第1回 モビリティカンパニーへの挑戦 トヨタ自動車

連載「ミライを変える革新力」① モビリティカンパニーへの挑戦 トヨタ自動車

富士山のふもと、静岡県裾野市。トヨタ自動車の工場跡地で建設が進む未来の実験都市「ウーブン・シティ」は、東京ドーム約15個分の広さだ。実際に人が暮らしながら移動や物流など様々なモビリティの実証実験を始める。一部エリアでは、秋からトヨタ関係者が入居する予定だ。
「『ウーブン・シティ』は、更地の上にできるものではない。半世紀に渡り、自動車産業と地域のために働き続けた仲間の想いの上にできる街。『永遠に未完成の街』であり、『未来のモビリティコース』です」。トヨタ自動車会長の豊田章男氏は、2月22日の竣工式でこう述べた。

「ウーブン・シティ」は、新たな価値やサービスを創出

自動運転、AI、ロボットなど最先端の技術の可能性を探るほか、企業とのコラボレーションの「場」となる。豊田会長は1月7日、米ラスベガスの技術見本市で、「ウーブン・シティ」について、次のように語った。「トヨタの強みと、自動車業界以外の業界の専門性の強みを組み合わせ、新しい価値やプロダクト、新しいサービスを作り出す」。トヨタ自動車が出資する米国「Joby」社の「空飛ぶクルマ」のテスト飛行も始まった。
「100年に一度の大変革期」。トヨタの幹部がよく口にする言葉だ。IT企業が自動化やシェアリングなどで台頭するなど環境が激変。トヨタは自動車産業の枠を超え、移動に関するあらゆるサービスを提供するモビリティカンパニーを目指す。

「トヨタ生産方式」を生かす

「ウーブン・シティ」には、知恵と工夫で改善し、生産性を高め、イノベーションを起こし、チャレンジしていく、「トヨタ生産方式(TPS)」が生かされている。TPSとは、ムダを徹底的になくし、良いものを安く、タイムリーに客に届ける、トヨタの経営哲学だ。「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」が2本柱。ニンベンのついた自働化であり、自動化ではない。設備に人の知恵をつけ、不良品をつくらないようにする。
それだけではない。TPSについて、豊田会長は社員に対して、「誰かを楽にしてあげるもの」と語っている。トヨタグループの始祖である曾祖父の豊田佐吉氏が、毎晩、夜なべ仕事を続ける母の機織りを楽にしたい、という思いから、「木製人力織機」、そして「G型自動織機」を発明し、織布業界に革命を起こした。「自分以外の誰かのために」「世の中をもっと良くしたい」という佐吉氏の想いは、祖父の豊田喜一郎氏の自動車会社へと続く。喜一郎氏は、1937年にトヨタ自動車工業を設立。当時は、大量生産を伴う事業として成立していなかった。無謀ともいえる状況での自動車産業への挑戦。根底にあったのは、喜一郎氏の「日本人の頭と腕で自動車をつくる」という覚悟だった。そして父の豊田章一郎氏にバトンが渡り、豊田会長のモビリティカンパニーへの変革を目指す、今に引き継がれ、「ウーブン・シティ」へと繋がった。

「ウーブン・シティ」の光景の画像
「ウーブン・シティ」の光景(トヨタ自動車提供)
「空飛ぶクルマ」の画像
「空飛ぶクルマ」(トヨタ自動車提供)

地下には通路が広がり、ロボットが物流サービスの実証実験を行う。「ウーブン(WOVEN)」は、「WEAVE」の過去分詞で「織られた」の意味。網の目のように道が織り込まれ合う街と、トヨタの祖業の「自動織機」がその名の由来という。

強固な財務基盤と成長領域の拡大

こうしたトヨタの変革を可能にしているのが、「幸せの量産」というトヨタの原点。もうひとつが、強固となった財務基盤だ。企業の収益性や効率性を評価する指標のROE(自己資本利益率)は、安定的に10%以上ある。「いまの水準をしっかりと維持し、目安は20%です」。トヨタ自動車が2月5日に開いた2025年3月期第3四半期決算説明会で、経理本部長の山本正裕氏はこう語った。製造業として極めて高い水準だ。中国に新会社を設立し、レクサスのバッテリーEV(BEV)、および、車載電池の開発・生産を行うと発表。さらに、米国の電池製造会社が生産準備を完了し、4月に電池の出荷を始める計画を公表した。米国や中国で成長領域の拡大を図る。盤石な財務基盤と稼ぐ力の引き上げが、モビリティカンパニーへの挑戦を支える。

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