職務価値の測り方~職務記述書ありきでない(2022年9月5日号)

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の雇用 いいとこどりはできるか ③

大西 孝治 日本生産性本部雇用システム研究センター主任研究員

職務価値の測り方~職務記述書ありきでない

「ジョブ型」を志向する以上、何らかの形で社内にある仕事(職務価値)の序列付けが必要になります。

職務価値を測ることを「職務評価」と呼び、その結果を職務等級(グレード)として職務ごとに格付して、賃金の範囲として定めたものが、いわゆる「ジョブ型」賃金です。

それでは職務評価はどのように行うのでしょうか。代表的なものとして点数法と呼ばれる方法があります。社内の職務を洗い出し、それぞれの職務に対して、その価値を測るための評価項目を定めて点数化し、その結果を賃金水準に結び付ける方法です。

点数法の例として、日本生産性本部で構築した管理職層を想定した評価項目と米国で用いられてきた評価項目を例示しました(図表1)。

それぞれの項目ごとにウエイト付けがなされ、レベルを評価したものを点数化するというしくみです。注目してほしいのは、評価項目の違いです。職務を評価するといっても、どのような観点から評価し、どの要素を重視するかによって、評価結果は異なります。どのような項目で、どのくらいのウエイトを設定するかは、会社の方針であり価値基準の表明ですので、外部機関に丸投げするのではなく、労使ともに熟慮して決定すべきことです。

職務評価には、そのほか、序列法(社内の職務をその重さに応じて順番に並べて決める方法)、分類法(あらかじめ等級と等級定義を決めた上で、社内の職務を該当する等級に当てはめる方法)、要素比較法(職務を構成する要素に分解して、点数化せずに要素ごとに職務を比較する方法)があります。また要素比較法のエッセンスを残しながら簡略化した方法として、職務を比較する要素を「職階の高さ×専門性の高さ」などの2軸のマトリクスにして評価する方法もあります(マトリクス法)。




職務評価とセットで語られる職務記述書(ジョブディスクリプション)は、職務評価を進めていくうえで基となります。特に点数法、要素比較法で職務評価を行う場合、それぞれの職務を分析するための根拠が求められるため、職務記述書ありきとなります。

職務記述書は、その職務に配属される人材によって変わるものではありません。「閑職とみられていた〇〇部長がAさんからBさんに代わって、〇〇部の存在感がずいぶん目立つようになった」というような事象は、しばしば耳にしますし、人事によって会社を変えるのは経営者の重要な役割と考えられています。「ジョブ型」人事では、〇〇部長の職務記述書の改定、職務評価の見直しによって、重責を担える実力のある人材が配属されるという順序をたどるか、〇〇部長としてのパフォーマンスが悪かったAさんがポストオフし、本来の職責を果たせるBさんが就任したという順序になります。人が仕事をつくるという発想ではなく、仕事を経営がデザインし相応の人に担わせるという発想です。組織体制の変革期には役職を兼任している例が見られますが、「ジョブ型」の考え方では、経営がデザインした職務に対して人材配置ができなかった失敗といえます。

このように考えると、非管理職層において「ジョブ型」的な人事・賃金を適用することの難しさがみえてきます。成長の著しい社員が担当の職務範囲を飛び越えたり、職場の人員状況によって職務レベルが伸縮すること、通常起こりえます。そのため、非管理職層は等級グレードの幅を広げて柔軟性を持たせることで対応しています。また「ジョブ型」賃金を適用せず、職能給、職能等級を採用しつつも、それぞれの等級における職務内容を具体化して、担当職務に基づく等級変更を可能にするなど、職務と賃金とのバランスをとっています。

大西 孝治(おおにし こうじ) 日本生産性本部 雇用システム研究センター 主任研究員
1998年4月日本生産性本部入職。同本部にて、賃金制度、人事評価をはじめとした人事処遇・人事管理に関するセミナー、人事処遇コンサルティング、労働組合からの相談業務などを担当。

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