第7回 日常生活の基本を担い、地域への土着化を進める 良品計画「無印良品」
連載「ミライを変える革新力」⑦ 日常生活の基本を担い、地域への土着化を進める 良品計画「無印良品」
岐阜県可児市の店舗内に図書館「カニミライブ」
岐阜県中南部に位置する可児市。戦国時代の山城跡10を数える。織田信長の家臣だった明智光秀のふるさとでもある。市内を木曽川と可児川が流れ、自然豊かな10万人のまちだ。ここに、良品計画の「無印良品 ヨシヅヤ可児」がある。店舗内には図書館。「可児市立カニミライブ図書館」と名付けられ、蔵書は、約2万冊。運営は市が担う。図書館は店舗部分と仕切りを設けず、買い物ついでに立ち寄れる気軽さを追求した。
「無印良品」は、1980年に西友ストア(現西友)のプライベートブランドから出発。セゾングループを率いた堤清二氏が、生みの親だ。当時、日本経済がバブルに向かう中、高額なブランド品の人気が過熱した。「無印良品」は、こうした消費社会へのアンチテーゼだった。「わけあって、安い」というキャチコピーで、使いやすさ、素材、適正価格にこだわった。
一号店は、東京・青山。海外高級ブランド、日本人のデザイナーブランド真っ盛りのこの街であえて勝負した。現在、日本国内651店舗、海外は国内を上回る717店舗だ。海外で「MUJI」のブランドは、シンプルで機能的なデザインから東洋的で「禅」のような感覚で受け取られている。
企業理念に「感じ良い暮らしと社会」
なぜ、いま地方なのか。ブランド立ち上げから40年を迎えた2021年9月、「第二の創業」を打ち出した。「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献することを企業理念に掲げた。「感じ良い」とは、社会に対して、どこにもしわ寄せがない、という意味だ。そのために2つの使命がある。「日常生活の基本を担う」とともに「地域への土着」だ。
「土着」とはどういう意味か。
「無印良品 銀座」総店長の木村大輔氏は、同社の岐阜事業部時代に、可児市とともに図書館や地域の活性化に関するプロジェクトを手掛けた。5月9日の地域政策と議会改革を学ぶ研修会。木村氏は、地域性をなぜ強く打ち出すのか、事業展開の狙いなどについて語った。
「第二の創業で、各店舗は、各地域のコミュニケーションセンターの役割を持ち、地域の課題に取り組み、地域への良いインパクトをつくっていく。これが、全社の中で大きなミッションになった」「何かおもしろいことはできないか」、「図書館をなんとかしたい」。可児市の行政担当者からの声かけが、きっかけだった。ここまではよくある話だ。行政に限らず、組織は縦割りになりがちだ。しかし、熱意をもって横串をさせる人がいた。どんな図書館をつくるか、可児市がヒアリングを実施。行政だけ、民間だけでは解決できない難しいプロジェクトを、一緒になって実現していった。
木村氏は、図書館の目的について、こう述べた。「地域の人たちにどれだけ気づきをもっていただくか、それが一番大事なことだった。私も本にはあまり関心がなかった。そうした人たちに、学びの楽しさを感じてもらう。そこまで踏み込んで考えていく。これが根幹だった」。


図書館は店舗の真ん中にある。壁を立てず、シームレスな空間にした。本の近くには、関連商品が並ぶ。(良品計画提供)
地域課題を解決するために事業を推進
可児市と良品計画は2023年6月、「地域活性化等に関する包括連携協定」を締結し、可児市が同年11月に図書館を設置。翌年5月には地域商社「一般社団法人カニミライブ」を設立し、特産品や地域ブランドの開発や販売を進めている。
地域商社は、地域の仕事を創出し、地域の事業を活性化しながら、地域の課題解決を進めていく。市民が主体となった事業の発展と経済的自立を支援する。様々な活動を通じた関係人口の創出や定住促進も進める。
「儲けるために事業をするのではない、地域課題を解決するために、事業をする。その結果、地域が潤い、事業もうまくいけば、収益が上がっていく。うまくいかなければ、反省し、やり直す」と木村氏。良品計画では、地域での取り組みも増えている。「地域への土着」。発想の原点は、創業時のコンセプトから変わっていない。
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