業務改善の進め方のポイントと企業事例

働き方改革や残業削減に向けて、業務改善に取り組まれる企業・組織も多い昨今、働き方改革関連法によって時間外労働への規制が強化されています。限られた時間の中で、より質の高い仕事を行うために業務の見直しや改善が求められます。工場の現場改善とは異なり、ホワイトカラーやサービス業の業務プロセスは見えづらいため、まずは問題の見える化を進めることが最大のポイントとなります。

管理間接部門における残業削減の考え方と効果的な進め方とは ?

残業削減の基本的な考え方

管理間接部門の残業発生状況には一般に次のような特徴があります。

①人によるバラツキが大きい(特定個人への業務集中)
②残業の発生時期が決まっており、波が大きい。

このような状況に対して残業規制、定時退社奨励、フレックスタイム等の施策で対応している企業が多いと感じられます。

働き方を抜本的に改革するには「労働生産性の向上」が不可欠です。自社の労働生産性の構造を理解し、適切な対策を打つことが肝要です。対策の方向性としては、①戦略の問題、②業務の問題、③組織・個人の問題、④マネジメントの問題に大別できると考えていますが、今回は業務の問題にフォーカスして基本的考え方を述べます。

管理間接業務の一般的な特徴

管理間接業務には一般に次のような特徴があります。


①業務プロセスが個人の頭の中にあるため、業務プロセスの実態が見えにくく、ブラックボックス化している。そのため標準化が進められず、多能化ができない。多能化ができないため応援体制が組めず、特定個人に負荷が集中する。

②部門間をまたがる業務が多く、業務方法を変更することの可否が担当者では判断できない。

③戦略・企画立案のような創造的業務と定型資料作成・伝票処理のような定常的業務を分類して認識していない。

④経営課題の変遷に伴い、様々な新規部門を創設し、新たな業務が発生するが、過去の業務の見直し、棚卸しが行われていないため雪だるま式に業務量が増加している。また、新規業務は、より良い成果を目指して肥大化する。


最も根源的な課題は「業務が見えにくい」ことであり、そのことが改善を阻害し、労働生産性を低下させていると考えます。


サービス業における業務改善の進め方とは?

製造業とサービス業における業務の特徴の違い

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「製造業の改善ノウハウを生かせばサービス業の生産性を向上させることができるのではないか」。そのように思う方は多いと思います。しかし同時に「製造業とサービス業は違うので無理だ」と考える方もいらっしゃるでしょう。一般に製造業とは異なるサービス業としての特徴として次の三つが挙げられます。


①生産と消費が同時である「同時不可分性」

②品質がサービス提供者によって変わる「非均一性」

③サービス自体には形がない「無形性」


例えば、旅館業であれば、仲居さんが宿泊客に提供する給仕や接待などのサービスは、仲居さんがサービス提供すると同時に宿泊客がサービスを受け取る「同時不可分性」であり、そのサービスの品質は個々の仲居さんに依存しているため、「非均一性」があり、給仕や接待などのサービスは形がないという点で「無形性」といえます。

製造業のノウハウを生かしたサービス業での業務改善

このような特徴を見ると製造業とは大きく違うため、「やはりサービス業に製造業の改善ノウハウを生かすのは無理では」と思いがちです。しかし、サービス業の仕事の内容を細かく見ていくとすべての仕事が上記の三つの特徴に該当する訳ではありません。

例えば、旅館業でも厨房で料理を調理し部屋まで運ぶ作業は、三つの特徴に当てはまりません。サービス行為ではなく、生産行為及び物流行為です。販売業でもお客様と対面する接客はサービス行為ですが、実は店員はとても多くの時間を品出しや棚入れなどの作業に費やしています。これはサービス行為ではなく、物流行為です。この時、「品出しや棚入れは物流行為である」と認識すれば、製造業の改善ノウハウを生かして徹底的に改善して標準化することができるはずです。

製造業のノウハウを生かしたサービス業の改善・改革は、自社の業務について、ひとくくりにサービス業と捉えず、「この業務はサービス行為、この業務は生産行為または物流行為」と区分し、まずは生産行為や物流行為に対して徹底的にムダを取る。そしてムダを取ることにより生み出した「余裕」を使ってサービス品質の向上やバラツキ削減を目指すという流れが望ましいと考えます。


はせがわ(小売業)における業務改善事例

全社的な業務改革に挑む

仏壇・墓石の販売などを行う「はせがわ」(東京本社=文京区後楽)では、顧客ニーズの多様化・高度化などに伴い、今までも関係部門で様々な改善を行ってきました。

しかし、それ以上に業務自体が増え、複雑化したため、営業店や本社・間接部門などの事務作業量が増加する傾向にありました。間接部門においては、部門ごとに固有の業務マニュアルはあるものの、統一された全社共通の業務マニュアルはなく、異動などで他部署から来た担当者が、業務の仕方に戸惑ったり、時間がかかったりすることもありました。

そこで2012年度から日本生産性本部の経営コンサルタントを招き、全社的な業務改革プロジェクトをスタートさせました。

マニュアルの整備からコンサルティングがスタート

コンサルティングはまず、本社業務の棚卸、間接部門の全社共通の業務マニュアルの整備から入りました。「担当の小林コンサルからは、『業務マニュアルをつくったら本社の仕事が見えてくる。見えてきた本社の仕事と営業店の仕事は必ずつながっているから、そのつなぎのところをシームレスにすることが重要だ』と指摘された」と豊永誠・はせがわ業務改革部長(当時)はいいます。

業務マニュアルには、業務名、業務概要、業務の目的、関連する部署・チーム名、サイクル、回数、期間、業務のポイント、業務に関して気になる点、作業時間、業務のフローチャートなどを記入していきました。紙ではなく、データで作成し、社内Webに保存しているので、誰でも見ることができます。作成された業務マニュアルは約800本にも及びました。この業務マニュアルによって、部門ごとの業務本数や、業務ごとの所要時間、関係者間における時間を要している箇所などが見えるようになりました。


BBSジャパン(輸送用機器)における実践型職場改善研修事例

職場改善のための実践型研修を実施

車輌用軽合金ホイールの国内製造販売及び輸出入を行う自動車部品メーカーのBBSジャパン(高岡本社=富山県高岡市)は2016年度、課長から主任層を対象としたマネジメント研修を実施しました。BBSブランドのホイールは様々なモータースポーツに供給されています。

同研修は、2016年8月から今年2月まで、毎月1日、計7日間、高岡工場内の食堂で開催され、高岡本社、高岡工場、小矢部工場(富山県小矢部市)に勤務する総務、業務、製品検査、品質保証、技術開発、製造、金型の各部署に所属する課長、担当課長、係長、主任の一部の計37人が参加しました。

「最初はもっと対象をしぼって次世代のリーダーを育成しようと考えていたが、こうした研修の受講経験がない人も多かったので、もう少し下の層まで受講の対象を広げ、幅広くマネジメントや改善の基本を身に付ける研修を行うことにした。現場で改善を行う際に、課長一人が研修を受けただけでは、なかなか現場にはその考え方が浸透しない。改善などの共通の考え方を浸透させるために対象の人数を増やした結果、参加者は当初予定の2倍程度に増えた」と田中康博・BBSジャパン経営戦略本部長(当時)はいいます。

8月の第1回研修では、リーダーの能力開発、戦略的思考、チームワーク力などを学びました。その際に、「職場改善課題テーマ」の選定と計画策定についての宿題(自職場の確認)も出されました。自社製品を友人に勧めることを想定してA4に説明を手書きで書いてもらい、1分間で相手に伝える演習である「1分間プレゼンテーション」も行われました。

9月の第2回では、PDCAの重要性、部下に対する動機付け、簡易巻紙分析を用いた技能伝承を学習。「職場改善課題テーマ」の演習(自職場のありたい姿と現状のギャップから課題を整理する)も行われました。1回目に続き、「1分間プレゼンテーション」も実施されました。

10月の第3回では、論理的思考の講義と演習(連関図による原因分析、系統図による対策検討)を学び、これまで学んだ戦略的思考や論理的思考などを用いた「職場改善課題テーマ」の検討も行われました。


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