価値のある業務マニュアルとは? 業務マニュアルの目的とつくり方のコツ
- 目次
業務マニュアルを上手に活用することで、業務効率化だけではなく、品質やサービスレベルの向上による付加価値の増大も可能です。誤解が多い業務マニュアルについて、真の価値やその活用方法だけでなく、作り方や業務マニュアルの更新方法などについても広く紹介します。
一般的な業務マニュアルと日本生産性本部が考える業務マニュアル「業務基準書」の違い
一般的な業務マニュアルとは?
一般的に業務マニュアルとは、仕事もしくは作業の手順や方法が記された文書です。この業務マニュアルを見て学習すれば、基本的には誰でも同じような成果(仕事のアウトプット)が期待できます。
しかしながら、業務マニュアルについてよく耳にするネガティブな評価として、以下の2点があります。
- マニュアルに頼ると、決まったことしかできない人間になってしまう
- マニュアルは作成した時点が最新であり、情報はすぐに古くなる
つまり、マニュアルがあれば仕事の効率化を生み出すことができるかもしれないが、それは一時的なものに過ぎず、人材の成長も見込めないというものです。
日本生産性本部が考える業務マニュアル「業務基準書」とは?
日本生産性本部では、無印良品の店舗で使用されているマニュアル「MUJIGRAM」をはじめ、様々な企業・組織のマニュアルを研究し、「業務基準書」というオリジナルの業務マニュアルを開発しました。
一般的な業務マニュアルと何が違うのでしょう。それは、「業務基準書」には、単に手順や方法(どのようにやるか)を記載するだけでなく、仕事の目的(なぜやるか)、仕事の達成基準(どれくらいからやるか)が示されていることです。
これにより、
- 1.従業員の自由な発想を引き出すことで、創意工夫を促すことができ、
- 2.仕事の目的や基準に照らして生まれた新たな気づき、工夫、改善提案をもとに、業務基準書が改善され、常に最新の情報が掲載されている
といったように、一般的な業務マニュアルとは異なり、多くの効果を生み出すことができるのです。
一般的な業務マニュアルと業務基準書の違い
これまでの話を登山に例えてみます。一般的な業務マニュアルは、左図のとおり、山を登るルート(手順・方法)だけしか書いていないので、例えムダが多く非効率と感じても、従業員はこのルートのまま進んでしまいます。
一方、右図の業務基準書では、山を登るルート(手順・方法)に加えて、山を登る目的や基準が示されています。例えば、景色を楽しみたいという目的であれば、絶景スポットを巡るコースが最適なルートになるでしょうし、運動不足の解消が目的であれば、適度な負荷がかかるコースが最適なルートになります。要は、仕事の目的によって、仕事の方法・手段は変わるということです。さらに、目的や基準があることによって、人はより良い方法を考えることができるようになるので、従業員は山を登るルート(手順・方法)を最適なものに改善していくことが可能になるのです。
業務基準書の構成要素
業務マニュアルをもとに業務を行い、従業員の創意工夫を引き出しながら業務改善を進めるために、業務基準書では次の6要素を記載することにしています。
- 目的 :「なぜ」それをするのか、企業理念・経営理念から考えたその業務の意味を記載する
- 実施事項:実務的にはなにをするのか、実施すべき項目・範囲を記載する
- 基準 :業務の基準、「いつ」「どこで」「だれが」「どの程度」まで行うのかを記載する
- 手順 :どのような順番で行うのか、全体を俯瞰する業務フローを記載する
- 方法 :具体的にどのように行うのか、業務のやり方を記載する
- ナレッジ:業務を行うための知識、知恵やコツ、ポイントなどを記載する
このうち、「手順」と「方法」は一般的な業務マニュアルでも記述されていると思いますが、それらに加えて、「目的」「実施事項」「基準」「ナレッジ」を網羅することが、使える業務マニュアルにするポイントです。
業務基準書の効果と活用方法
業務基準書の効果とは?
業務基準書には大きく分けて、作成フェーズと活用フェーズの2つの段階で効果を発揮します。さらに、活用フェーズでは、短期と長期でそれぞれ異なる効果が期待できます。ここでは、計6つの効果を紹介したいと思います。
作成フェーズで期待される効果
- 1.業務標準化による「効率化」
業務基準書を作る過程で業務が標準化され、ムリ・ムラ・ムダがなくなり、コスト削減につながる
- 2.「知恵」の共有
業務基準書を作る過程で現場の知恵や経験が反映され、個人の経験や知恵が組織に蓄積され、共有される
活用フェーズ(短期)で期待される効果
- 3.「再現性」の向上
業務基準書に沿って業務をすることで、初心者でも経験者と同じように業務をこなすことができる
- 4.教育の「均質化」
業務基準書を使って教育することで、教える内容を均質化できる
活用フェーズ(長期)で期待される効果
- 5.「理念」の統一
理念を反映させた業務基準書を使うことで、理念の浸透・統一することにつながる
- 6.改善の「風土化」
業務基準書で標準を決め、社員が応用することが可能になり、自分の頭で考えるようになる(「個人→組織→風土」のスパイラル)
業務基準書の活用方法とは?
上述のように、業務基準書は様々な効果を発揮します。このため、多面的な活用が可能になります。ここでは、主な6つの活用方法を紹介します。
- 1.経営 : 経営理念を浸透させるツールとして活用する ⇒ 理念の統一
- 2.本社機能 : 業務・作業変更時に活用する ⇒ 業務遂行能力の向上
- 3.全社員 : 基準があることで改善案、新しいアイデアが生まれる ⇒ 標準なくして、改善なし
- 4.ベテラン社員: 知恵や経験、ノウハウを業務基準書に反映させる ⇒ 暗黙知の蓄積
- 5.教育担当社員: 部下育成に活用する ⇒ 社員教育の効率化
- 6.店長 : 店舗マネジメントの指標として活用する ⇒ 業務標準化
業務基準書の作成方法とコツ
業務基準書作成の最適な組織体制とは?
業務基準書の作成に取り掛かる際、まずは、業務基準書を作成するメンバーを選定することから始めます。その際、可能であればメンバーは専任とし、例えば「業務基準書作成委員会」のようなセクションを立ち上げると良いでしょう。
メンバー選定は、その企業・組織のトップが行うのがベストです。経営者が「業務基準書(業務マニュアル)が我が社にとって必要である」と考え、作成する強い意志を持っていることが極めて重要になるためです。
また、具体的な人選として、フロントライン(第一線の業務担当者)の参加が重要です。なぜなら、フロントラインのメンバーが、最も効果的な業務の推進方法を知っていることが多いからです。仕事上の知恵や工夫は、フロントラインのメンバーの頭の中にしかありません。それを業務基準書に落とし込み、ほかの社員が共有できるようにしていきます。
まず業務基準書のコンセプトを考える
業務基準書の内容は、業種や企業規模、事業エリア、経営方針、業務の進め方などによって千差万別です。それは、業務基準書を作る目的や使い方が、企業によって異なるからです。企業・組織や店舗にとって最適な業務基準書を作成するために、どのような業務基準書が必要なのか、作成するうえでのコンセプトを明らかにしていきましょう。コンセプトづくりに必要なポイントは、次の5点です。
- 企業の理念・価値観
- 抱える問題点・課題
- 作成の目的
- 対象者
- 活用方法
きちんと業務基準書のコンセプトを設定しておけば、途中で目的を新しく付け加えたり、修正することになったりしても、軌道修正や優先順位の決定が簡単に、かつ、合理的に行えるようになります。
業務基準書は多くの人が関わりながら時間をかけて作成しますが、コンセプトを設定することで関係者の目線を合わせることに役立ちます。同じゴールに向かって取り組むことができる「羅針盤」の役割を果たしてくれるのです。
フォーマットやツールを使って業務基準書のバラつきをなくす
組織体制を整え、業務基準書のコンセプトを確認したら、いよいよ業務基準書の作成に入ります。業務基準書の作成段階で気を付けることは、業務基準書のフォーマットをあらかじめ定めることです。フォーマットを事前に定めることで記載する項目が明確になり、漏れやダブりの発生を防ぐことができます。フォーマットを作る際には、業務基準書のコンセプトを参考にすると良いでしょう。コンセプトには、自社にとって必要な項目が書かれているはずです。日本生産性本部が開発した業務基準書のテンプレート(無料ダウンロードはこちら)は、標準的な項目を網羅していますので、これを用いるのも良いでしょう。無料でダウンロードすることが可能ですので、確認してみてください。
業務基準書のフォーマットが確定したら、実際に業務基準書を作成します。その際、注意すべきことは、人によって情報量・記述量の差が出てきてしまうことです。通常、業務マニュアルの作成は複数のメンバーで行いますが、ある人はとても細かく記述する一方、ある人は大雑把な記述になるなど、どうしても出来栄えにバラつきが生じてしまいます。このバラつきを抑え、業務マニュアルの情報量を揃えることに役立つのが、我々が開発した3つの作成支援ツールです。
- 業務分析ツールSOA(サービス・オペレーション・アナリシス)
- 業務基準書作成に必要な項目を網羅することを念頭に開発された業務分析ツールです。現場で活用、理解のしやすいワークシートで情報を過不足なく可視化できます。
- 標準判定ツールSOC(サービス・オペレーション・クライテリア)
- 業務の「良さ」を図る手法としては、定量評価と定性評価があります。その定性評価における視点をIE(インダストリアル・エンジニアリング)の考え方をベースにあらゆる産業で活用できるようにアレンジしています。
- 基準書作成ツールSFD(サービス・フロー・ドキュメンテーション)
- 基準を全社員で実現するための「業務基準書」の作成を支援します。フォーマットはもちろん、書き方や表現方法、チェックリストなどをまとめています。上記2つのツール(SOA・SOC)と連動し、精度が高く、深度・粒度の揃った基準書作成に効果を発揮します。
こちらも無料でダウンロードすることが可能ですので、参考にしてみてください。また、日本生産性本部では、ツールの使い方をはじめ、業務基準書の作成方法をレクチャーする講座も開設していますので、よろしければご参加ください。
業務基準書(業務マニュアル)の更新・改善方法
業務基準書は常に変化する
業務基準書は、作成しただけでは完成しません。どれだけ完璧につくり上げたとしても、現場の状況はどんどん変化していきます。基準やルールというものは、つくったとたんに陳腐化がはじまる運命にあるのです。したがって、業務基準書を常に改善し、アップデートしていく仕組みを整える必要があります。
業務基準書を常にアップデートしよう
無印良品を運営する株式会社良品計画の松井忠三 元会長は「標準なくして、改善なし」とおっしゃっています。改善を進めていくうえでもし基準があれば、何をどのように変えるか、変えていくことでどのような効果を手に入れることができるのか、従業員も理解できるようになるのです。
業務基準書には業務手順はもちろん、業務の「意味・目的」も記載されています。従業員も業務の目的が理解できるので、それをベースに現状の業務とあるべき業務を整理することができ、それがやがて「改善の土壌」になっていきます。
松井氏は、”MUJIGRAM”の仕組みを日本の伝統芸能における「守破離」に例えています。守破離とは、「何かことを為す」ときは、まず、その教えを「守」り、型を自分自身で鍛錬、研究し、型を「破」っていきます。最後にそこから「離」れて、自由になるという考え方です。
業務基準書の活用も同様です。もともとある基準をいつまでも守っているだけではダメで、日々、業務を遂行する中で生まれたアイデアやノウハウを使いながら、現状の基準を「破」り、新しい基準としてブラッシュアップしていくことが重要なのです。
この守破離の思想に基づき、「型破り」をするからこそ、業務基準書は常にアップデートされていくのです。
みんなで参加する意識を持とう
業務基準書の改善は、部署・個人単位ではなかなか十分に行えません。やはり、組織的に長期にわたって繰り返し、常に継続されていることが重要です。そのためには、個人の自発性だけに頼るのではなく、改善が生み出される仕組みをつくることが必要です。具体的には、「体制づくり」「仕組みづくり」によって従業員の自発性を高め、改善を進めていくのがセオリーです。更新・改善を進める3つのステップを紹介します。
- 1.体制づくり
- 推進する組織を設ける、担当者を置くなど体制を構築する
- 社内の連絡など、改善に関わる事務局などを設置する
- 2.仕組みづくり
- 組織的な活動として、現場の意見の収集、改善案の評価、改善の横展開、教育、改善活動のモニタリングなどを行う
- 1年もしくは半期に1回の改善発表など、全社的なイベントを企画する
- 3.継続的改善
- 各部門により、継続的な改善を実施する
改善をうまく進めるステップ
業務基準書ごとの具体的な改善のステップは、次の4ステップで行うとよいでしょう。
- 1.改善対象の選定
業務基準書を改善するときは、すべての作業を対象とするわけではなく、特に効果が大きい分野や緊急性の高い分野に絞ることで効率を上げるようにします。改善対象の選定については、次の様々な要素を考慮して考えることになります。
- 現場への負担が大きい、ムダが多いなど、現場が改善すべきと判断した業務
- 業務のボトルネックとなる業務(企業の成長を妨げている業務)
- 経営からの要請
- 2.現状分析
改善すべきと判断された業務について、現状を調査し、問題点を分析します。分析方法としては、カスタマージャーニーマップやサービスブループリントなど様々な手法があります。
- 3.改善策の作成
5W1Hなどを活用し、改善策を検討します。新しい手順、方法の試験を行うなどして、ベストの改善策を決定します。
- 4.効果確認・標準化
改善策を評価し、標準化すべきかの判断を行います。改善対象とした業務が標準化すべき作業だと判断できたら、業務基準書を改訂します。場合によっては、教育担当などによる新基準の解説、導入教育を実施し、全店舗に新たな業務基準としての定着を図ります。
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サービス産業生産性協議会 業務仕組み化プログラム担当
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