~直近の最高裁判決を踏まえて~ 同一労働同一賃金のための人事制度設計・運用のポイント(後編)

本判決を踏まえた人事制度設計および運用のポイントについて


ここからは、3つの判決(コラム前編ご参照)を踏まえ、同一労働同一賃金のこれまでの議論からみる、人事制度設計と運用のポイントについて述べます。


まず、賞与・退職金については契約社員・アルバイト社員については支給しなくても良い、一方諸手当については契約社員やアルバイト社員についても支給しなければならないと直ちに考えてしまうことには注意が必要です。今回の判決はあくまで個々の企業の実態を踏まえた判断であり、自社においては果たして同様に考えることが適切かどうか、検討する必要があります。なぜこのような判決に至ったか、その背景を理解することが重要です。

そして、検討のポイントは「各賃金項目の趣旨(支給理由)を明確化」し、その支給理由に沿う「労働条件(職務内容と配置転換、その他事情等)に差異があるか」を考慮することとなります。そして、これを判断する基準は、

          • 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
          • 職務の内容・配置の変更の範囲
          • その他の事情

となります。この点を踏まえ、基本給・賞与・退職金・諸手当その他の処遇・待遇に関わる差が不合理ではないかを、賃金項目別に考慮する必要があります。 以下には、より具体的に人事制度設計・運用の中で考えるべき内容について述べます。


①職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
まず、職務および役割の相違を明確にすることが必要です。判決にても触れられた点ですが、これは何も”まったく異なる職務・役割”を担っていなければ処遇・待遇差はあってはならないということを意味するものではありません。ある程度は重複する業務(同じ職務・役割)を担っている場合でも、それ以外に求められる業務内容について、難易度・緊急時の対応の必要性などに違いがあるのかを考慮することが求められます。
現場の業務においては、仕事内容の幅の広さやイレギュラー対応の有無が該当することが想定されます。社員A,B間において、ある程度主業務は同じであっても、A社員はそれ以外の業務も担い、時にはイレギュラー対応が時間外勤務などで求められる場合は、処遇差があることについて説明することができます(B社員はこれらが生じないと仮定した場合)。
また、責任についても、売上や収益に対する結果を求められる営業担当者を想定した場合に、個人としての目標達成の度合いが評価され処遇に反映される立場の営業担当者と、個人だけではないチームや組織の目標達成の度合いが評価され処遇に反映される立場の営業担当者では、後者の方がより責任は大きく、それに応じた処遇・待遇(高い賃金)にすることは、合理的に説明することができます。


②職務の内容・配置の変更の範囲 ~制度とその運用実態を踏まえて~
これは、主に人事異動に関わる内容となります。具体的には、職種変更や昇格昇進の範囲、転勤・出向などを伴う人事異動の対象となるか否かを明確にすることが求められます。かつ、重要な視点は、実態としてその運用がなされているかも加味する必要があります。よく、本社や管理部門にいる社員で転勤もあり得る人事異動の対象である社員が、実際には数年の間誰一人も転勤を伴う異動になったものはいないという場合に、転勤はないという理由で処遇・待遇が低く設定されている社員がいる場合には、その差は不合理であるとみなされる可能性があります。
ここは、人事制度の設計以上に運用実態も含めて検討する必要があります。


③その他の事情 ~登用・転換制度の加味~
従前は、主に労使交渉の経緯や定年後再雇用を取り巻く社会的な影響の観点から、判決の中でも触れられることが多かったのですが、今回の判決においては特に”登用・転換制度およびその運用実態”について触れられていたことが特徴であったと考えます。現実には、処遇・待遇が良い正社員とそうではない非正規社員(契約社員・アルバイト社員など)という構造がある中で、より処遇・待遇がよい正社員への登用・転換の機会が与えられており、かつ実際に登用・転換された社員がいることは、同一労働同一賃金を考えるうえで追加的に考えるべき取り組みであるといえます。人事制度設計および運用において、同一労働同一賃金への対応に加え、様化するキャリアニーズに応え、人材のより高いレベルでの活用・活性化を実現するために 重要な施策になると考えます。

人事戦略・人事制度を見直すうえで


以上の内容において、同一労働同一賃金に対応するために、実務的な観点から述べてきました。他方で、コロナ禍の環境変化を経験し、人材のあり方をはじめとした人事戦略・人事制度の見直しに直面している企業は少なくないのではないでしょうか。これまでにない危機感のもと、世間ではテレワークのあり方やジョブ型雇用を導入すべきか否か、話題に挙がっています。
これらは本コラムと別の内容のように感じられるかもしれませんが、根本には”どのような人材に、どのように働いて組織に貢献してもらい、それにどう報いるか”という考えがあります。これは企業側の視点だけでなく、個人としての社員のニーズの多様化にも応えることで、個々のパフォーマンスを最大限発揮してもらうことも含まれます。この根本的な議論のきっかけに、本コラムが活きればと考えています。


本コラム前編はこちら


※本コラムは、現状で信頼できると考えられる各種資料・判決に基づいて作成されていますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。また、本コラムは筆者の見解に基づき作成されたものであり、当本部の統一的な見解を示すものではありません。

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