すぐそこにある「地球の限界」 清水 きよみ SDGs推進室長(2023年4月25日号)
連載「サーキュラーエコノミーを創る」① すぐそこにある「地球の限界」
2022年1月に企業・団体等で働く1100人に「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という言葉の認知度を調べたところ、「聞いたことがない」が78%、「聞いたことがあり、内容もある程度わかる」はわずか6%であった(第8回「働く人の意識調査」) 。
2023年3月に開催された2022年度第6回生産性シンポジウムの参加者に、所属企業・団体でのサーキュラーエコノミーへの取り組みレベルを5段階で聞いたところ、平均2.5となり、「理念の理解は進んでいるが実践はまだ」「社内の評価軸が成長のみ」という回答も見受けられた。
サーキュラーエコノミーレポートを発行し情報開示に努める会社、専門の部署を設置する会社もあるなか、温度差は大きい。
なぜサーキュラーエコノミー?
世界の人口は、2000年の61億人が2050年には97億人、資源採掘量は、2000年530億トンが2050年に1830億トンになると予想されている。
地球の限界(プラネタリーバウンダリー)を超えた活動は、気候変動、天然資源の枯渇、生物多様性の損失、貧困、格差など様々な問題を引き起こし、サステナブルとは言えない。問題を解決してくれそうな再生可能エネルギーやデジタル化の進展も、莫大なエネルギー使用、鉱物資源やレアメタルの争奪戦などを引き起こしている。
サーキュラーエコノミーとは、資源投入量・消費量を抑えながら、サービスなどを通じて付加価値を生み出す経済活動のことである。大量生産・大量消費の一方通行型の経済社会活動から、持続可能な形で資源を利用するサーキュラーエコノミーへの移行を目指すことが世界の潮流であり、新たな競争力の源泉になる。
スタートは2015年
2015年に国連サミットでSDGsが採択された。国連環境計画は、2014年に大量消費により世界で非再生可能資源が激減するなか、技術と政策による資源生産性の向上で経済成長の持続は可能という報告を発表。これを受けて、EUでは2015年12月に「サーキュラーエコノミー・パッケージ」、2020年3月に「アクションプラン」が採択された。サーキュラーエコノミーをグリーンディールと成長戦略の中心に据え、規制と標準化を両輪として、世界のルールメーキングを先行しようという意図がみえる。その後、欧州各国が次々に戦略を打ち出している。
日本では、2018年3月の「第四次循環型社会形成推進基本計画」で、資源生産性の高い循環型社会を構築し世界に広げるとし、資源生産性向上の数値目標が設定されている。
2020年5月には、経済産業省が「循環経済ビジョン2020」を策定し、あらゆる産業が資源効率性向上を認識しビジネスを変革することや社会全体としてのサーキュラーエコノミーへの移行を促した。
環境省は2022年9月に「循環経済工程表」、経済産業省は2023年3月に「成長志向型の資源自律経済戦略」を発表した。サーキュラーエコノミーに転換しないリスクとして、潜在成長率の低下や世界のビジネスからの排除などを挙げ、資源や環境制約を、成長機会の創出につなげるとしている。
日本生産性本部の取り組み
日本生産性本部は、〝Productivity for SDGs"を掲げ、未来への責任を果たすべく、環境と調和し持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいる。2020年発行の「生産性白書」では、生産性測定の課題を取り上げたが、その後、資源生産性向上とサーキュラーエコノミーに関し、有識者、企業、自治体へのヒアリング調査を実施した。日本の法規制や商習慣、ビジネスモデル転換の難しさ、経済性、消費者意識など、様々な課題が挙げられた。
一方、MOTTAINAI精神やごみの分別への協力、丁寧さなどの強みを生かして、日本ならではの循環経済社会構築に期待する声や、技術力をもとに世界のリーダーになることを望む、物の循環だけではなく、人の気持ちの循環やウェルビーイングが重要、など多数の意見をいただいた。
社会実装への第一歩として、2022年3月に第6回生産性シンポジウム「サーキュラー・ソサエティの実現に向けて~ビジネスも暮らしも変わる」を開催した。地域社会・経済を基礎に、製造業、資源再生業、サービス業、生活者、大学・研究機関などが一体となり、モノ・サービス、カネ、情報などを再生・循環させていく社会の仕組みを「サーキュラー・ソサエティ」と名付けて提案し、実現への課題や方策を議論した。
経営アカデミーでは、2021年度より「循環経済生産性ビジネス研究会」と「循環経済ビジネスに向けたイノベーションとビジネスモデル講座型研修」を開設している。循環経済生産性ビジネス研究会では、ゲストスピーカーを囲んで毎回活発な議論が繰り広げられている。循環経済ビジネスに向けたイノベーションとビジネスモデル講座型研修では、他業界の参加者とともに頭を柔らかくしつつ循環経済としてのビジネスモデルのデザインを行う素地を学ぶ。そのなかで、企業が連携しての新たな取り組みも始まっている。
2023年3月に行った2022年度第6回生産性シンポジウム「ビジネスで創る循環経済社会」では、地球の限界を超えないためには、循環経済型のビジネスモデルへの転換と資源生産性の向上が必要であり、今すぐに始めないと間に合わないと警鐘を鳴らした。
連載の狙い
本連載企画では、各界の方々から寄稿をいただきながら、知り、考えて、踏み出し、共創、協働していきたいと思っている。EUの動向、サーキュラーエコノミーとデジタル化、都市鉱山の活用、資源循環を促進する社会のデザイン、マクロ的な観点からの論考やビジネス界での取り組みなど、様々な情報をお届けする。
サーキュラーエコノミーの実現には、幅広い業種の連携が必要となるほか、自治体や地域での取り組み、消費者のライフスタイルの変容や協力も欠かせない。連載をきっかけに、共創、協働の芽が生まれ、大きな循環の輪に育っていくことを願っている。サーキュラーエコノミーは、明るい次世代を創っていくものと信じている。(11回連載予定)
著者略歴
清水 きよみ 公益財団法人日本生産性本部 SDGs推進室長
東京ガスで調査、環境等を担当後、渡欧。欧州事情を日本に発信。帰国後、CSRシンクタンクや東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、大学講師等を経て、2012年消費者関連専門家会議事務局長、消費者志向経営の推進に尽力。2018年より日本生産性本部に転籍し、「生産性白書」編集、SDGsの推進、サステナブル経営の人財育成等に携わる。消費者庁倫理的消費調査研究会、農水省農林物資規格調査会、内閣府「社会的責任に関する円卓会議」、ISO/COPOLCO国内委員会委員等を歴任。
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