業務標準化・マニュアル化を成功に導くvol.1 ~業務マニュアル作成のコツとノウハウ~


業務マニュアルは組織の業績を左右する大切なツールです。品質向上、従業員教育の効率化、業務の一貫性維持に役立ちます。だからこそ、その効果的な作成方法と有効な活用方法を理解することが重要です。本コラムでは、業務マニュアル作成のコツやノウハウなど、業務マニュアルの魅力を最大限に引き出すポイントを解説します。業務改善を目指す際にぜひ参考にしてください。

1.「業務基準書」が一般的なマニュアルと異なる「現場視点」とは

業務基準書とは仕事の目的や手順が書いてある文書のことです。一般的にはマニュアルと呼ばれています。しかし、業務基準書と名付けたのは、仕事の目的を明確にしたうえで、現場目線で作成することを徹底して行う点が、一般的なマニュアルとは異なると考えたからです。
一般的なマニュアルは本社部門や上司、仕事のできる人が、あるべき(理想の)姿をもとに「こうあるべき」「これを守りなさい」という形で現場に展開されます。そのため、現場の通常業務とはかけ離れた手順となっていたり、やらされ感につながったりします。しかし「マニュアルは現場の生産性を上げるもの」という位置づけを明確にして、現場視点でマニュアルを作成すると、現場のやる気は上がり、生産性が上がるのです。その違いを明確にするために、私たちの作るマニュアルには「業務基準書」と名付けました。

業務基準書は、無印良品が店舗で活用しているMUJIGRAMをベースに、大手の小売業やサービス業のマニュアルの調査結果を参考にして、サービス生産性協議会が開発しました。汎用的で、現場で使いやすく、誰でも比較的簡単に業務基準書を作れるツールを目標とし、無印良品からの出向者や大学教授、コンサルタントが知恵を出し合いました。

業務基準書のベースとなっているMUJIGRAMとは、無印良品が店舗で使用しているマニュアルのことです。


2.「マニュアル化」は収益改善のネタの宝庫!

人手不足の書店での出来事を紹介します。ご存じの通り、書店はAmazonを始めとするECに押され、売上げが下がっています。そのような中、複数店舗を運営するA書店では「店舗でしかできない価値 を提供し、地元の顧客に愛される店づくり」を方針として掲げ、入荷した本は、その日の開店時間までに陳列することを朝の作業の目標としていました。しかしながら、店舗の半数では人員不足で実践できないということが起こっていました。そこで、開店前作業に関する業務基準書作成支援に入りました。
まず数店舗の現場で作業の観察を行うと、新しく入ったアルバイトの手待ちが多く見られました。その要因を調査すると、新人のアルバイトに作業を教える時間がなく、アルバイトが何をどのようにしたらいいのかわからず、指示があるまで待っているとのことでした。さらには、効率的な作業のやり方を教えておらず、作業自体も通常の2~3倍の時間がかかっていました。

業務基準書での改善効果は、年間16百万円(20店舗×2時間×2千円×200日)が見込まれました。些細な改善ではありますが、チリ も積もれば大きな金額となります。


3.なぜマニュアル作成が業務改善につながるのか?優先順位の判断や業務棚卸しの手法を解説!

業務基準書(マニュアル)というと、部門の担当者が仕事を覚えるドキュメントだと考えがちです。確かに最終的な使い道を考えると間違いではありません。しかし、作成プロセスに焦点を当てると「業務改善」といえます。業務基準書を作るには、業務を作業レベルで見える化する必要があるため、業務の問題点に気づくことができます。それらを徹底的に改善していけば、ミスの減少や作業時間の短縮につながるのです。
業務基準書を作成するためには、業務をすべて洗い出し、優先順位をつけて作成するのが効率的です。優先順位をつけたあと 、業務を1つひとつ見える化し、やり方を評価、文書化するという流れです。業務改善につながるのは、業務を見える化し、やり方を評価するからです。


4.マニュアル化のための効果的な業務棚卸の方法

業務棚卸しのやり方には、業務フローに沿って洗い出していく演繹的アプローチ と、思いつくものを洗い出したのちに整理する帰納的アプローチの2つがありますが、コンサルティングの現場で多いのは帰納的アプローチです。その理由は帰納的アプローチの方が早いからです。
進め方としては、職場のメンバーを集め、模造紙と付箋紙を用意します。そして、仕事の大きさは考えず、思いついたものをとにかく書き出していきます。10~20 分くらい経過すると、8~9割くらいの仕事は洗い出されます。洗い出した付箋紙を仕事の流れ順に模造紙に貼り出していきます。貼り出すとき、業務レベルなのか、作業レベルなのか、詳細作業レベルなのか、仕事の大きさを考えながら整理していきます*。

* 仕事の大きさは、業務>作業>詳細作業の順になります。それぞれの粒度の目安は、次のとおりです。

  • 業務:会計業務、接客業務、発注業務、荷受業務
  • 作業:お客様をお迎えする、金銭を授受する、お見送りする
  • 詳細作業:金額を伝える、代金を受け取る、お釣りを返す

付箋紙で具体的な仕事を検討していくことで、議論が空中戦にならず、メンバー間で仕事の大きさの認識もあっていきます。
次に、付箋紙の貼られた模造紙を見ながら漏れがないかを確認します。


5.業務を「見える化」するSOAとは?「骨格」から始めるマニュアル化

通常、業務基準書(マニュアル)を作成するというと、頭の中にある作業の手順をパソコンできれいにまとめることを想像されると思いますが、初めに行うことは骨格(下書き)の作成です。骨格とは、業務基準書のポイントを抜き出したものです。業務を作業レベルに分解し、洗い出していくのです。
骨格を作ってから業務基準書を作成するとなると、手間と時間がかかると思いがちですが、イメージとは逆に業務基準書の作成スピードは速くなります。いきなりパソコンで作成していくのは、一見進んでいるように感じますが、何を書くかがまとまっていないと、作成しては修正するという形になり、行ったり来たりして時間がかかっていることが多いのです。しかし、骨格を作ってからパソコン作業に入ると、あとは文章化するだけなので比較的短時間で済みます。考えながら作成するのではなく、考えることと作成することを分けることで、作成時間は短縮化されるのです。

また業務の問題点が明確になるというメリットもあります。作業手順やポイントを書き出すと、ムダな作業に気づいたり、人によって作業のやり方が異なることに気づいたりします。特に小売・サービス業の場合、人によって作業のやり方が異なることが多いので、骨格を作成した時点で共有し、作業のやり方を統一しておくことが重要です。ここで統一しておかないと、業務基準書を現場に配布したあとに修正の依頼が来たり、記載されているやり方では現場は回らないなどの意見が届いたりすることにつながります。業務の問題点や事前の合意形成を図るうえで、骨格を作成することが重要なのです。
ある企業では骨格を作った段階で、店舗ごとに業務のやり方が全く異なっていることが判明しました。また、議論を通じて、生産性の違いは作業のやり方の違いに起因することが分かりました。その企業では、生産性の高い店舗と低い店舗の骨格を比較することで、作業の流れの違いを見える化し、よりよい作業の流れを作っていきました。 これまでは本部が作成したマニュアルを一方的に配布していたため、現場の反発が強かったとのことですが、骨格の段階で時間をかけて議論することで、現場が自分事としてとらえるようになり、浸透しやすくなったといいます。
サービス産業生産性協議会では、骨格を作る道具としてSOA(サービス・オペレーション・アナリシス)というフレームワークを開発し、活用しています。このフレームワークを使うと、業務基準書に必要な情報を漏れなく洗い出すことができ、業務内容や作業の流れを議論しやすくなります。


6.マニュアル作成は急がば回れ フレームワークを使って仕事を分析しよう

SOAのフォーマットは1つですが、「業務のSOA」と「作業のSOA」 の2種類を作成します。
まず、「業務のSOA」の作成です。「業務のSOA」で初めに考えることは業務の定義です。業務の始まりと終わり、業務の概要を書き込みます。多店舗展開している場合は、店舗によって業務名と内容が異なるので注意が必要です。
次に考えるのは、業務の行動基準です。これは業務基準書の核となるもので、業務の目的を明確にするものです。これが決まると、目的に沿っていない作業は見直すことができます。「なぜ」を記述したら、企業理念やビジョン、戦略と合致しているかを確認してみるとよいでしょう。

そして、最後にいつまでに何分でやる作業かという時間基準と作業者人を明確にして「業務のSOA」の完成です。「業務のSOA」が完成したら「作業のSOA」の作成です。まず、業務を構成する作業の洗い出しを行います。たとえば、カレーの調理業務であれば、野菜の皮むき作業、材料のカット作業、煮込み作業などで構成されます。業務を構成する作業を洗い出し「作業のSOA」に作業名を書き出します。その際、1つの作業につき1枚の「作業のSOA」を作成します。


7.マニュアルの「納得感」を高めるノウハウとは?

小売・サービス業の業務基準書(マニュアル)の作成で最も難しいのは、業務のやり方を統一することです。その理由は、店舗によって運営条件が変わる上に、個人の経験に依存するからです。
店舗によって、レイアウトや面積、品ぞろえが異なるため、仕事のやり方を統一すると生産性が落ちる店舗が出てきます。さらに、接客や応対などは、個人の過去の経験が仕事のやり方に大きく反映されます。時間がかかっても、よい接客をして褒められれば、それが成功体験となり、同じような接客を繰り返します。そして、その体験に基づく仕事のやり方を後輩に教えていくのです。

一方、時間をかけて丁寧に接客をしても、顧客から指摘を受けたり、上司から叱られたりすると、それがきっかけでスピード重視の接客になっていきます。これは現場だけでなく、指導する側も同じです。そのため、運営部長をはじめとする管理職が変わるたびに業務のやり方も変わるということが起こります。
さらに、製造業のように、決められた作業手順で行っていなくても、作業スピードの低下やクレームの発生などがすぐにわかるわけではないので、全員が合意できる作業のやり方を設定するのが難しいことも特徴です。そこで役立つのが、経営理念・経営戦略・SOC(サービス・オペレーション・クライテリア)による業務評価です。

8.マニュアル化の仕上げ「文章化」のコツ

業務基準書の骨格である業務SOAと作業SOAが確定したら、残るステップは「文章化」です。文章化をするにあたってはSFD(サービス・フロー・ドキュメンテーション)として、「業務基準書フォーマット」「記述のポイント集」「チェックシート」の3つのツール類*を用意します。

サービス産業生産性協議会が開発した業務基準書は、基本フォーマットを統一しています。さまざまな小売・サービス業のマニュアル類をみたコンサルタント曰く、多くの企業ではフォーマットが統一されていなかったそうです。マニュアル作成者からは、「たかがフォーマット」と思いがちですが、フォーマットが統一されていないと読む側はとても大変で、頭に入りにくく、あとで見返すのも手間がかかります。フォーマットが統一されていれば、初めてのマニュアルでも、どこに何が書いてあるか予想がつくので、必要な情報が探しやすくなります。業務基準書やマニュアルは、内容が伝わって初めて効果が実感できるため、フォーマットを統一するほうがよいでしょう。


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