調査・研究メンタル・ヘルス

第5回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果

2010年8月6日
公益財団法人 日本生産性本部

公益財団法人 日本生産性本部のメンタル ヘルス研究所(所長:小田 晋)はこの度、第5回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果を発表した。

この調査は、企業のメンタルヘルスに関する取り組みの実態を分析、解明するために、全国の上場企業 2,243社を対象に2010年4月から5月にかけて実施したものである(有効回答数 251社、回収率11.1%)。今回の調査は2002年、2004年、2006年、2008年に続いて5回目となる。

なお、今回は、これに加え、マザーズなどの新興市場1,209社も調査対象に加えた(有効回答数72社、回答率6.0%)。

以下では、調査結果を記述する際、「上場企業では」とある場合、経年比較のために、継続的に実施してきた上場企業だけの調査結果を用いている。また、新興市場を含む上場企業の結果を示す場合、「新興市場を含む上場企業では」とことわっている。

企業における「心の病」増加傾向に歯止め

~取り組みの成果に手ごたえを感じつつある企業も増加~

  1. 1.最近3年間の「心の病」は「増加傾向」44.6% 「横ばい」45.4%-「横ばい」が「増加傾向」を上回る
    • 上場企業では、『最近3年間における「心の病」』が「増加傾向」と回答した企業は44.6%と、前回調査(2008年)の56.1%から減少し、半数を下回った。「横ばい」と回答した企業は45.4%と、前回調査の32.0%から 増加した。
      過去5年間の結果をみると、「増加傾向」の割合が減少してきていたが、今回調査では、これに加えて、「横ばい」が、わずかながら「増加傾 向」を上回った。
      「心の病」の増加に歯止めがかかってきたとの認識が企業に広がりつつあると思われる。
  2. 2.メンタルヘルス施策に効果 48.6%-成果に手ごたえを感じる企業が増加
    • 上場企業では、メンタルヘルス施策の効果については、「どちらともいえない」が33.5%と、前回調査(2008年)の40.1%から減少し、「十分に効果が出ている」と「まずまず効果が出ている」をあわせると48.6%と、前回調査の40.2%から増加した。「心の病」が「横ばい」になったことが、施策の効果へのこうした評価に結びついたと考えられる。
    • 心の健康に問題を抱えた従業員の今後の増減傾向についての予想を聞いたところ、上場企業では、「増加する」とみる企業が前回調査(2008年)の49.1%から減少し、42.2%となった。また、「ほぼ横ばい」とみる企業は前回調査の29.7%と比べて増加し、37.1%となっており、取り組みの効 果について、企業がある程度の自信を持ってきていることを裏付けていると考えられる。
  3. 3.専門スタッフとの協働による三次予防(*注)対策が進展-社内相談室制度などを備える企業や精神医学関連産業医のいる企業が増加
    • 新興市場を含む上場企業でのメンタルヘルス施策の取り組み対象として、正規従業員を対象にしている企業は、310社(96.0%)と、ほとんどの企業にのぼっている。非正規従業員についても、半数を超える168社(52.0%)が対象としていた。
    • 新興市場を含む上場企業での具体的な取り組み内容としては、上位から順に、「管理職向けの教育」(70.0%)、「長時間労働者への面接相談」(63.8%)、「休職者の職場復帰に向けた支援体制の整備」(49.5%)、 「一般社員向けの教育」(48.6%)、「社外の相談機関への委嘱」(48.0%)となっている。「特にない」は5.0%であり、企業は何らかの形で取り組みを行っている。
    • 新興市場を含む上場企業では、精神医学関連の産業医が「いる」企業が32.2%であった。
      この結果を上場企業だけでみると、精神医学関連の産業医が「いる」が36.3%と前回の24.5%より増加、「いない」が61.4%と前回の77.8%より 減少した。
      精神医学関連の産業医がいない企業が多数をしめるものの、精神医学関連の産業医のいる企業の数は、着実に増加している。 
      また、上場企業では、社内相談室制度、機能のある企業の割合は7割近く(69.7%)となっており、ペースは微増とはいえ、02年からこの8年間で着実に増加し、7割近くの企業が社内相談室制度・機能を備えてきている。
      メンタルヘルス対策として、企業が精神医学関連の産業医や医療系スタッフを厚くしたり、相談室制度、機能を充実させたりするなど、専門スタッフとの協働による三次予防の取り組みを着実に進めている様子がうかがえる。

    (*注)三次予防は、健康問題が発生した場合に行われる専門的治療、社会適応(リハビリテーション)後の再発防止策の対処のこと。ほかに、健康問題を発生させないようにしていこうとする一次予防、病気を早期に発見し対処することで問題を小さいうちに改善しようとする二次予防がある。 

  4. 4.企業のかかえるメンタルヘルス問題-「心の病」のもっとも多い世代は30代58.2% 
    • メンタルヘルスへの企業の取り組みが成果をあげている一方で、依然として企業は「心の病」を有する従業員をかかえている。調査結果では、上場企業で「心の病」が最も多い年齢層は、「30代」であり、58.2%であった。
    • 「長時間労働に伴う面接相談」は不調判断のきっかけとしては12項目中9項目目と低い評価にも関わらず、実施率は66.9%と高い。
  5. 5.今後は現状の取り組み継続と質の向上 46.2%
    • 上場企業の結果は、「今の施策内容を継続し、質の面で改良を加えていく」(46.2%)、「施策の量と質の両面において拡充させていく」 (39.0%)、「現状を維持していく」(14.3%)であった。
      「心の病」の増加傾向に歯止めがかかったことの説明は、複雑な要素がいくつも絡んでおり、容易ではないが、発病後の対応では遅すぎると非難されがちな三次予防をもう一度見直すことの意義はありそうだ。
お問い合わせ先

公益財団法人 日本生産性本部 メンタル・ヘルス研究所 ICT・ヘルスケア推進部(担当:高手、齋藤、中野)

WEBからのお問い合わせ

電話のお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)

関連する調査研究・提言活動