第5回:地方銀行のコンサルティング会社化~山形銀行・TRYパートナーズ~(2022年3月25日号)

■地方銀行が県内企業を支援

山形銀行が全額出資し、2020年4月に開業した「TRY(トライ)パートナーズ」は、地域商社とコンサルティングの両面から、県内企業の経営をワンストップで支援することで、地域の成長発展を目指している。


山形銀行では、2012年から「山形成長戦略プロジェクト」に取り組んできた。


「当時、『今後30年間で山形県内の人口は30万人減少する』という予測に直面し、山形県のリーディングバンクとして強い危機感を覚えた。山形県の成長なくして山形銀行の成長はないという考えのもと、地域経済の衰退に歯止めをかけるため、地方創生の先行的な取り組みとして『山形成長戦略プロジェクト』を2012年に立ち上げた。向こう10年で起こり得る県内GDPの減少(約2000億円)、雇用の減少(2万7000人)を2012年の現状並みに維持することを数値目標とし、山形銀行が、産業の黒子ではなく、自らが産業の主体となって新たなビジネスを創造し、地域経済の活性化を図るための活動を開始した」(飯野直・TRYパートナーズ代表取締役)という。


プロジェクトの発足にあたっては、5人のメンバーを銀行の通常業務から切り離し、企業誘致や起業支援、産業育成といった山形県経済の成長に向けた業務に集中させた。様々な仮説の中から、製造業の復興と、ヘルスケアビジネスの創出を優先的に取り組むことにした。


製造業の復興では、大学などのインキュベーション機能を活用しながら、産業の創出と産業集積地の構築を目指すため、鶴岡と米沢・飯豊の二つのモデル地区を選定した。


前者には、慶應義塾大学先端生命科学研究所を核にバイオ関連企業が集積しているが、同社では、ベンチャー企業に対して、提携先のマッチングや各種補助金の申請支援を行うなど、幅広い活動を展開した。


後者では、リチウムイオン電池の研究開発拠点の新設を支援し、ベンチャー企業の代表者に行員を派遣するなどした。


ヘルスケアビジネスでは、上山市の健康を軸としたまちづくりを支援し、交流人口の拡大促進などを図った。

こうした地方創生の取り組みを通じて培ったノウハウを生かし、地域経済の活性化に向けた動きを山形県内に広めていくために、山形銀行の100%出資子会社として、2019年12月に地域商社「TRYパートナーズ」が設立された。金融機関全額出資の地域商社は同社が全国で初めてだった。
 
同社は従業員10人で、「地域・お客さまとの『共働』『共創』『共栄』」を事業コンセプトに掲げ、地域商社事業とコンサルティング事業を中心に、人材紹介事業や不動産マッチング事業なども手掛けている。

地域商社事業では、県内企業が持つ優れた製品の販売を支援するほか、顧客の企業価値向上に向けて、企画段階より顧客に寄り添ったマーケティングやブランディング等を行っている。

コンサルティング事業では、「経営相談・経営診断」「経営計画策定・戦略立案」、「人事制度の設計・構築・運用支援」、「営業・マーケティング支援」「IT活用支援」などの各種経営コンサルティングサービスを提供している。

地域商社事業の実績としては、山形大学発ベンチャー企業が開発した「介護向けベッドセンサー」があげられる。同センサーは、ベッドに横たわるだけでバイタルデータを取得・蓄積できるため、寝ている人の体調変化にいち早く気づくことができる。




 
また、鶴岡の「バイオサイエンスパーク」内にあるサリバテックが開発した、唾液中の代謝物質からがんのリスクを手軽に測定できる「サリバチェッカー」の販売支援も行っている。

コンサルティング事業については、「人事制度の構築など、人事関係の相談・受注を多くいただいており、好調だ」(飯野氏)という。

■県産品の魅力を県内外に発信

(飯野 直・TRYパートナーズ 代表取締役の話)


TRYパートナーズの設立当初は、山形銀行内でのTRYパートナーズのビジネスモデルに対する理解度にバラつきがあり、相談案件の選別が大変だったが、近年は山形銀行の現場でも、どういう案件をTRYに持ち込めばいいのか、勘所の理解が進んだことで、案件の質が上が
ってきたと感じている。銀行の現場に理解を深めてもらうことを今後も強化していきたい。

コンサルティング事業においては、人事制度関連以外の業務をもっと広げていきたい。組織人事以外に手掛けていない領域がまだまだたくさんあると思っている。限られた人数でやっているので他社とのアライアンスもより一層進めていきたい。地銀系の子会社ならではのビジネスモデルが少し見えてきたところであり、それを今後も進化させていきたい。

地域商社事業においては、県産品の魅力を積極的に県内外に発信し、地域の価値を創造していきたい。

いずれについても山形県の成長発展について責任をもって山形県とともに歩んでいきたいと思っている。

 

■今の時代にもマッチ

(コンサルティング会社化を支援する 林 正和・日本生産性本部 主席経営コンサルタントの話)

地方銀行を取り巻く環境は厳しく、人口減少、法人の減少により、融資での収益が減少し、銀行としても新しいフィービジネスへの期待は大きい。TRYパートナーズのような銀行子会社は、コンサルティングを通して、地元企業の悩みの相談役としてお役に立てることができ、時代にマッチしている。

私は、人事制度の構築を中心に支援している。中小企業では、社長が独断で社員を評価して、賃金を決定している会社もあり、若手社員の不信感につながっていることも多い。営業に同行してみて、従業員100人以上の企業だけでなく、50人以下の企業でも人事制度構築のニーズはかなりあると感じた。

今はTRYパートナーズのスタッフと同行することや、一緒に人事制度を構築することで、ノウハウを提供している。スタッフは30代半ばの人が多く、自分で手を動かしながら、積極的に知識やノウハウを吸収している。優秀な人材が多く、コンサルタントとしてはやりやすい。

コンサルティング事業では、人事制度関連の支援や社長の相談役、業務改善支援などに加え、企業再生案件にも取り組んでいけば、より一層地域のためになるのではないかと考えている。それには融資が絡むので、銀行本体との関係を整理していく必要がある。今後、新型コロナウイルス関連の融資の返済に苦慮する会社が出てくるので、企業再生にはかなりのニーズがある。再生案件を上手に取り込んでいければ、さらに成長の余地はある。

地方銀行には、地域の企業の支援を行う、頼れる存在でいてほしい。取引先が発展しなければ銀行も発展しない。銀行の利益も大切だが、地域発展の核・地元企業の拠り所でいてほしい。

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