サーキュラーエコノミー実現へ今が行動の時 24年度第1回生産性シンポジウム開催報告(2024年4月22日)
2024年度の第1回生産性シンポジウムが4月22日にオンラインで開かれました。地球の限界を超えた経済活動により、人類の持続可能性が脅かされる中で、 「線形経済」から「循環経済(サーキュラーエコノミー、CE)」への転換と、資源生産性の向上が求められています。シンポジウムでは、日本の特徴を生かしたCEについて議論する一方、先進的に取り組んでいる事例などが紹介されました。
CE実現へ今が行動の時
第一部の基調報告では、当本部の喜多川和典・ エコ・マネジメント・センター長が、「欧州のサーキュラーエコノミーの最新動向」と題して、環境・経済に加え、資源の安全保障への貢献も期待されるEUの最新の動きについて報告しました。
次に、経済産業省資源循環経済課長の田中将吾氏が「サーキュラーエコノミー加速に向けた取組」と題し、資源循環経済政策の変遷や「成長志向型の資源自律経済戦略」、そして、企業、自治体、大学、関係団体など400を超える会員が参加している産官学連携のサーキュラーパートナーズ(CPs)の取り組みを紹介しました。
続いて、第二部では、「ビジネスと地域の力でサーキュラーエコノミーを創る」と題して、パネルディスカッションが行われました。
パネリストとしてCLOMA会長(花王特別顧問)の澤田道隆氏、JEPLAN代表取締役執行役員社長の髙尾正樹氏、川崎市臨海部国際戦略本部本部長の玉井一彦氏、経済産業省の田中氏、NPO法人産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏が登壇され、コーディネーターは当日本生産性本部の清水きよみ・SDGs推進室長が務めました。
パネリストの澤田氏は、消費者向け商品のサプライチェーンを担う企業が中心となって設立された容器包装プラスチック資源循環のプラットフォーム「CLOMA」の取り組みについて紹介しました。
2007年にJEPLANを共同創業した髙尾氏は、PETケミカルリサイクル技術の開発の歩みや、2021年に商用工場の稼働を開始したことを紹介しました。
玉井氏は、川崎臨海部が国内最大のプラスチックリサイクル拠点や、企業との連携で進める使用済みプラスチックのガス化技術や、「かわさきプラスチック循環プロジェクト」の取り組みなどについて紹介しました。
その後、事前調査から、参加者のCEへの取り組み状況や課題を紹介し、「ビジネスと地域の力をいかす~各主体は何をすべきか」、「連携して、日本・地域ならではのCEを創る」をテーマに白熱した討議を繰り広げました。
最後に、パネリストがCE実現へ向けたコメントをボードに示しました(=写真)。澤田氏は「やるリスクを取る」と書き、イノベーションを起こすには、やらないリスクを取るよりも、やるリスクを取る重要性を説きました。
髙尾氏は「儲ける」と書き、ごみを原料にした製造業が「儲かる」という成功例を示すことで、新たな市場を切り拓く意欲を示しました。玉井氏は「コスト削減策とコスト負担のための仕組みとルール策定」、田中氏は「今、何か始める」と書き、2050年のCE実現のためには、今、行動を起こすべきだと述べました。
妹尾氏は「脱3R(中脈へ)」と書き、環境問題だけの発想ではなく、動静脈に加え、使い続けるビジネスを構築する中脈サービス産業を育成すべきとの考えを示しました。
コーディネーターの清水氏は、桜の花で図式化した日本版CE「サーキュラー・ソサエティ」を示し、様々な主体が連携し、資源循環の仕組みを回しながら、地域から全国へと日本版CEを広げることが重要だとまとめました。
成功例を示し、循環経済を創る 使い続け支える「中脈産業」育成を
発言要旨
第1回生産性シンポジウム「サーキュラーエコノミーを創る」に登壇したパネリストらの発言要旨は次の通りです。
澤田道隆 CLOMA会長(花王特別顧問)
CLOMAは立ち上げから5年が経過した。海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて官民連携で取り組んでおり、国のサーキュラーエコノミーパートナーズ(CPs)の実行部隊の役割も担う。
日本の産業が培ってきた技術やノウハウを持ち寄り、官民連携で3Rと代替素材のイノベーションを加速、プラスチックの循環利用を徹底することで、消費者や社会とともに海洋に流出するプラスチックごみのゼロ化を目指す日本発のソリューション「ジャパンモデル」を世界に発信していく。
502社・団体、14自治体が加盟しており、原料メーカー、容器メーカー、ブランドオーナー、リテーラー、生活者、自治体、リサイクラーなど、バリューチェーン連携を軸とした取り組みを展開すべく、動脈・静脈産業が一緒に議論を進めている。
部会中心の取り組みを展開し、事業化は35まで拡大した。生活者起点の持続的価値連鎖や実証テストから全国展開への道筋を描いており、2050年までの容器包装プラスチック100%リサイクルを目指している。今ある技術を使いこなしながら、まだない技術を作り込む挑戦を並行し、2030年までにある程度のモデルをつくりたい。ここ5~6年が勝負だ。
髙尾正樹 JEPLAN代表取締役執行役員社長
大学院を中途退学し、岩元美智彦氏(取締役執行役員会長)と2007年にJEPLANを設立した。2014年にPETリサイクルの技術開発に着手し、2017年にはPETケミカルリサイクル技術パイロットプラントを竣工した。18年には、ペットリファインテクノロジー事業を継承し、21年にはPETケミカルリサイクル商用工場の稼働を開始した。
日本国内のペットボトル回収率は94%だが、ボトルtoボトルリサイクル率(使用済みペットボトルからペットボトルへのリサイクル率)は20%にとどまっており、伸びしろは大きい。
原料がごみだけに、中に含まれているものや劣化した時の変化などが不確定で、製品に仕上げるにはオペレーションのノウハウがカギを握っている。
今は「リサイクル=循環」の時代ではない。サーキュラーエコノミーを実現するには、法の制定、経済合理性を達成する戦略の策定、消費者の巻き込みが必要だ。サーキュラーエコノミーを商売として成功させることが重要で、経済合理性をみんなが目指して同じ方向を向いた時、社会が変わる。スタートアップ企業は「ゼロイチ」を実現するのが生命線なので、「資源循環で商売ができる」という世界観を示したい。
玉井一彦 川崎市臨海部国際戦略本部本部長
川崎カーボンニュートラルコンビナート構想では、2022年3月に「水素」、「炭素循環」、「エネルギーの地域最適化」の3点つを柱に、2050年のコンビナート像を提示した。炭素循環では、首都圏の廃プラスチックや臨海部内外のCO2を循環させ、再資源化由来の原料・製品等の供給を目指している。
国のサーキュラーエコノミー都市モデル調査と連携して、コンビナートにおけるCEのロードマップを作成し、川崎臨海部のリサイクル技術を生かし、企業・自治体間連携による実証を重ねて、循環経済型産業の拠点を創出する
取り組み事例としては、製鉄所の高炉等休止に伴う土地利用転換がある。製鉄所の高炉休止等による約400㌶という大規模な土地利用転換で、地権者のJFEホールディングスと連携協定を締結し、土地利用方針を策定。カーボンニュートラルと新たな産業創出の同時実現を目指す。
2025年4月には、Jサーキュラーシステムによる川崎スーパーソーティングセンターが本格稼働する予定で、水江地区を含めた周辺地区の土地利用を、リサイクルなどの産業集積に活用する
■田中将吾 経済産業省産業技術環境局資源循環経済課長
国際的な供給途絶リスクを可能な限りコントロールし、国内の資源循環システムの自律化・強靭化を図ることを通じて、力強い成長に繋げ、中長期的にレジリエントな国内外の資源循環システムを再構築することだが求められる。
日本政府の試算では、サーキュラーエコノミーの市場規模は、2030年に80兆円、2050年には120兆円にのぼる。経済的視点では、資源・環境制約への対応を新たな付加価値とする資源循環市場を、国内外で今後大幅に拡大することが求められている。社会的視点では、カーボンニュートラル、経済安全保障の実現、生物多様性の確保、最終処分場のひっ迫緩和などに貢献する。
政策措置をパッケージ化して、日本におけるCEの市場化を加速し、成長志向型の資源自律経済の確立を通じて国際競争力の獲得を目指す。国、自治体、大学、企業・業界団体、関係機関・関係団体等が参画するパートナーシップを立ち上げており、2025年中にはCE情報流通プラットフォームを構築する。 動静脈連携による資源循環を加速し、中長期的にレジリエントな市場の創出を目指して、「資源循環経済小委員会」を立ち上げ、3R関連法制の拡充・強化の検討を開始する。
妹尾堅一郎 産学連携推進機構理事長
線形経済から循環型経済へ転換するということは、「買い替え」から「使い続け」へ変わることである。循環経済の本質は資源生産性だ。単位あたりの資源で、どれだけの価値をつくることができるかに尽きる。人口100億人時代に豊かな社会をつくるために、累積した資源でしか賄えないとしたら、資源生産性を高めるしかない。
「資源制約」と「環境汚染」という2つの問題を同時に解決する解は、今のところ「循環経済」しかない。これまでは「環境汚染」の文脈で語る人が多かったが、ようやく「資源調達の問題」の視点で考えなければならないことに気づき始めたようだ。
資源循環経済は「極小生産・適小消費・無廃棄」という私たちが想像できない世界を実現することであり、言い換えるとブルーオーシャンだ。イノベーションを狭い領域でやろうとするよりも、この分野に狙いを定めると大きなチャンスになる。
循環経済のビジネスの基本は「使い続け」であり、この分野でビジネスを展開する中堅・中小企業で、成功例がすでに出始めているので、将来に希望を持っている。業種・業態に合った資源循環圏を構築し、動脈静脈論を超え、リペアなどのサービス産業を提供する中脈産業を育成することが求められている。
関連リンク
登壇者
喜多川 和典 日本生産性本部 エコ・マネジメント・センター長
およそ30年にわたり、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングにあたる。上智大非常勤講師、経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(平成30年度~令和元年度)、NEDO技術委員、ISO TC323 Circular Economy 国内委員会委員。おもな著書に、「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」勁草書房、「プラスチックの環境対応技術」情報機構、「材料の再資源化技術事典」日本工業出版などがある。
田中 将吾 経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課長
2001年 東京大学経済学部卒、経済産業省入省 2008年 ロンドン大学(UCL)留学(MSc Public Policy) 2010年 経済産業省 経済産業政策局 調査課 課長補佐(計量担当) その後、商務情報政策局 情報通信機器課、経済産業政策局 産業再生課、大臣官房 会計課等を経て、2017年、資源エネルギー庁 長官官房 総務課 調査広報室長・需給調整室長(兼任)、同・総務課 戦略企画室長 2020年 JETROベルリン 次長 兼 産業調査員 2022年より現職
澤田道隆 クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)会長(花王特別顧問)
1981年、大阪大学大学院工学研究科プロセス工学専攻修士(博士前期)課程修了。同年、花王石鹸株式会社(現花王株式会社)に入社。以後一貫して同社の研究開発部門に携わる。素材開発研究所室長を経て、2003年サニタリー研究所長に着任。ベビー用紙おむつ『メリーズ』の再生に寄与。2006年執行役員に就任。2008年取締役に就任。2012年6月代表取締役社長執行役員に就任。2021年1月取締役会長に就任。2024年3月特別顧問に就任。一般社団法人日本衛生材料工業連合会会長、日本経済団体連合会生活サービス委員長、クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)会長を務める。
髙尾正樹 JEPLAN代表取締役執行役員社長
東京大学大学院(専攻:技術経営)中退後、2007年1月に株式会社JEPLAN(旧:日本環境設計株式会社)を設立し、専務取締役に就任。2014年にPETリサイクルの技術開発に着手し、翌年2015年には北九州響灘工場の建設にも従事。 2016年に代表取締役に就任以降、パートナーとの資本提携やグループ会社:ペットリファインテクノロジーの工場再稼働、PETリサイクル技術の海外ライセンス展開を主導する。
玉井一彦 川崎市臨海部国際戦略本部本部長
1990年川崎市役所入庁、水道局に所属し、水道料金の改定や阪神大震災の応援給水等の業務に携わる。2009年に殿町地区の企業誘致担当に異動し、8年間に渡ってライフサイエンス分野の研究開発エリアであるキングスカイフロントの立ち上げに従事。その後、経済労働局において、ベンチャー、福祉産業等次世代産業の支援業務を経て、現職。川崎カーボンニューラルコンビナート構想や扇島地区等の大規模土地利用転換業務を担当。
妹尾 堅一郎 NPO法人産学連携推進機構 理事長
2001年、富士写真フイルム株式会社を経て英国国立ランカスター大学経営大学院博士課程満期退学。慶大大学院教授、東大先端科学技術研究センター特任教授、一橋大MBA客員教授等を歴任。現在も東大大学院技術経営戦略講座で指導。内閣知財戦略本部専門調査会長、農水省技術会議委員、警察庁政策評価研究委員等を歴任。著訳書多数。『技術で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』は題名が流行語にもなった。現在「日刊工業新聞」をはじめ数誌で連載中。
清水 きよみ 日本生産性本部 SDGs推進室長
東京ガスで調査、環境等を担当後、渡欧。欧州事情を日本に発信。帰国後、CSRシンクタンクや東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、大学講師等を経て、2012年消費者関連専門家会議事務局長、消費者志向経営の推進に尽力。2018年より日本生産性本部に転籍し、「生産性白書」編集、SDGsの推進、サステナブル経営の人財育成等に携わる。消費者庁倫理的消費調査研究会、農水省農林物資規格調査会、内閣府「社会的責任に関する円卓会議」、ISO/COPOLCO国内委員会委員等を歴任。
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