第9回 コスト高に「価値創造」で挑む モスフードサービス代表取締役社長 中村栄輔 氏
連載「経済の転換点を読み解く」⑨ コスト高に「価値創造」で挑む
原材料費や人件費、エネルギー価格の上昇が外食産業にも大きな影響を与えている。一方、消費者は価格に厳しい目を向けながらも、価値を認めた商品やサービスには支出する「メリハリ消費」を強めている。こうした経営環境の変化にどう対応していくのか。モスフードサービス代表取締役社長の中村栄輔氏は生産性新聞のインタビューに応じ、「品質と体験価値を磨き続けることが成長の原動力になる」との考えを示した。
「メリハリ消費」に応える価格のグラデーション化戦略
中村社長は「厳しい環境を言い訳にはできない。どう乗り越えるかを考え続けることが経営の役割だ」と述べた。1972年、東京・成増に第1号店を開業した。創業当初から注文を受けてから商品を作る「アフターオーダー方式」を採用。効率や低価格だけを追うのではなく、おいしさや品質、接客を重視してきた。みそを使ったテリヤキバーガーやモスライスバーガーなど、日本の食文化を取り入れた独自の商品も生み出してきた。
中村社長は「消費行動にも変化が表れている。価値があると感じられればお金を使う一方、必要でないものには徹底して支出を抑える『メリハリ消費』が定着した」と分析。「価格に見合う、あるいは価格を上回ると感じてもらえる価値をどう生み出すかが問われている」と語った。
具体策の1つが「価格のグラデーション化戦略」だ。定番商品に加えてプレミアム、超プレミアムの商品をそろえ、利用する場面や気分に応じて選べる商品構成を目指す。
中村社長は「家族で利用するとき、自分へのご褒美として利用するときなど、同じお客様でも利用シーンは異なる」と説明する。高価格帯の商品についても、他の専門店なら1,500円以上するような品質の商品を1,000円以内で提供することで、手の届くぜいたくとして選んでもらう考えだ。価格と品質の幅を広げることで多様な需要を取り込むほか、利用時間帯の拡大も進める。売り上げが昼食時間帯に集中する「富士山型」の需要構造から脱し、朝食、ティータイム、夕食へと来店機会を広げる戦略だ。
朝・夜へ広がる利用シーン 商品と店舗を進化
モーニングメニューでは野菜バーガーを刷新し、トマトを昼の商品と同じ厚さにするなど、細かな改善を重ねた。こうした工夫によって野菜のおいしさを高め、利用者の評価向上と朝の売り上げ増につなげているという。「夜モス」では、パティ3枚、ボリュームたっぷりのトリプルバーガーも人気だ。店舗の見せ方も変える。看板から「BURGER」の表記を外し、「MOS」のロゴを前面に打ち出す店舗デザインへの変更を進めている。ハンバーガーを食べる場所という従来のイメージを広げ、カフェや夕食など幅広い利用を促す狙いがある。商品だけでなく、店舗そのものの役割を広げることで新たな需要を掘り起こす。
「おいしさとおもてなし」が競争力を左右する
中村社長は「飲食業の根幹はおいしさとおもてなしだ」と強調する。料理そのものの品質に加え、出来たての商品を囲む時間や店舗スタッフとの触れ合いなど、人と人との接点も重要な価値になるとの考えだ。「おいしい商品を提供するだけが飲食業ではない。お客様が気持ちよく食事を楽しめることまで含めて価値を提供したい」。その姿勢は、創業時から続くアフターオーダー方式や接客重視の考え方とも重なる。価格以上の価値ある商品を作り、接客や店舗空間、利用シーンを含めて「MOSを選ぶ理由」を生み出せるかが企業の競争力を左右するとした。
「モスバーガー」の「MOS」は、「Mountain(山)」「Ocean(海)」「Sun(太陽)」の頭文字を組み合わせた名称だ。「山のように気高く堂々と」「海のように深く広い心で」「太陽のように燃え尽きることのない情熱を持って」との思いが込められている。「MOS」の3文字に込めた創業の精神を土台に、商品とサービスを磨きながら、コスト高の先にある新たな成長を探っていく。
「選ばれる理由」を磨く
モスフードサービス代表取締役社長 中村栄輔氏インタビュー
原材料費の高騰の中、価格以上の価値をどう高めていくのか。モスフードサービス代表取締役社長の中村栄輔氏へのインタビュー詳細は次の通り。
中村栄輔 モスフードサービス代表取締役社長
中村 栄輔(なかむら・えいすけ)1988年にモスフードサービスに入社し、法務部長や社長室長、店舗開発本部長などを歴任。取締役、常務取締役などを経て、2016年から代表取締役社長に就任。社長就任後、価格のグラデーション化、顧客の声を反映した商品開発、新業態への挑戦などを進めている。
価格ではなく付加価値で選ばれる存在になることが欠かせないと考えています。原材料費や人件費、エネルギー価格が上昇する中、コストを抑えて競争する経営には限界があります。お客様に価格以上の価値を感じていただき、「また利用したい」と思ってもらえる理由をつくる。それが持続的な成長につながります。
お客様がお店に入り、商品なるまで、そのすべての体験に価値があります。だからこそ、商品、生産者、店舗、組織、働く人を一体として磨く必要があります。それぞれをつなぎ、モスでなければ得られない体験を生み出すことが、私たちの価値創造です。
競争優位性をさらに強化
私たちは「おいしさ」「地域密着」「世の中の新」という3つの価値を掲げています(=図)。中でも、おいしさは絶対に譲れません。定番商品のモスバーガーやテリヤキバーガーも、バンズやパティ、ソースなどを数年ごとに見直しています。一度支持された商品でも完成とは考えず、もっとおいしくできないかと改良を重ねています。変わらないブランドであり続けるためには、変わり続けなければなりません。
国産の生野菜もモスらしさを支える重要な要素です。契約農家に減農薬など独自の基準で栽培していただき、本部担当者が産地へ足を運び、生育状況を確認しています。生産者との関係も価値の源泉です。農家の苦労や食材に込めた思いを知れば、店舗での扱い方も変わります。生産者と店舗、そしてお客様をつなぎ、地域との関係を品質や信頼に変えていく。この循環が、価格だけでは比較できない競争力になると考えています。
効率だけを考えれば、省ける工程もあるかもしれません。しかし、こうした手間が品質をつくり、「モスは野菜がおいしい」という評価につながります。コストを単純に削るのではなく、どこに手間をかければお客様が価値を感じてくださるのかを見極めることが重要です。
商品開発では、作り手の発想を生かす「プロダクトアウト」と、お客様のニーズを起点とする「マーケットイン」を組み合わせています。市場の声だけを追えば他社と似た商品になり、作り手の思いだけを優先すればお客様との距離が生まれます。その二つを掛け合わせ、モスだからこそ提供できる商品を生み出すことが重要です。
テリヤキバーガーやモスライスバーガーなど、日本の食文化や発想を取り入れた商品は、その象徴です。競争が激しくなるほど、他社との違いを明確にすることが重要になります。独自の商品や体験を積み重ねることが、ブランドの価値を高めます。
現場の知恵を成長力に
価値のある商品をつくっても、その良さがお客様に伝わらなければ意味がありません。商品開発部門の思いをマーケティング部門が理解し、営業本部が店舗へ伝え、店舗スタッフがお客様へ届ける。そして、お客様や現場の声が再び本部へ戻ってくる。この循環を強くすることが、次の商品やサービスにつながります。
全国20支部の加盟店と構成する「共栄会」などを通じ、店長やパート、アルバイトの意見まで本部へ届く仕組みも整えています。お客様に最も近い現場には、本部だけでは気付けない課題やニーズがあります。その知恵を経営に取り込み、新たな価値へ変えることが重要です。
組織運営も、よりフラットな形へ変えています。執行役員に権限を委ね、自ら考え、決断し、責任を持って行動してもらいます。私はこれを「アントレプレナーシップ」と呼んでいます。一人一人が半歩でも前へ進む。その積み重ねが意思決定のスピードを高め、変化に強い組織をつくります。
対面での接客も大切にする
デジタル化も単なる効率化ではありません。モバイルオーダーやセルフ注文、厨房設備の更新によって待ち時間や調理時間を短縮する一方、対面での接客も大切にしています。デジタルに任せられる部分は任せ、人はおもてなしなど人にしかできないことに力を注ぐ。効率化によって生み出した時間や力を、より高い価値へ振り向けることが狙いです。
海外事業も、店舗数を追うだけの拡大は考えていません。香港やシンガポールで品質管理や店舗運営、人材育成を整え、日本品質を安定して届けられる基盤をつくる。その上で2028年以降の成長につなげます。
私たちの使命は「食を通じて世界中の人を幸せにする」ことです。創業50年を機に、その思いを「モスの心」として言語化しました。おいしさに、おもてなしや安心感、地域とのつながりを重ね、お客様にモスを選ぶ理由を感じていただく。物価上昇や人手不足が続く時代だからこそ、価格競争ではなく価値創造で成長する。その力を磨き続けることが、これからのモスの経営だと考えています
証券マンとして赴任した米国で手作りハンバーガーの味に感動、仲間とともに日本人の味覚に合う商品を追求した。
◇ 本連載では、専門家へのインタビューを通じ、経済の「現在地」と今後の展望を多角的に検証し、次の成長戦略を探る。
お問い合わせ先
公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部
WEBからのお問い合わせ
電話またはFAXでのお問い合わせ
- TEL:03-3511-4060
- FAX:03-3511-4052
- ※営業時間 平日 9:30-17:30
(時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)