第11回 天然ガスでつなぐ脱炭素社会 東京ガス

連載「ミライを変える革新力」⑪ 天然ガスでつなぐ脱炭素社会 東京ガス

LNG導入決断、都市ガス事業を塗り替える

1969年11月4日、東京湾に一隻の白い巨大な船が姿を現した。世界で初めての商用LNG(液化天然ガス)輸送船「ポーラ・アラスカ号」だ。アラスカから日本へと、初めてLNGを届けた。横浜市の根岸工場に着岸したその船から、タンクに流し込まれるLNG。それは、日本の都市ガス事業を塗り替えた瞬間だった。
高度経済成長期、都市ガス需要は急増し、大気汚染も懸念された。LNGは加工時に硫黄分を除去し、燃焼時は、石炭や石油に比べ二酸化炭素の排出量が少なく、相対的にクリーンで高効率といわれる。東京ガスはLNGの導入を決断するが、LNGを運ぶインフラも、受け入れる港も、専用のタンクもない。技術者たちが外部と協力し、ゼロからつくった。天然ガスをマイナス162℃で液化し、体積を約600分の1に縮め、巨大なタンカーで運んだ。LNG基地の巨大タンクに貯蔵されたLNGは、気体に戻し、臭いをつけた後、都市ガスとして送り出された。

ノウハウ生かし海外のLNG受入基地に参画

あれから半世紀以上が過ぎた。フィリピン共和国・ルソン島の港町バタンガス市。穏やかな海に一隻の巨大船が浮かぶ。浮体式LNG受入基地だ。東京ガスが、フィリピンの発電事業会社と協業で建設し、2025年1月に操業許可を取得した。2月には、LNG基地を所有運営するフィリピン企業に出資。商業運転中の海外LNG基地に出資するのは初めてだ。前例のないプロジェクト。途中、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、工事は遅れた。東京ガスはエンジニアを派遣し、遅れを取り戻すなどあらゆる手段を尽くした。基地運営の円滑化のため、東京ガスの国内操業基地の研修を通して、現地スタッフに基地オペレーションに関する教育を実施した。
フィリピンでは、経済成長と人口増加に伴い、電力需要が増加。東京ガスは、当地の安定的な電力供給と低炭素社会実現のため、国内で長年蓄積した基地運営のノウハウを生かす。ベトナムでもLNG事業に参画するなど、海外進出を進めていく。

「ポーラ・アラスカ号」
浮体式LNG受入基地の画像

アラスカから日本へLNGを運ぶ「ポーラ・アラスカ号」(左) フィリピン・ルソン島の浮体式LNG受入基地(右)(東京ガス提供)

地域との共創、「公益追求」のDNA息づく

東京・小平市の東京ガス「ガスミュージアム」。日本資本主義の父といわれる渋沢栄一氏の展示がある。栄一氏は、幕末にパリ万博使節団の一人として欧州を訪問。パリのコンコルド広場のガス灯とガス供給のインフラに深く感銘を受けた。いまの東京ガス、「東京瓦斯会社」を1885年に設立し、会長に就任した。栄一氏の理念は「論語と算盤(そろばん)」。「道徳と利益は両立できる」という考えに基づく。今年10月、創立140周年を迎える東京ガスでは、社会を支えるための「公益追求」のDNAが、いまも息づく。
東京ガスは、地域自治体と連携し、脱炭素と防災・安心のまちづくり、さらに教育、人材育成も支援している。
7月1日、千葉県木更津市と「ゼロカーボンシティ」の実現に向た包括連携協定を締結。同社常務執行役員の小西雅子氏は、「長年培ってきたお客さまからの『信頼』や『地域密着力』を活かし、カーボンニュートラルなまちづくりの実現に向け連携できることを大変うれしく思っております」とコメントした。関東1都6県などで80以上の自治体とこうした取り組みを進めている。

地政学リスク拡大の中、ネットワークの多様化

一方、中東情勢の不安定化が続く中、エネルギーを取り巻く環境は厳しさを増す。6月18日、東京ビッグサイト。世界50カ国以上からエネルギー関係者が参集し、「JapanEnergySummit&Exhibition2025」が開催された。東京ガス社長の笹山晋一氏は「世界的な地政学リスク、再エネの導入拡大、そして長期的な需要成長によって、エネルギーの需給構造は歴史的な転換期にある」などと語った。原料調達において、調達先、契約内容、LNGネットワークの三つの多様化を図り、価格競争力、供給安定性、数量柔軟性の向上に取り組んでいく。

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