欧州におけるCE政策の行く先 喜多川 和典 日本生産性本部エコ・マネジメント・センター長(2024年4月25日号)

連載「続・サーキュラーエコノミーを創る」① 欧州におけるCE政策の行く先

脱炭素優位のCE(サーキュラーエコノミー)政策からの脱皮

最近、影を潜めているが、かつて温室効果ガスによる地球温暖化に対してそれなりの懐疑論があったものだ。筆者はそれにくみする考えはないが、気候変動の原因が100%温暖化によるものでないことは気候学の専門家はだれもが認識している。しかしながら、資源循環経済(CE)の取り組みにおいてさえ、脱炭素が優先され、脱炭素に貢献し得るかが厳しく問われるケースが多い。
こうしたなか、2024年3月、欧州理事会が最終承認した重要原材料法は、脱炭素への貢献有無に関わらず、資源循環に取り組むべきケースが今後拡大することを示唆している。同法はこれまでリチウム、コバルトなど調達リスクの高い鉱物のみを対象としていたが、さらに踏み込んで、地政学的なリスクにまで資源循環を促進させる対象物を広げる規制を導入した。これにより、銅、アルミ、鉄といったベースメタルも対象鉱物に登録され、EU域内での法に基づく強制的な資源循環が行われる可能性が出てきている。

廃棄物リサイクルから再生材利用へ

EUが新たに制定する資源循環に関わる法案も、新製品に再生材を一定の割合で含むことを義務付けるものが多く、これまで以上に資源循環が重視される風潮を裏付けている。例えば使用済み自動車規則の法案では、2030年頃からの新車について、使用される樹脂材料の25%以上が再生材でなければならないとしている。例えばボルボは、2025年以降に発売する新型車について、再生樹脂利用率を25%以上とする社内目標を定め、実現に向けて取り組んでいる。ルノーは樹脂に限定していないが、2030年以降に製造する自動車全体での再生材利用率を30%以上とする目標を掲げている。
自動車メーカーが再生材をいかに定義しているかは気になるところだが、これまで日本や欧州では自動車の再資源化率は95%以上を達成している一方、新車の製造に使われる再生材はわずか数%であり、環境へのコミットメントとして余りにも弱すぎる。したがって、欧州の資源循環政策の重要課題は、「廃棄物のリサイクル」から、「新製品への再生材利用」へと移りつつある。筆者自身、政策のこうした舵取りの方向は正しいものと思うが、いきなり強制的に高い目標値を課されると企業も消費者もついていけないのではないだろうか。

社会ストックを維持・再生産する製造への移行

こうしたなか、ルノーとステランティス(プジョー、シトロエン、フィアット、クライスラー等)はほぼ時を同じくしてCEのコンセプトに基づく工場を稼働させた。新車のみ製造してきた工場は、中古車(他社製品含む)と廃車を投入材とする工場へと生まれ変わったのである。また、これらの工場の「製品」は、再生させた自動車と中古部品、あるいは使用済みEVバッテリーを他の目的に利用する蓄電池製品へとつくり替えたものである。ルノーは今のところ、フランスとスペインでの展開であるが、ステランティスはイタリアを皮切りにグローバル展開する計画を示している。
これらの取り組みからは、今後の製造概念が大きく塗り替えられるのではないかとの予感がする。これまでの製造業の役割は、概ね、工場による新造品の生産であり、その消費地は国外を含む広範囲であったが、これからの製造業は、社会のストックを維持・再生産する機能にまで拡大される可能性がある。それはまた集中型大量生産から地域型の分散型製造への移行の可能性を示している。

製品の二次・三次利用が及ぼす知財権への影響

このような製造概念の転換において、新造品の製造を得意とする日本の製造業がさらに注意すべきことは、技術・知財の破壊であり無効化である。その背景には、欧州のCEに関わるトレンドの一つであるMaaS(Manufacturing as a Service)がある。これは地域分散型の「製造サービス」であり、製品が故障したか最初のユーザーの手を離れたものについて、利用価値を再生するための再製造、修理などを行う者に対し、それをやり遂げるための技術情報の開示が求められたならば、それに応じなければならなくなる可能性が強まっているのである。さらにEUは「修理する権利」を法により定め、知財・特許の保護に優先して、環境負荷が低く経済的にもリーズナブルな形で顧客価値を再現する社会の実現を目指している。つまり、そのプロセスで知財権が消尽に向かう可能性がある。
このような時代への対応には概ね2つある。それはリース・サブスクリプション・シェアリング等により、自社製品を保有・管理し続け、製品の全ライフサイクルをカバーするビジネスモデルへと移行するやり方と、ルノーやステランティスのように時流を素直に受け入れ、他社製品を含む製品の再製造等を事業本体に組み入れるというやり方である。
いずれにせよ、CEによる変革は、「産業中心の価値」を「顧客中心の価値」へと転換する方向へと進むことは確実である。そして、これを企業は、規制として受け止めるのではなく、ビジネスのイノベーションの競争、新たなビジネスモデル開発の機会と捉え、果敢に取り組むべき課題として認識する必要がある。

著者略歴

喜多川 和典 公益財団法人日本生産性本部 エコマネジメントセンター長

長年、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングに携わる。上智大学非常勤講師、経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(平成30年度~令和元年度)、NEDO技術委員、ISO TC323CircularEconomy国内委員会委員。著書に「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」(勁草書房)等。

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