変革課題で成果を出すリーダーのマネジメント・スキル③(2020年7月25日号)

■変革課題を実行可能な状態にする

前回までは、現場の変革課題の遂行・達成に必要な「マネジメント・プロセス」の第一歩である「課題の定義」について説明しました。
最終ゴール、必要作業、必要資源を明確化した上で、オーナー(組織では成果に責任を持つ上司等)から合意を得る段階です。

今回は「課題の計画」の段階になります。
①作業を日程に落とし込み、②資源を確保し、③最終承認とキックオフを行い、作業に取り組める状態まで持っていきます。


作業を日程に落とし込む

定義段階では、ゴールに向けた作業を複数のワークパッケージにしました。
これらを日程に落とし込むには、まずはワークパッケージ間の順序を設定します。
順序策定時のポイントは、一直線にならべるのではなく、できるだけ平行作業が可能な部分を見つけることです。
これで課題の最終ゴールの達成までに必要な期間を最短化することができます。

順序ができて、ようやく日程表に落とし込むことができます。
一番左にワークパッケージを一覧化し、それぞれのワークパッケージの開始日と終了日をカレンダー上に線表として引くのが正しい日程表の構成です。
これを基準にすると、進捗を作業ごとに管理できるようになります。


資源を確保する

日程表の計画と同時に、各作業で必要となる資源を、その日程で確保することが欠かせません。
設備・機材・資材といった資源はもちろん、最も欠かせないのが人的資源の確保です。

それにも関わらず、変革課題を担うリーダーからは、社内の人間、特に他部門・関連部署のメンバーを思うように確保できないという声をよく聞きます。
その関連部署が受け持つ業務との兼ね合いなどもありますが、多くの場合は、リーダーによる巻き込み方が下手だという特徴がみられます。


いかに人を巻き込むか

拙いリーダーは、関連部署への依頼を、単発作業を依頼するかのように、ある日突然に巻き込もうとします。

一方、巧みなリーダーは、早いうちから他部門・関連部署であっても、関係しそうな人たちを巻き込んでいきます。
定義段階から少しずつ、しかし高頻度に、情報共有や意見交換を続け、変革課題の背景や必要性についての理解を深めていきます。
計画段階では、課題の中で求められる役割や、なぜその人でなければならないのかを強調し、その人の参画を促していくのです。
相手はすでに早い段階から課題の必要性を理解していますので、自分の役割を理解し、課題についても自分事化しています。
その結果、進んで参画してくれるようになるのです。

つまり「名将は大義で人を巻き込み、愚将は細事で人に拒絶される」ということです。


オーナーの最終承認とキックオフ

これまでの定義と計画の各段階が終われば、最終ゴールに向けた必要作業・必要コストが明確になり、必要資源も確保され、作業が日程表に落とし込まれた状態になっています。
この時点で、課題のオーナーに説明し、最終承認を得ておきます。

オーナーの合意が得られれば、いざキックオフです。
キックオフとは、課題への取り組みのスタートを切るために行う最終確認の会議のことです。
その主な目的は、取り組みの準備が完了していることを確認し、開始時点での問題をなくすためのものです。
関係するメンバーを集め、これまで策定してきた課題の「定義」と「計画」をレビューします。
特にメンバー間の業務分担と各業務の達成レベル・期限について再確認します。

すでに定義段階と計画段階でこれらの内容は事前にメンバーと調整がついているはずですので、あくまでも最終確認によって問題をなくし、いざ開始することをチーム全体に宣言するものです。


失敗したキックオフ

定義と計画の各段階で調整がついていないと、どうなってしまうでしょうか。

昔私が参加したひどいキックオフ会議の光景を今でも思い出します。
新製品開発案件で、いざリーダーである開発本部長が全体説明と最終確認をしたところ、参加していた開発メンバーのあちこちから手が上がり「初めて聞いたので、その期間ではできません」「この期間中は別の業務があるので、ずらしてほしい」等々と、その場で言い出されてしまう始末だったのです。
これは、キックオフ以前の定義段階・計画段階でのメンバーの巻き込みと人的資源の確保がしっかりとできていなかったことが原因でした。
メンバーからしてみれば、キックオフの日に初めて内容を聞いたという状態だったのです。
案の定、この新製品開発は大失敗に終わりました。

このように、「マネジメント・プロセス」に沿って課題の内容を明確化し、要所要所で関係する人たちとすり合わせ、調整し、巻き込んでいくことが欠かせないのです。
一見面倒にも思えますが、これらができていないと必要な人が巻き込めなかったり、計画が進捗しなかったり、課題全体が頓挫したりと、結局大きな代償を払うことになってしまうのです。


次回の第4回(最終回)では、「課題達成に向けた実行とリーダーシップ」について解説します。




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コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

筒井 健太

・総合電機メーカーにて部門横断プロジェクトのチーム・マネジメントに14年間従事、管理職まで経験。
・その後、外資系コンサルティング会社にて、パフォーマンス向上のコンサルティングと人材育成支援を行なう。
・日本生産性本部「経営コンサルタント養成講座」を修了後、本部経営コンサルタントとしてパフォーマンス・コンサルティングを中心に活動中。
・国際基督教大学教養学部卒業、ニューヨーク州立大学バッファロー校経営学修士課程修了。
(1970年生)

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