療事業に」。そうした素朴な疑問は、同社の歩みを知ると腑に落ちる。DNPが長年磨いてきた印刷・情報技術は、メディカルヘルスケア事業との相性が驚くほど良く、新しい価値を創出できるからだ。
今から20年ほど前、大学と共同でDNPのフォトマスク(半導体製品の製造用原版)関連の写真製版技術を応用し、人間の毛細血管を再現する研究を進めた。この時の技術は、生体の腸に近い特性を示す立体臓器「ミニ腸」の作製用基材の基礎にもなっている。
メディカルヘルスケア分野では、細胞培養基材などを活用した創薬支援、原薬製造、製剤、医療品の包装、流通まで、薬が世に出るまでの長いプロセスの中で自社の強みを最大限生かせる領域が数多くあった。

印刷会社の技が生きる「原薬製造」

DNPは、銀の化学反応で像を記録する「銀塩写真」や印刷用インキなどを手掛けてきた。写真の黄色を再現する化学物質が、糖尿病治療薬の有効成分と同一である点に気づき、これが原薬製造にもつながった。原薬製造とは、医薬の有効成分となる化学物資の合成を行うことだ。メディカルヘルスケア本部本部長の池上健氏は「化学合成を緻密に行うという点では、印刷と同じ世界です。温度管理、材料制御、品質保証など原薬製造に不可欠な工程は、基盤技術として積み上げられてきました」と説明する。現在は、花粉症薬をはじめ、不眠症薬、不整脈薬、精神疾患向けの原薬製造を手掛けている。
医薬品を錠剤やカプセルのような服用しやすい形状に加工する「製剤事業」にも参入。印刷技術を礎としたノウハウが、そのまま強みに転じている。
23年4月には、医薬品開発支援事業で実績を持つシミックホールディングスとの戦略提携を締結。これにより、シミックグループの製剤開発、製造支援機能を持つシミックCMOに資本参加。事業拡大に弾みをつけた。
薬は湿気や酸素に弱いものも多い。中身の品質を損なわず、長期保存しなければならない。DNPは食品や飲料のパッケージ事業で培った吸湿性フィルムや脱酸素技術を応用。しかも取り扱いしやすい工夫も加え、医療パッケージ事業にも取り組む。

安心安全を支える情報セキュリティ技術

さらに、メディカルヘルスケア領域における重要なテーマである「情報の安全性」。個人の診療データ、服薬履歴などどれをとっても高度なプライバシー性を持つ。池上本部長は「銀行カードやクレジットカードには、DNPの堅牢な情報セキュリティ技術が使われています。金融機関の究極の個人情報を長年扱ってきた信頼性が、医療の世界でも高い評価を受けています」と話す。医療機関に対して情報の管理、連携基盤を支えるソリューションも提供している。
ほかにもDNPの強みである画像処理、画像解析の技術を健康診断分野にも展開。AI技術を活用したX線画像の「遠隔読影」に取り組む。放射線診断医師不足の解決や医師の診断をサポートすることにもつなげていく。

遠隔読影のイメージ
  遠隔読影のイメージ。ネットワーク経由で診断を行う。
医薬品経口剤
医薬品経口剤向け吸湿包材。(左右共DNP提供提供)

技術を他分野へ展開するDNPの思想

印刷・情報技術を他分野へ展開し、新たな価値を生む。これはDNPのDNAともいえる。事業の根底にあるのは「生活を支える価値の提供」という理念。「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントにも通じる考え方だ。
情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクス、文化を支えるメディア事業まで、社会の基盤をつくる延長線上にメディカルヘルスケア事業も存在している。 池上本部長は「いまは一つひとつの事業を大きく育てる時期」と語る。医薬品のバリューチェーンの各要素を着実に磨き込む。さらに、再生医療やバイオなど最先端医療分野への展開も将来の構想のひとつという。
印刷会社が薬を作る。その意外性の裏には、長年蓄積した技術があった。私たちが日々手にする多くの薬には、DNPの技術が息づいており、その存在感は今後さらに高まっていく。

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