第3回:広島県による中小企業のデータ活用支援~広島県~(2021年12月15日号)

■中小企業支援 データ分析セミナー

広島県商工労働局イノベーション推進チームの中小・ベンチャー企業支援担当では、データ活用による売上拡大や業務改善を目指す中小企業を対象に、8月から12月にかけて、「データ活用・分析セミナー」をオンラインで開催した。

「中小・ベンチャー企業支援担当」では、創業希望者や、自社の経営課題を解決したい中小・ベンチャー企業を対象に、様々な講座やイベントを開催している。同セミナーは「令和3年度広島県データ活用による生産性向上支援事業」として実施され(参加費は無料)、取り組みたい課題やデータ活用のレベル別に3つのコースが設定された。

入門レベルの「既存データ等の分析・活用コース」(経営戦略論、全6回)では、自社の既存データ(会計データ等)や入手可能なデータ(公開データ等)を分析・活用する手法の演習を行う。自社の課題に応じた業務の効率化や、経営戦略をベースとした付加価値向上に取り組みたい企業を対象とした。

入門から応用実践レベルの「新規データの収集・活用コース」(マーケティング論、全5回)では、自社の課題に応じて、簡単な方法(アンケートや広告におけるログ、公開データ等)と、そのデータを用いた分析の演習を行う。データの活用で売上拡大や業務効率化などを目指しているが、データの収集・蓄積がまだ十分でない企業や、データを使うことでどのようなことができるかを学びたい企業を対象とした。
 
応用実践レベルの「蓄積データの分析・活用コース」(全4回)では、自社が収集・蓄積(今後の実施予定も含む)したデジタルデータを用いた、顧客接点の機会創出を重視したデータマーケティング分析の演習を行う。POS、EC、顧客データベースなどのデジタルデータを活用して、より顧客視点でのビジネスモデルの見直しや業務の効率化に取り組みたい企業を対象とした。

日本生産性本部の高橋佑輔・主任経営コンサルタントが担当した「新規データの収集・活用コース」では、飲食・宿泊・小売業向けに、マーケティングの基本、売上アップに向けたデータ活用マーケティング、データマネジメントの考え方、公開データを使った商圏分析、エクセルを使ったポジショニング分析や相関分析、アンケート分析の方法などを説明した(表参照)。


各コース共通の特典として、具体的に取り組みたい自社の課題について、講師に直接、相談できる「フォローアップ」を設けた。データ活用による課題解決に本気で取り組む意欲があり、講師が担当するセミナーにすべて参加した企業が対象で、1社あたり3回程度、相談できる。

「フォローアップ」制度に関しては、SNSを活用した販売促進施策の相談や、データを活用した人事系のアプリ開発の相談などが講師に寄せられているという。

■データへの認識高まる

(亀本健介・広島県商工労働局イノベーション推進チーム中小・ベンチャー企業支援担当課長の話)


中小企業の活動を支援していくうえで何が一番課題なのかを検討した際に、県内の総生産の7割を占めるサービス産業の生産性向上支援が議論になった。

サービス産業の従業員1人当たりの付加価値額は製造業に比べて低い傾向にあり、従来から広島県でも、卸・小売業、宿泊業、飲食業などにおける現場改善の取り組みなどを支援してきたが、国や経営コンサルタント、学識経験者などにヒアリングを行ったところ、これからはITの利活用が重要だとの意見が多く出て、平成28年度からITの利活用に関する取り組みの支援を進めてきた。

これまでに、簡単に取り組めるデータ活用、現場のデータを活用した売上拡大、業務改善・在庫管理を始めるためのデータ活用の取り組み、データ活用のための思考法などのテーマでセミナーを開催してきたが、今年度は、データの活用・分析にしぼったセミナーを開催した。

データを活用した業務の効率化や、効果的なマーケティング、会社の経営戦略の見直しなどに取り組みたい企業に参加してもらうことを意図して、3コースを設定し、各コース20人前後がオンラインで参加した。3コースとも、豊富な事例紹介や、参加者による演習なども含まれた実践的な内容とした。

参加者からは、「データ活用に関する意識が高まった」「従来はデータを集めることが目的だったが、具体的なアクションの必要性が高まった」といった声を聞いている。高橋コンサルの指導コースについては、エクセルを活用した演習が好評で、実践的で役に立つ講座だと評価している。

今後も、中小企業の付加価値向上を通して広島県の産業振興に寄与していきたい。

 

■位置づけは「補助線」 忘れずに

高橋佑輔・日本生産性本部 主任経営コンサルタントの話)


ビジネスにおけるデータ分析が注目を集めている背景には、技術革新などでデータが取りやすくなり、データを分析することで、リアルの世界のことを相当程度、予測できるようになっていることが挙げられる。時代の不確実性が増しているなかで、データ分析は勘や経験、直感を補強するものであり、経営の「意思決定の補助線」となりうる。

データの良い点は、経験や勘と違って、目に見えて、共有しやすいことだ。様々な人々と議論する際の立脚点や土台として、データ分析の結果を活用することで「共創」が図れる。

データ分析が大きなビジネスチャンスとなることが見込まれているが、データ分析に注目しているのは大企業とベンチャーであり、そのはざまで中堅・中小企業は埋没しかねない状況にある。中小企業のデータ分析による生産性向上は喫緊の課題だ。

中小企業におけるデータ分析においては、分析を進める前の段階で、データをどう集めるか、データをどう使うかを考えるとともに、データ分析は難しいという心理的抵抗感をどう排除するかが重要となる。

また、データ分析は経営の一手段にすぎないので、それを主役にしてはいけない。まず、データ分析から入るのではなく、自社の強みや戦略をしっかり押さえたうえで、データを活用すべきプロセスを特定していくことを丁寧に行うことが必要だ。

重要なのはデータ分析ではなく、組織としてデータ分析を重視し、データに基づく意思決定を行う「データドリブン経営」だ。データに基づく意思決定と行動を繰り返していくことは、普通に経営のPDCAを回すことと同じだ。例えば、旅館やホテルでは、毎日アンケートを取って、お客様に対するサービスを日々、改善するといったシンプルな活動だけでも、初期の段階では十分な効果はあるはずだ。データ自体がない中小企業も多いが、公開データからでも分析はできるし、エクセルでできる範囲でも分析はできる。中小企業では、社内にデータサイエンティストがいる必要はなく、自社の経営課題をしっかりとらえることができる人材が必要だ。

今回の参加者には「データ分析で出てきた結果を鵜呑みにせずに、最後は皆さんの直感を信じてほしい。データ分析はあくまでも補助線であり、データ分析は万能ではない」と伝えている。


◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)