分科会D「需要創造が切り拓く成長への新たな道」要旨
「おもしろい」「得意」が行動の基準
登壇者
鳥塚亮 大井川鐡道代表取締役社長
井手直行 ヤッホーブルーイング代表取締役社長
<モデレーター>吉田満梨 神戸大学大学院経営学研究科准教授
都会人の「憧れ」に

最初に、新市場の形成プロセス分析や起業家的意思決定を研究している吉田氏が、優れた起業家に共通する思考プロセスや行動様式である「エフェクチュエーション」について解説。需要創造とは「自ら進んで〝買う〟というコミットメントを提供してくれる人々(=顧客)との新たな関係構築である」とし、エフェクチュエーションによって「自分にとって意味があり、誰かの価値にもつながる、新たな行動の創出になる」と説明した。

事例発表ではまず、様々な手法でローカル鉄道を再生させてきた鳥塚氏が登壇。公募でいすみ鉄道(千葉県)の社長就任時、鳥塚氏は、いすみ市長に「鉄道を地域の広告塔にしましょう」とコミットメントしたという。ターゲットは地元の人ではなく首都圏の3500万人だ。その多くはいすみ市を「何もない」とみるが、1割の「田舎の良さが分かる人に来てもらえばいい」と強調。観光列車やレストラン列車で観光客が増加すると、地域の人たちも港で朝市を行うなど活性化につながっていった。鳥塚氏は「田舎のまちのブランド化」「いすみが都会人の『憧れ』になる」「鉄道は夢と希望を乗せて走っている」などと再生のポイントを話した。
WIN-WINの関係

続いて、「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに、ビールを中心としたエンターテイメント事業を行うヤッホーブルーイングの井手氏が「よなよなエール流市場創出」をテーマに、プロ野球・日本ハムファイターズとの協業の事例を発表した。
2020年12月、日本ハムファイターズから、2023年春に新球場内で世界初の「野球観戦できるブルワリーレストラン」が開業するが、テナントとしてOEM(相手先(委託者)ブランド名製造)ビールの製造依頼があった。「光栄な話」だが、OEMなどから井手氏は「断ることも検討した」という。
親会社の専務から「ブランド力を信じろ」とアドバイスを受けた井手氏は、北海道の状況を調査したうえで「自社ブランドも前面に出すべき」「野球ファンに『ビールを中心としたエンターテイメント』で満足度を高める」ことなどを逆提案。「無謀な逆提案は、ほぼ受け入れられた」と井手氏は話した。2023年春にテナントが開業するとビールが欠品になるほどの大盛況。売上はテナントの中で断トツの首位となり、年末には日本ハムファイターズ側から「期待値の200%」と大絶賛された。
パネル討論では事業の発想のポイントなどについて議論した。鳥塚氏は、「自分ならばこの商品を買うか」「おもしろいかどうか」が基準になると指摘。井手氏は、「大手企業と同じことをやってはダメ。我々ができること、得意なことをやる。そしてパートナー(企業)とは互いにWIN-WINの関係になることが大事」などと話した。
(生産性新聞2024年8月5日号掲載)
登壇者略歴
鳥塚亮 大井川鐡道株式会社代表取締役社長
1960年東京生まれ。明治大学卒業後、学習塾講師を経て27歳の時に大韓航空入社、30歳で英国航空へ転籍。2009年いすみ鉄道社長公募に応募し、社長に就任。様々な方法でローカル鉄道を再生し、いすみ市を全国区にした。2019年えちごトキめき鉄道社長に就任。コロナ禍の中、様々な施策を展開してコロナ前の1.5倍に伸ばすとともに、鉄道で地域に観光客を呼び込むことで地域の経済の貢献している。2024年7月より現職。
井手直行 株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長
1967年福岡県生まれ。国立久留米高専電気工学科を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。
吉田満梨 神戸大学大学院経営学研究科准教授
神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了(商学博士)、首都大学東京(現・東京都立大学)助教、立命館大学准教授を経て、2021年 より現職。専門はマーケティング論で、特に新しい製品市場の形成プロセスに関心を持つ。主著に「エフェクチュエーション:優れた起業家が 実践する『5つの原則』」(共著、ダイヤモンド社)など。
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