~直近の最高裁判決を踏まえて~ 同一労働同一賃金のための人事制度設計・運用のポイント(前編)

2020年10月13日には大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件の2件、また同月15日には日本郵便事件に関し、最高裁判決がなされました。

こうした動向を踏まえ、本コラムでは、同一労働同一賃金についての労働判決に関する概要・論点について述べるとともに、人事制度の支援に携わるコンサルタントの立場から、人事制度設計および運用のポイントについて解説します。

労働条件における不合理な待遇差の判断基準


厚生労働省が取り纏めた「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」において、以下の基準を不合理な待遇差の判断基準としています。


①職務の内容a(業務の内容)
これは、業務の種類(職種)と中核的業務で判断します。種類(職種)は、販売職・管理職・事務職・製造工等の従事する業務をいい、中核的業務はその中の主な業務内容を意味します。

②職務の内容b(当該業務に伴う責任の程度)
これは、業務の遂行に伴い行使するものとして付与される権限の範囲・程度を意味し、例えば、単独で決裁できる金額の範囲、管理する部下の人数、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応、売り上げ目標等の成果への期待度等が当てはまります。

③職務の内容・配置の変更の範囲
これは、将来の見込みも含め、転勤・昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む)の有無や範囲のことを意味します。

④その他の事情
上記3つ以外の事情で、個々の状況に合わせて、その都度検討するものです。主には労使交渉の経緯や定年後再雇用、コース転換・登用等を意味します。


今回の最高裁判決についても、上記の枠組みでの判断がなされています。それぞれ概要を以下にまとめています。

大阪医科薬科大学事件


本事件は、賞与について正職員とアルバイト職員の間の処遇差について問われたものです。
賞与の趣旨について「(本大学においては)業績に連動するものではないが、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報酬、将来の労働意欲の向上等」とし、「正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力および責任の程度等に照らせば、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとした」としています。以下が判断基準に関する内容です。


        • 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)について、アルバイト職員においては「相当に軽度」である一方、正職員の業務は多岐にわたる(「学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事」)ため、両者の業務の内容は共通する部分はあるものの、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できないとしています。
        • 職務の内容・配置の変更の範囲について、正職員は人事異動(出向・配置転換)を命ぜられる可能性があり、人材の育成や活用を目的とする人事異動が行われている。一方、アルバイト職員は業務命令による人事異動は原則なく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていた。従って、職務の内容・配置の変更の範囲についても、一定の相違があったことは否定できないとしています。
        • その他の事情については、正職員・契約職員・アルバイト職員での転換制度(登用制度)を設け、実際に運用をしてきた経緯が加味されています。

以上の点から、賞与の趣旨を踏まえ、正職員とアルバイト職員との労働条件の差異を考慮した場合に、賞与の支給有無の処遇差については不合理とはいえないとしました。


尚詳細説明は割愛しますが、私傷病による欠勤中の賃金においても、上記労働条件における不合理な待遇差の判断基準を鑑み、正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイト職員に支給しないという労働条件の相違は、不合理ではないとしています。

メトロコマース事件


本事件は、退職金について正社員と契約社員(有期契約労働者)の間の処遇差について問われたものです。
退職金の趣旨について「職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとした」としています。以下が判断基準に関する内容です。


        • 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)について、「正社員と契約社員では両者の業務の内容はおおむね共通する」ものの、正社員は「休暇や欠勤で不在の販売員に変わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当」し、他に「複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事」することがあった。これに対し、「契約社員は売店業務に専従していたもの」であり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できないとしています。
        • 職務の内容・配置の変更の範囲について、「正社員は、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員は、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかった」とし、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があったことが否定できないとしています。
        • その他の事情については、契約社員(無期契約労働者・職種限定社員)及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員や職種限定社員をそれぞれ職種限定社員や正社員に登用していた経緯が加味されています。

以上の点から、退職金の趣旨を踏まえ、正社員と契約職員との労働条件の差異を考慮した場合に、退職金の支給有無の処遇差については不合理とはいえないとしました。

日本郵便事件


本事件は、扶養手当・年末年始勤務手当・夏期冬期休暇・祝日給・病気休暇について、正社員と時給制契約社員の間の処遇差について問われたものです。各手当・休暇については以下の通りです。


        • 扶養手当の趣旨については、「長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるもの」としています。時給制契約社員においても、「有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる」ため、正社員と時給制契約社員との間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとしています。
        • 年末年始勤務手当の趣旨については、「年末年始の時期に業務に従事しなければならない正社員の労苦に報いる」ものとしています。この場合、「契約社員が原則として短期雇用を前提とすること等からすると、正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、直ちに不合理と認められるものには当たらない」としつつも、「契約社員の通算雇用期間が5年を超える場合には、正社員との間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違を設ける根拠は薄弱なものとならざるを得ず、不合理と認められるものに当たる」としています。
        • 病気休暇の趣旨については、「長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる」とし、「時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである」としました。
        • 夏期冬期休暇の趣旨については、心身の回復を図るためとし、また祝日給の趣旨については、「年始期間における勤務の代償として支給するもの」とし、契約社員にも妥当するというべきであるとしています。

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