「伝統を未来へつなぐ革新」
雅楽師 東儀 秀樹 特別講演要旨

第69回軽井沢トップ・マネジメント・セミナー 特別講演要旨

文化の力と次世代への継承

篳篥を演奏し、雅楽の魅力を伝える東儀秀樹氏

雅楽師の東儀秀樹氏は、伝統と革新、アートが持つ力をテーマに講演した。1300年にわたり雅楽を受け継いできた家系に生まれ、幼少期を海外で過ごし、多様な音楽に親しんだ。古典を守るだけでなく、現代音楽との融合を通じて新たな入り口をつくることが、伝統を未来へ残す力になると訴えた。
雅楽は約1400年前、シルクロードを経て、遣唐使によって仏教とともに日本へ伝えられた。当初は仏にささげる音楽だったが、神道と仏教を共存させる日本文化の中で受け入れられ、神社や宮廷の音楽として定着した。国の保護も受け、1000年以上にわたり、大きく形を変えずに継承されてきた世界でもまれな文化だという。

東儀氏は、笙(しょう)を「天から降り注ぐ光」、篳篥(ひちりき)を「地上の音、人の声」と表現した。笙はパイプオルガンやアコーディオン、篳篥はオーボエやクラリネットなど、西洋楽器の源流にも通じる。シルクロード沿いの国々で失われた古い楽器や楽曲が、日本に残されていること自体に大きな文化的価値があると強調した。
一方、小中学校の教科書に雅楽が掲載されていても、実際に音を聴き、楽器に触れる機会は少ない。教師自身も雅楽に接した経験が乏しく、十分な指導が難しいのが実情だ。そこで東儀氏は、正統な古典演奏に加え、ロックやポップスとの共演にも取り組んでいる。「邪道」とみられる試みも、若者を「本道」へ導く入り口になるとの考えだ。
東儀氏は19歳で雅楽を始め、宮内庁に17年間勤務した後、1996年に独立。音楽の本質は音の高さと長さをコントロールすることであり、技巧以上に表現力が人の心を動かすと語った。国際人に必要なのは、語学力だけではなく、自国の文化を深く理解し、自分の言葉で伝える力だと指摘した。 デビュー30周年を機に全国ツアーを展開。長男で音楽家の東儀典親氏との共演や古楽器の復元を通じ、伝統を次代へつなぐ。

(生産性新聞2026年8月5日号掲載)


登壇者略歴

東儀 秀樹 雅楽師

1959年東京生まれ。東儀家は、奈良時代から今日まで1300年間雅楽を代々受け継いできた楽家(がっけ)。父の仕事の関係で幼少期を海外で過ごし、あらゆるジャンルの音楽を吸収しながら成長した。宮内庁楽部在籍中は、篳篥(ひちりき)を主に、琵琶、太鼓類、歌、舞、チェロを担当。宮中儀式や皇居において行われる雅楽演奏会などに出演するほ か、海外での公演にも参加。日本の伝統文化の紹介と国際親善の役割の一翼を担う一方で、雅楽器とピアノやシンセサイザーの独自の曲の創作に情熱を傾けてきた。1996年アルバム「東儀秀樹」でデビュー。国内外を問わずコンサートを開催し、日本レコード大賞企画賞、日本ゴールドディスク大賞 純邦楽・アルバム・オブ・ザ・イヤーなど受賞歴多数。 古典はもとより、ロック、ジャズ、オーケストラとのコラボレーションと、雅楽器の持ち味を生かした唯一無二の表現で雅楽の新たな可能性を切り開き、日本の芸術文化の振興に貢献したとして2024年度文化庁長官特別表彰を受賞。2026年デビュー30周年を迎え、新たなアルバムの制作と、秋以降全国各地で行われるツアー公演に向け精力的に活動中。

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