CEビジネス実現に向けて 梅田 靖 東京大学大学院教授(2023年6月15日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」③ CEビジネス実現に向けて

サーキュラーエコノミー(CE)は、単に廃棄物をリサイクルすることではない。人々の「豊かさ」、国の経済、企業競争力を追求する人間活動をプラネタリー・バウンダリーに代表される地球の有限性の範囲内に収める、いわゆる絶対的デカップリングを実現することを目指している。

資源消費を最小化し価値を提供

CEには、プラスチック・リサイクルに代表される資源循環を社会に定着させることと、脱大量生産・大量販売ビジネス社会の実現の2つの柱がある。循環させることがコスト要因になるのであれば、経済の仕組み自体を変え、市場競争の座標軸を変え、ものづくりや価値提供の変革を促し、資源循環が経済的に優位になる社会を創出しようとしている。だからこそ、循環手段として、マテリアルリサイクルよりも、長寿命化、メンテナンス、アップグレード、リマニュファクチャリングが強調され、ビジネスモデルとしてシェアリング、サブスク、PaaS(Product as a Service)などが強調されるのである。
この流れをビジネスチャンスに変えるためには2つのことが重要である。1つは、サプライチェーン、製造、使用など製品ライフサイクル(バリューチェーン、資源の循環経路と言ってもよい)の一部だけを見るのではなく、製品ライフサイクル全体を見て、資源消費の最小化を実現しなければならない。もう1つは、「もの」の提供から「価値」の提供への転換である。ただし、ここで言っているのは、脱物質化、製造業からサービス業への転換ではなく、サービス提供のチャネルとして「もの」は生産しつつ、価値提供を主眼にビジネスを展開するイメージである。

循環プロバイダーに期待

これを実現するためには、循環プロバイダーという主体が、ビジネスモデルと製品ライフサイクルを適切に設計し、コア技術としてデジタルを活用することが不可欠である。
CEビジネスで重要なことは、もの、情報、お金が循環する仕組みをつくり、価値を提供することである。メーカー、リサイクラー、輸送業者、小売業者等は製品ライフサイクルの一部を担っているだけなので、ライフサイクル全体を見ることが得意ではない。従って、様々な異なるステークホルダーが集まってCEビジネスを回すことが、日本でも欧州でも活発化の兆候がある。すなわち、循環を企画し、ビジネス化し、運営することのオーケストレーションをするステークホルダーを「循環プロバイダー」と呼んでいる。

製品ライフサイクル設計

循環を企画、ビジネス化するというのは、ライフサイクルとそれを合わせたビジネスモデルの設計を行うことである。ビジネスモデルの設計では、できるだけ自由に多様なビジネスモデルを創出することが重要である。このとき基本となるのは、製品・サービスシステム(Product Service System,PSS)という考え方で、ハードウェアである製品とサービスを組み合わせて、顧客に最適な形で価値を提供することである。例えば、ブリヂストンのタイヤのトータルパッケージプランでは、製品であるタイヤは販売せず、空気圧管理などの日々のメンテナンスも行い、タイヤの使用料を徴収する。タイヤが摩耗してくればリトレッドを行い、タイヤの寿命を2倍にする、というビジネスを行っている。このように、企業と顧客の間の関係を切らず、ライフサイクルにわたって価値を提供し続けるためには、あらかじめ製品ライフサイクルを適切に設計しておくことが重要で、これを「製品ライフサイクル設計」と呼んでいる。特に、設計の初期段階で、顧客に提供する価値、ビジネスモデル(レンタル、リース、サブスクなどの価値提供方法を含む)、循環方法(メンテナンス、寿命管理、アップグレード、リユース、リサイクルなどを含む)の3つをセットで設計することが重要である。

デジタルの活用

最後がデジタルの活用である。最近、デジタル製品パスポート(Digital Product Passport,DPP)が話題となっているが、これは、顧客やリサイクラーに製品の情報を届け、適切な判断を促すものである。カギは、ライフサイクルにわたって異なるステージ間で情報をやり取りする、製造情報を顧客に、使用情報を設計者やリマニュファクチャラーに、ということである。ステージ間のやり取りにより情報を活用して価値を生み出すことができる。逆に言うと価値を生み出せなければ負け組になる。特に、使用段階が情報の宝庫である。逆に難しいのは、実世界から情報世界へ情報を吸い上げ、また、実世界の「もの」と情報世界の情報の対応付けを維持することであり、今後の技術開発が期待される分野である。このような情報交換を可能にするプラットフォームの構築やそれを活用したビジネスが期待される。
以上、CEビジネス実現のための私見を述べたが、欧州の先進企業は明らかにCEをビジネスチャンスとして捉えて、攻めに出ており、我が国でも積極的なチャレンジを行う、恐らく最初はスモールスタートで、循環プロバイダーが多数現れることが期待される。

著者略歴

梅田 靖 東京大学大学院 工学系研究科人工物工学研究センター教授

平成4年3月東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻助教授、大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻教授などを経て、平成31年4月から現職。専門はエコデザイン、ライフサイクル工学、製品ライフサイクル設計等。著書に「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」(勁草書房)。

お問い合わせ先

日本生産性本部 経営アカデミー

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メールなどでのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)