人事制度とは?最近のキーワード解説と企業事例

人事制度とは?
人事制度

人事制度とは、人事管理を「思いつき」や「個人の好み」、「場当たり的」に行うのではなく、「経営目的の実現・従業員の所属価値の向上」を図るために、計画的かつ、合目的な理念・価値基準にもとづいて、全体として一貫性のある(整合した)人事管理を行うための基準や運営の仕組みのことです。主要な人事制度として「等級制度」「評価制度」「賃金制度」が挙げられます。


・等級制度…従業員に期待する人材像を示し、レベル分けする。​

・評価制度…従業員の仕事ぶりを評価し、育成・処遇・活用に利かす​(評価基準=期待レベル=等級基準)。

・賃金制度…期待レベルに応じた基本給(固定的)と組織業績と個人成績に応じた賞与(変動的)で構成される。​

人的資本経営及び情報開示への向き合い方

人的資本開示は経営問題

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日本生産性本部が主催する第95期人事部長クラブの2月例会で、一橋大学大学院経営管理研究科教授の円谷昭一氏が「人的資本経営及び情報開示への向き合い方」をテーマに講演した。

令和5年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正では、人的資本に関する開示が求められた。人的資本に関する三つの項目のうち、女性管理職比率は女性活躍推進法で、男性の育児休業取得率は育児・介護休業法で既に公表が求められている数字だ。男女間賃金格差も、1999年3月期までは有価証券報告書で開示されており、それが復活する。

ただ、円谷氏は「単純平均した数字だけを示すと、日本の雇用形態の実態を知らない海外の投資家から男女間格差や差別を指摘される恐れがある。法定開示を超えて、注記をつけるなど丁寧に説明するべきだ」と述べた。

また「海外の機関投資家は、非財務情報ではなく、将来は利益に貢献する未財務情報を求めている。人的資本は開示の問題ではなく、経営の問題であることを意識しなければならない」と指摘した。


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人的資本の情報開示とISO30414~国内外の最新動向

ISO30414の活用を

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日本生産性本部は3月22日、第95期「人事部長クラブ」の3月例会を都内で開催(オンライン併用)した。当日は「人的資本の情報開示とISO30414~国内外の最新動向」をテーマに保坂駿介・HCプロデュース代表取締役が講演した。

保坂氏は、人的資本の情報開示が企業に求められている背景として、投資家がこれまで以上に、付加価値を生み出す人材の採用や育成に注目し始めていることや、米国証券取引委員会(SEC)が2020年8月に、人的資本に関する重要な情報の開示を義務化したこと、日本国内でも2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改定され、人的資本の開示が実質義務化されたこと、各省庁でも「『人的資本可視化指針』の公表」「有価証券報告書での非財務情報の開示」「女性活躍推進法の改正による『男女の賃金の差異』の公表義務化」「育児・介護休業法の改正による育児休業等の取得割合の公表義務化」といった人的資本情報開示に関する動きが見られることなどを挙げた。


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ジョブ型の人材マネジメントとは?

ジョブ型の概念

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人材マネジメントを巡るキーワードの一つとして「ジョブ型」という言葉を耳にすることが増えています。「ジョブ型」とは、もともとは欧米などで広く見られる「ジョブ=職務」を基軸とした人材マネジメントの考え方ですが、近年、我が国で語られる「ジョブ型」は「世界の諸社会に現実に存在するさまざまな雇用システムを分類するための学術的概念であり、あくまでも欧米の労働社会と日本の労働社会の特性を浮かび上がらせるためのもの」(出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構 濱口桂一郎氏)と想定されています。すなわち、我が国の正社員に特徴的な、職務や勤務地などを限定しない雇用形態を「メンバーシップ型」と呼称するのと対比的に、職務、勤務地ならびに労働時間を明示的に定める雇用システムの分類概念と定義されます。

ジョブ型の本質と真のねらい

今日的な文脈の中で語られるジョブ型の真のねらいを、組織力強化に向けた人材マネジメントの革新と捉えれば、その具体的な内容は、漠然としたマネジメントから職務や役割を明確にしたマネジメントに変えていくことにあると想定されます。限定性が重視されるケースを含めて、「限定」と言うよりも、多様化と平仄を合わせた「明確化・具体化」が、ジョブ型の本質と思われます。

そのねらいはシンプルであり、また、従来から仕事基準の人事制度導入や目標管理などによる取り組みがなされてきました。にもかかわらず、運用の実効性を伴ってこなかったことが今日における問題の本質と言えます。敢えてステレオタイプな捉え方をすれば、日本的な組織文化や社員意識の全般的な特徴として、「チームワーク」の名のもとに「個々の職務・役割と責任」を突き詰めることなく曖昧にする傾向が強いことが、今日の経営環境下ではマイナスに働いていることが少なくないものと想定されます。


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「ジョブ型」の人事制度を展開するためには?

「ジョブ型」を展開する上での「人基準」と「仕事基準」

ジョブ型の議論を巡っては、これまで我が国の雇用システムにおいて特徴的であった長期・終身雇用や年功制のメリットを認めつつも、経営環境の変化を受けて人材マネジメントの規範を見直していくことの必要性が総論として示されています。ジョブ型そのものは、職務や勤務地または労働時間の限定性を直接的な分類概念としていますが、そのなかでも中核となる要素である「職務」について実務に展開していく上では、根底にある「人基準」と「仕事基準」の考え方を明確にしておく必要があります。

賃金の面から見た人事制度の変遷

以下は、賃金面から見た我が国における人事制度の変容ですが、ここ20年の間に「仕事基準(役割・職務)」の導入が急速に進んでいることが見てとれます。一方で、「人基準(年齢・勤続・職能)」を採用している企業も少なからず存在しており、特に非管理職層については「職能給」の導入割合が依然として8割近くを占めています。

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改正高年齢者雇用安定法(2021年4月施行)の対応方法は?

70歳までの就業機会の確保のために

少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、2021(令和3)年4月1日から施行されました。

日本の雇用に影響を与える人口推移の将来予測においては、今後中長期的な視点で総人口の減少が確実となり、特に15~64歳の生産年齢人口の減少幅は顕著なものとなっています。一方、65歳以上の人口は今後も増加することが明らかです。そのため、65歳以上で働く意欲のある方に雇用および就業機会をいかに確保するかが、重要な論点であることがうかがえます。

2013(平成25)年にも改正された同法により、これまでも企業は希望者全員を対象に65歳までの雇用機会を確保することが義務付けられており、今回の改正では以下の5点が70歳までの就業確保の努力義務として追加されました。

①70歳までの定年引き上げ

②定年制の廃止

③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

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同一労働同一賃金の世間の動向は?

人事処遇制度はあらゆる労働者を対象に

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2018 年末に、厚生労働省より雇用形態又は就業形態に関わらない公正な待遇を確保することを目的とした同一労働同一賃金ガイドライン(以下、同ガイドライン)が示されました。ここには、我が国から「非正規」という言葉を一掃することが明記されており、人事処遇制度は正規労働者であるいわゆる正社員に留まらず、非正規社員(契約社員、パートタイマー、嘱託社員など)を含む全労働者を対象として公正に評価・処遇を行う重要な企業経営システムであることが求められます。

これからは、仕事内容を踏まえた適切な賃金処遇差が求められる

賃金処遇のあり方については、担っている役割・職務や、業績・成果に加え経験・能力や勤続年数といった多様な要素を加味して、労働者間の仕事内容において、違いがあればその違いに応じた賃金処遇とすること(均衡待遇「不合理な待遇差の禁止」)、違いがなく同じ仕事内容である場合には同じ賃金処遇とすること(均等待遇「差別的取り扱いの禁止」)が定められています。

同じ賃金処遇(均等待遇)も必要

一方で、同ガイドラインでは同じ賃金処遇(均等待遇)とすることを明確に求めている部分があります。それは、特殊な作業に関わる手当や時間外手当、通勤手当や単身赴任手当・福利厚生に関するものです。たとえば、通勤手当はこれまで契約社員やパートタイマーといった非正規の社員には支給しないことがありましたが、全社員を対象に通勤手当を支給するように制度の見直しを図る動きがあります。


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日本ではなぜ同一労働同一賃金が実現できてこなかったのか?

同一労働同一賃金が実現してこなかった背景とは?

日本において、これまで同一労働同一賃金が実現してこなかった背景には、賃金処遇に年功的要素が大きく影響していたことが挙げられます。労働政策研究・研修機構の「多様な就業形態に関する実態調査」(平成23年)によると、正社員は約7割(限定正社員は約6割)が勤続年数の経過により原則として増加し続ける賃金カーブとなっています。

例えば年功性が強い賃金処遇制度としている企業では、若手で早期に上位の資格・役職に昇格昇進した社員よりも、下位の資格・役職であるが勤続年数が長い社員の方が、昇給が積み上がり賃金水準が高いということが起きています。一般的には、上位の資格・役職者の方が企業にとって付加価値の高い業務に取り組むこととなるため、この時点で同一労働同一賃金の前提となる処遇と仕事内容のバランスが崩れていることとなります。

正規社員と非正規社員との格差とは?

また、いわゆる正規社員と非正規社員との間で適用される賃金処遇制度は別ものであるケースが多くあります。正規社員では昇給が続く仕組みであるのに対し、非正規社員では昇給が少なく、ある程度で停止するまたは昇給がそもそもない仕組みが適用されていることが多く見受けられます。こうしたことから、同じ経理や総務といった仕事内容を担っているにも関わらず、資格や役職、または正規社員と非正規社員との間で賃金水準が異なっている状況が起こるのです。


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ジーシー(歯科材料・歯科機器メーカー)における人事制度の刷新事例

能力主義強化の新人事制度

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歯科医療業界のリーディングカンパニーで、歯科材料・歯科機器の大手メーカーであるジーシー(本社=東京・本郷)は、歯科材料・歯科機器ともに自社で開発・製造・販売している。歯科材料分野では歯科用セメント(歯に詰めたり、接着材として使用するもの)を中心に国内でトップシェアを誇る。同社は2021年度に新人事制度を導入した。制度導入のねらいや背景について、山崎岳信・ジーシー人事部部長は、「当社は毎年、社員満足度調査を実施しているが、『報酬の低さ』『評価の妥当性』『昇格昇進の妥当性』に関して、特に30代と開発部門の社員の満足度が低かった。役員ヒアリングでも『昇格基準・評価基準の明確化』『賃金水準引き上げの必要性』『人材確保等のための専門職の必要性』などの要望が出た。また、旧制度は1999年に導入しており、年功序列的な色合いを残していた」と語る。

モチベーションの向上を図る~山崎岳信 ジーシー 人事部部長(取材当時)

新人事制度の導入によって、中堅社員のモチベーションの向上を図ることができた。毎年5月から6月にかけて社員満足度調査を実施しているが、給与を大きく上げた昨年は、満足度は結構上がった。今年の調査では給与の満足度は下がってはいないが、評価や昇格では満足度が下がったので、制度の理解を深めていく必要がある。

専門職制度については、専門職の評価基準をどう設定するかなど、課題は山積している。専門職を設けたからには、専門職としての成果が出なければ降格させる必要があると思うが、実際にはなかなか難しく、そうした意識の醸成も今後の課題の一つだ。


「一生プレーヤー」という考え方を~中間弘和・日本生産性本部主席経営コンサルタント

新制度導入にあたっては、同社の財務状況を踏まえた労働分配率のシミュレーションを行い、適正人件費と配分について分析した。

これまで同社は、要員管理、昇格管理、人件費管理を厳格に行ってきたこともあって、労働生産性、労働分配率とも非常に優れた状態であったが、新制度の検討時期はコロナ禍で、海外の売り上げが急減した厳しい経営環境下にあった。

経営判断が難しい中で中尾潔貴社長は大幅な賃金水準の引き上げを断行した。同時に、力がある社員の昇格移行を促進した。一般に、人事制度を新たに導入する場合は、賃金が上がる集団が出る一方で賃金が下がる集団が出るのが普通だが、賃金が下がる集団が出ることを社長は嫌った。せっかく新制度を導入するなら、みんなのモチベーションが上がるようにしたいという意向だった。人件費負担が多少重くなることよりも、頑張っている社員のモチベーション向上や、人の採用・確保に力を入れることを重視した。


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ヨシモトポール(金属製品製造・販売)における人事制度の刷新事例

新人事制度で働きがい向上

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公共インフラ、情報通信、防災、電力など、多彩なポール製品の製造・販売を行っているヨシモトポールは、グループ企業を対象に、2016年4月から新人事制度を導入した。等級制度、評価制度、賃金制度、能力開発制度が一貫性をもって構築され、実力に応じた公正で透明性の高い人事制度を整備することで、社員の働きがいの向上を図っている。

新人事制度は、①能力向上や貢献度に報いる人事管理の実現(年功色の強かった人事管理から、能力発揮の度合や職責貢献度を重視した人事制度へ)、② 社員の発揮能力や職責貢献度を評価するモノサシ(基準)の明確化(ルールを整備し、等級ごとに評価基準を明確に定め、社員のがんばりや貢献度を評価する)、③社員の生活面に配慮しつつ、能力レベルや職責貢献度に応じた給与構造、が特徴となっている。

一人ひとりが挑戦意欲持つ社員に~今井貴光 ヨシモトポール 常務取締役(取材当時)

新制度ではグループの社員が自主的に自発的に行動できることをねらいとしており、生産性の向上、業務の改善、スキルの向上などについて社員一人ひとりが考え、行動して、社会人として成長することを促している。

目標管理制度の導入によって、上司と部下が定期的に面談することになり、お互いの意見の擦り合わせができるようになった。上司・部下間のコミュニケーションが活発化し、風通しがよくなった。自身の能力を高めないと昇格昇給できない制度になり、社員の学習意欲も高まってきた。上司も、部下を成長させるためにはどうしたらよいか、部下に足りないものは何かを考えるようになり、マネジメント層の意識改革にもつながっている。

家族主義的な組織風土にも留意~大場正彦・日本生産性本部主席経営コンサルタント

新人事制度の設計にあたっては経営方針、経営ビジョンなどを把握し、経営戦略の整理、求められる人材像の明確化、許容されうる人件費の分析などを経て、人事制度を構築した。新制度では、不具合修正の積み重ねで継ぎはぎが多くなっていた旧制度を一新し、人事管理の基準・ルールの明確化を図り、透明性を確保することにした。また、働き方改革を先取りして、残業管理や労務管理のルールも整備している。

コンサルティングの究極の目標は、組織内のメンバーが自律的に成長することによって、コンサルティングが必要でなくなる組織になることだと思うが、同社ではそれが体現されつつある。役員報酬の見直しや、ガバナンスの仕組みの構築などの自律的な活動が継続的に行われている。毎年、社内の従業員意識調査を行い、その結果を分析して、改善に結びつけるPDCAサイクルも回っている。

制度設計にあたっては、同社が持っている家族主義的な組織風土を生かす制度とすることにも留意した。


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綜研化学(化学)における人事制度の刷新事例

複線型の管理体系を刷新 新しい人事制度を構築

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綜研化学では以前は『マルチトラックシステム』という、複線型の管理体系をとっていた。「この制度には現在も参考にすべき思想が多分に盛り込まれていたが、システムの運用が複雑で、賃金決定では定率を用いたために、若年層の賃金水準の低下、同等級での滞留年数による昇給不均衡を招くなど、不具合も発生していた。また、少ない等級のため、昇格の壁が厚くなる一方、実際の昇給額は低額で、成果は個人の業績賞与でしか実感できない状況となり、自身のステップアップも感じにくくなっていたのではないかと思う。そのため、個の部分に目が向きすぎ、組織という感覚が薄れてしまってきているように感じた。本来目指した方向とはズレが生じていた。その結果から、『成果は組織として生み出す』もの、『自己の成長を実感すること』が必要だと考えた」(泉浦伸行・綜研化学執行役員総務人事部長)。

人事制度・コース制度を刷新

人事制度の改定は、コース制度、役割等級制度、目標管理制度、人事評価制度、自己申告制度、能力開発制度に及んだ。

コース制度では、それまでの複線型体系も踏まえ、基本的な勤務条件の異なる雇用区分として、「総合職」「技能職」「事務職」の三区分を設定した。管理職層には、職務の違いによりマネジメント・スペシャリスト・エキスパートの3系統を設けている。


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