「世界市場で持続的成長を遂げるための事業構造改革」
安永竜夫 三井物産代表取締役会長 基調講演要旨

軽井沢トップ・マネジメント・セミナー 基調講演要旨

内なる国際化を進め 国も企業も元気に 安永竜夫 三井物産代表取締役会長

スピードと現場主義徹底

2015年に54歳で社長に就任し、「スピード」と「現場主義(特にグローバル)」の徹底を打ち出した。
事業を司る本部長とのフラットなコミュニケーション体制の構築と、「稟議審査」のスピードアップ、経営会議の日程変更など細かな工夫に取り組んだ。全社員に現場主義を徹底し、社長も率先垂範で年間120日以上は海外出張し、重要パートナーと多層的な人間関係の構築に取り組んでいる。
社長就任1年目の2016年3月期連結決算で、資源価格の下落や長期価格の見直しなどにより、創業以来初の赤字に転落し、それを機に「意識」改革にアクセルを踏んだ。社員のオーナーシップの強化に向け、案件を組成した人が自らコミットして現場に赴き、やり遂げるサイクルの創出を促した。

既存事業の徹底強化と強固な収益基盤づくりにも取り組んだ。金属資源・エネルギー事業など収益基盤を支える中核分野の既存事業の徹底強化で、強いものをより強くした。一方で、競争環境が著しく悪化していたブラジル・マルチグレイン社の完全撤退など不採算事業からの撤退を決断、実行した。
次の成長領域として、エネルギーソリューション、ヘルスケア・ニュートリション、アジアマーケットなど3つの攻め筋を策定し、既存事業を強化することで得られたキャッシュや経営資源を優先的に配分した。

多様な人材を国内外で発掘

2030年の三井物産の業態を考えるビジョンを海外人材・若手・中堅層を中心に策定した。「つなぐ」から「つくる」へ、強い「個」が自らビジネスを「つくる」三井物産へ、といった進化の方向性を打ち出した。
一方で、2018年、三井物産グループ発の「0→1」での新規事業を創造するイノベーションラボを創設した。デザイン思考や米国のスタートアップ手法も取り入れるもので、その効果で三井物産がかかわるスタートアップ企業の数も増えた。
三井物産グローバル・グループの多様な人材は競争力の源泉であり、一人ひとりが公正な競争と評価により活躍の機会を得られ、それを価値創造につなげることで持続的な成長を実現する。
多様な女性リーダーを養成するために、経営会議メンバーが女性シニアリーダー候補のスポンサーとなり、キャリアに関する助言や指導を実施し、一段高いポストを目指してチャレンジを促している。若手管理職の女性を対象にしたプログラムで、ラインマネジャー育成も強化している。
多様な人材をグローバルで発掘し、変革を推し進める先導者として育成している。現地法人や関係会社における現地採用社員の幹部登用を進めており、すでにインド三井物産やドイツ三井物産で現地採用の社長が誕生した。
取締役会の機能発揮と多様性の確保のため、コーポレートガバナンス改革に取り組んだ。取締役会12人のうち、社外6人(50%)、女性4人(33.3%)、外国籍3人(25%)になっている。
2024年5月に日本貿易会会長を拝命した。企業が日本を元気にするための取り組みに挑戦したい。2040年の経済社会を見据え、我が国をめぐる諸課題を解決していく上で重要となる「グローバルサウスとの連携強化」「内なる国際化」「商社の見える化」の必要性を指摘し、その実現に取り組んでいる。
日本貿易会の新しいキャッチフレーズは「フロンティアスピリットで未来を切りひらけ」とした。商社が、自身のフロンティアスピリットを発揮し、日本の企業や経済全体に貢献していくことが重要であると考えている。

(生産性新聞2024年8月5日号掲載)


登壇者略歴

安永竜夫 三井物産株式会社代表取締役会長

1960年愛媛県生まれ。83年東京大学工学部卒業、三井物産入社。プロジェクト業務部長、経営企画部長、執行役員機械・輸送システム本部長を経て2015年に代表取締役社長に就任。21年4月より現職。プラントや資源部門が長く、社長数人後はヘルスケア事業などの強化にも努めた。20年6月より経団連副会長を経て、24年6月より同審議員会副議長、また日本貿易会会長を務める。

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