第2回:チームの中に凸凹力

明智から紹介された1社目はヤッホーブルーイングであった。ビール好きの高井は同社の看板商品「よなよなエール」を愛飲していたので同社が軽井沢を拠点としたクラフトビールの先駆けで、個性的なビールをつくっていることを知っていた。
アポイントのメールを送ると<当日は長岡知之(ちょーさん)と塚田紗衣(やさい)が対応させていただきます>との返信。「ちょーさん?やさい?これはニックネーム?なぜ?」高井の頭にさっそく複数の「?」が浮かんだ。
コロナ禍のためオンラインでヒアリングを行うことになった。パソコン画面には穏やかな笑顔の2人。挨拶のあと高井は気になっていたニックネームのことを尋ねた。同社で組織開発を12年間にわたり担っている宮藤官九郎似のちょーさんの話に引き込まれていく。


■ガッホー文化とは

「私たちは『フラットな組織で究極の顧客志向』を当たり前のことにしようとしているのです。この<目には見えないが当たり前>をガッホー文化(がんばれヤッホー)と呼んでいます。ニックネームで呼び合うのはフラットな組織づくりの1つ。社長は‟てんちょ”ですし、全員ニックネームがありそれで呼び合っているんですよ。そうすることで肩書などにとらわれず親しみも感じますからね。でもフラットであることは目的ではないんです。あくまでも究極の顧客志向を実現するための手段だと考えています」
「私たちは『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションとしています。このミッションを実現するために、先ほどの<ガッホー文化>、<価値観(譲れないこと)>、<ヤッホーバリュー(ヤッホーらしさ)>を行動指針としているのです」


■知的な変わり者とは

高井はちょーさんが映し出したガッホー文化のスライド(図1)に目が釘付けになった。そこには<知的な変わり者>とある。いったいこれは何なんだろう。

「知的な変わり者とは、強みが変わり者といわれるレベルまでとび抜けている人のことです。その強みを活かしていこうという考えです」
「当社ではチームで成果を上げることを志向しています。 凸凹(デコボコ)力と呼んでいますが、チームのなかでそれぞれの強みを活かし、弱みは補えばよいと考えています。 したがって全社員の強みをストレングスファインダーというツールを用いて明らかにし、互いに共有するようにしています。そして先ほどの価値観の中にもあるのですが、様々な個性の同僚に敬意をもつことをとても大事にしています」


■自発的な取り組みはプロジェクト制から

<凸凹力>か、自分はメンバーの凹しか見ていなかったな、と高井は思った。ちょーさんは続いて同社の取り組みを一覧にしたスライド(図2)を見せてくれた。

「メンバー間でしっかりと議論することを重視している当社では、心理的安全性を高めるために、まずコミュニケーション量を増やす取り組みをしています。それとともに質の高いコミュニケーションがとれる仕組みも整えています」
えっ、これ全部、会社の施策や制度として行っているのですか⁉と驚く高井に、いくつあるのか数えたこともありません、とちょーさんは軽やかに言うのであった。そして、これらの取り組みのうち代表的なものとしてプロジェクト制について説明をしてくれた。
「当社ではユニット(部門)横断のプロジェクト制を重視しています。これは、課題を見つけた人が自ら呼びかけてメンバーを募ります。やりたくない人が参加すると自発性が損なわれるので、あくまでもやりたい人が自発的に参加するものです。勤務時間の20%をプロジェクトに充てることを推奨しています。この活動により、多様な人と触れ合う刺激になりますし、成長につながる経験となります」

「さきほどの数々の取り組みもこのプロジェクト制から発案されたものが多いんですよ」
高井の頭に「?」が浮かんだ。なぜ、みんなこんなにも主体的なんだろう?
「それは、みんな失敗しても責められないとわかっているからです。良いものは残し、そうでないものは消えていく。組織に加わった新しいメンバーも周りの人の姿勢をみて学んでいくのです」


■大きな成果へとつなげるために

感心する高井にちょーさんは説明を続ける。
「大きな成果を出せるかどうかは<質の高い打ち手>×<打ち手の実行力>で 決まると考えています。前者は<十分な意見抽出>、後者は<納得感>。だからフラットな組織をとり、議論をとことんしてもらいます。トップが決めるのではなくみんなのコンセンサスを得た意思決定なので時間はかかりますが、成功確率が上がると感じています」


第3回へつづく~本連載は事実に基づくフィクションですが、2回目から4回目に取り上げられる企業・登場人物・取り組みは実際のものです~)

第1回はこちら


筆者略歴

栗林 裕也
日本生産性本部 人材・組織開発コンサルタント

鉄道会社を経て現職。「人は組織内でどのように成長するのか」「どうすればより成果のあげやすい組織になるのか」をテーマに調査、コンサルティング、研修に従事。論文に「組織における管理職を起点とした人材の活性化戦略とは」(生産性労働情報センター)など。白百合女子大学非常勤講師。


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