第2回 食の可能性を追求し、社会課題解決へ 日清食品

連載「ミライを変える革新力」② 食の可能性を追求し、社会課題解決へ 日清食品

「クリエイティブな発想」と「最後まであきらめない執念」

親子連れで賑わっていた。3月下旬の休日、ここは、横浜市中区のみなとみらい地区にある「カップヌードルミュージアム横浜」。世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発明し、地球の食文化を革新した日清食品の創業者・安藤百福の功績を伝える記念館だ。
その一角に百福氏が自宅の庭に建てた研究小屋が再現されている。1957年、理事長をしていた信用組合が破綻し、全財産を失った。百福氏は47歳だった。この小屋で、丸一年、平均睡眠時間4時間以下、一日も休まず研究を続けた。ついに、麺を油で揚げることで水分を一気に蒸発させる「瞬間油熱乾燥法」を発明。1958年にインスタントラーメンの工業化を成功させた。生涯を通じ、「クリエイティブな発想」と「最後まであきらめない執念」を持ち続け、「カップヌードル」なども誕生させた。

最適化栄養食の「完全メシ」を開発

百福氏から経営を引き継いだ息子の宏基氏は、「カップヌードル」を世界に広げ、革新的な商品を次々と世の中に送り出した。3代目社長の徳隆氏は、「食」のあらゆる可能性に挑戦し続けている。そのひとつが最適化栄養食の「完全メシ」だ。
3月24日、東京都内で「完全メシ」大試食会と題した発表会があった。「完全メシ」とは、カロリー、塩分、糖質、脂質をコントロールしながら、ビタミン、ミネラルなど33種類の栄養素とおいしさの完全バランスを追求した商品。3月までに、即席麺、カップライス、冷凍食品など累計4000万食を販売した。
開発までの道のりは平坦ではなかった。日清食品ホールディングス広報部の松尾知直氏は「一食の食事の中に必須ミネラルやビタミンを閉じ込めようとすると、苦みやエグみが出てしまう。そのため、これまでは栄養が取れることをうたった商品に、おいしいと感じられるものはほとんどなかった」と説明する。また、栄養素によっては、時間の経過や加熱で減衰が起こることもある。「こうした諸条件を考慮して、栄養バランスが整うように商品設計することには特に苦労した」(松尾氏)
多くの課題を解決したのが、東京都八王子市の自然に囲まれた地にある研究開発拠点「the WAVE」だ。名称には、食の先端技術を切り開き、イノベーションの新しい「波動」を起こし、世界に広げたいという思いが込められた。この研究施設に集まった開発者たちが、最新フードテクノロジーを駆使し、栄養素独特の苦みやエグみを抑え、普段と変わらないおいしさを実現した。
例えば、三層構造にした麺の真ん中の層に小麦粉の代わりに食物繊維やたんぱく質を入れることで、おいしさそのままに栄養素を配合。小麦粉を食物繊維に置き換えることで、カロリーも抑えることができた。

「the WAVE」の外観
「the WAVE」の外観。食品開発と食の安全の研究が進む。
社員食堂
作りたての「完全メシ」を提供する社員食堂(いずれも日清食品提供)

世の中のために食を創造する

なぜ、最適化栄養食に取り組んでいるのか。そこには「食創為世」(世の中のために食を創造する)という創業の精神があった。インスタントラーメン誕生の1958年当時は、戦後の食料不足も続いており、安価で手軽に食べられるものが必要だった。いまは、飽食による肥満問題が世界的な課題になり、低栄養によって引き起こされるシニアの「フレイル」や、偏った食生活を原因とした「隠れ栄養失調」の増加も深刻になっている。こうした社会の課題を「食」で解決していく試みだ。
作りたての「完全メシ」を提供する給食型の社員食堂は、大手企業を中心に25社が導入。病院との連携も始まっている。糖尿病、高血圧などの患者は、厳しく食事が制限されている。しかし、最適化栄養食であれば、食事制限がない人たちと同じように、カレーライス、ピザ、ハンバーガーといったメニューも楽しめる。
「好きなものを、好きなときに、好きなだけ食べられる」ことが「Human Well-being」につながる鍵の一つという。日清食品グループの全製品が本当においしく、栄養バランスが整った「最適化栄養食」になっている、そんな未来を描く。

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