第23回 赤外線×AIで害獣・害虫対策を可視化 日本発スタートアップの挑戦 FutuRocket

連載「ミライを変える革新力」㉓ 赤外線×AIで害獣・害虫対策を可視化 日本発スタートアップの挑戦 FutuRocket

夜の鶏舎は静まり返っている。赤外線センサーには、床際を素早く動く白い影が映し出されていた。ネズミだ。AIとIoTを活用したデバイスを開発するスタートアップ企業、「FutuRocket」(東京・品川区)は、こうした映像をAIで解析し、これまで「見えなかった」害獣・害虫の動きをデータで可視化する取り組みを進めている。
同社が展開するのは、シンプルなAIカメラシリーズをはじめとした現場向けデバイスだ。設置から撮影、解析までを一貫して行い、価格は1台1万円から数万円程度に抑えた。「高性能でも高価で複雑な機器は現場では使われない。まずは置いて、すぐに使えることが重要」。こう語るのは創業者でCEOの美谷広海氏だ。楽天やグリーなどで海外事業に従事し、2017年に同社を設立した。
もともとは、飲食店や商業施設で人の動線や利用状況を分析するAIカメラを手がけていた。転機は、顧客からの一言だった。「人の代わりに、ネズミやゴキブリを検知できないか」。美谷氏は「その瞬間、現場の本音だと感じた」と振り返る。害獣・害虫対策は長年、勘や経験に頼ってきた分野だ。見えない相手だからこそ、対策の妥当性を検証する手段が乏しかった。
ただ、AI導入は容易ではなかった。大手防虫・防鼠業者と連携し、研究所で飼育されたネズミやゴキブリを光学カメラで撮影し、大量の学習データを集めた。しかし実証を進めると、「研究所では検知できるのに、現場ではうまくいかない」という壁に突き当たった。暗所や天井裏では、保護色の個体が背景に溶け込み、光学カメラには限界があった。

ネズミやゴキブリを検知するAIカメラ(FutuRocket提供)

突破口となったのが赤外線技術だ。三菱電機の共創プログラムを通じ、温度差を捉える赤外線センサーを活用。「暗闇でも動きがはっきり分かる映像を見て、これならいけると確信した」(美谷氏)。体温差を検知する赤外線は、暗所でも有効で、ネズミ検知では実用レベルに到達した。
同社は、JAグループのスタートアップ支援法人AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)が運営する「JAアクセラレータープログラム」に採択された。採択企業には、JAグループ職員が伴走支援するほか、JAグループが持つ豊富な資産を活用できる大きなメリットが与えられる。
関東のある鶏卵農場。鶏舎内で、5万枚以上の画像を取得。その結果、ネズミの検出だけでなく、活動が活発になる時間帯の特定にも成功した。
「いるかどうかだけではなく、いつ動くのかが分かる。それだけで対策の精度は大きく変わる」。畜産現場では、飼料被害に加え、感染症媒介のリスクもあり、予兆を捉える意義は大きい。
有償実証は、駅ビルの天井裏や穀物倉庫でも進む。駅ビルでは検知画像を合成したヒートマップにより、梁沿いの「通り道」が可視化され、罠の配置改善につながった。対策前後の変化を数値で示せる点も評価されている。人手不足が深刻化する中、巡回点検の負担軽減も狙う。
視線は海外にも向く。人口増加が進むインドネシアやインドでは、食材保管や養鶏現場でのネズミ対策ニーズが高まっている。美谷氏は将来をこう見据える。「衛生と食の安全は国境を越えた課題。日本で培った技術を世界の現場に届けたい」。

社会課題解決への明確なストーリーが鍵 AgVenture Lab 代表理事理事長 荻野浩輝氏

成長企業に共通する要素として経営者の資質と社会課題解決への明確なストーリーがある。食料危機や気候変動、自給率低下といった課題に対して、ロボットやAI、バイオなど多様な技術、様々なコミュニティが交わることで「化学反応」を起こし、生産性が向上し、新たな価値が生まれる。
アグベンチャーラボは、2019年からスタートし、約60社が卒業し、累計評価額は1000億円を超えた。大学発ディープテックの社会実装や海外展開支援を強化し、食と農をスマートで誇れる産業へと転換を図っていく。

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