調査・研究メンタル・ヘルス

2001年版 産業人メンタルヘルス白書

2001年8月24日
公益財団法人 日本生産性本部

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I.産業人のメンタルヘルスは依然悪化傾向

(1983~2000年度 190万サンプル)

  1. 1.長期トレンドとしての傾向に、変化はない。
    • 変化を望まず、真面目さや粘り、活動的に振る舞おうとする活力が徐々に希薄化
  2. 2.自己を抑制し、心身に無理をして、職場環境へ適応する姿が明らかに。

II.最近5年間の産業人心理の変化

(1996~2000年度 50万サンプル)

  1. 1.産業人は、将来への希望を失っている。
  2. 2.身体面、精神面の健康度も、悪化している。
  3. 3.活力と関連深い尺度も、悪化している。
  4. 4.職場適応に関する尺度は、わずかに好転している。

III.仕事・職場環境が産業人のメンタルヘルスに与える影響

(1996~2000年度 50万サンプル)

  1. 1.職場ストレスは、精神健康に大きな影響があることが証明された。
  2. 2.特に仕事の正確度や負担感、将来への希望との相関が強い。
  3. 3.職場の人間関係では、上司よりも同僚との関係に相関がみられる。
  4. 4.メンタルヘルス増進の鍵は、仕事への適応感と意欲にある。

IV.産業人メンタルヘルス増進に向けての提言

  1. 1.「こころの健康基本法」の制定を
  2. 2.メンタルヘルス増進を経営・人事方針と労使の共通目標に
  3. 3.産業人のためのメンタルヘルス増進への6ヶ条

財団法人 社会経済生産性本部は、不況下における産業人メンタルヘルスの今日の状況を打開し、産業人と産業社会の健康を増進する嚆矢となるべく、初めて「2001年版産業人メンタルヘルス白書」を刊行した。識者による問題提起・報告と、JMI健康調査に基づく「JMI尺度による経年変化」と「仕事・職場がメンタルヘルスに与える影響」についての調査研究をとりまとめた。

I.産業人のメンタルヘルスは依然として悪化状況にある

(本文p87)

産業人の意識は、変化を望まず、真面目に粘り強く、活動的に振る舞おうとする活力が徐々に希薄化している長期トレンドに変化はない。

さらに、自己を抑制させ、心身の無理をして職場環境へ適応している実態が浮かんできている。

II.最近5年間の産業人メンタルヘルスの変化について(グラフ1;2参照)

(本文p77~89)

  1. 1.1996年度と2000年度の2時点でのメンタルヘルスの比較(29尺度)では、男性は良化したのは10尺度、悪化したのは19尺度で、女性は良化したのは9尺度、悪化したのは20尺度である。男女とも、メンタルヘルスの悪化の度合いは強く、特に女性は顕著である。

    (以下、男性を中心に特徴点を述べる)

  2. 2.「将来への希望(5.1ポイント)」、「不安(4.6ポイント)」、「自己不確実(3.6ポイント)」など、現在から将来に向けての展望に関する尺度は、急激に低下した。
  3. 3.身体に関する「心臓愁訴(4.3ポイント)」、「心気的身体症状(3.2ポイント)」、「疲労(1.9ポイント)」、「疾病頻度(1.5ポイント)」と不調感が増し、精神に関する尺度である「自己顕示(3.4ポイント)」、「強迫(3.3ポイント)」、「劣等感(3.1ポイント)」、「抑うつ(1.9ポイント)」も同様に健康度が低下した。
  4. 4.また内面的活力の尺度である「好調感(5.6ポイント)」「外向性(3.7ポイント)」、「探究性(2.2ポイント)」、「瞬発性(1.7ポイント)」も低下した。
  5. 5.総じてメンタル度は低下しているが、仕事・職場領域の尺度は上昇した。

    「評価への満足度(3.8ポイント)」、「仕事への適応感(3.6ポイント)」、「帰属意識(3.2ポイント)」、「上司との関係(3.1ポイント)」、「同僚との関係(1.6ポイント)」が上昇し、「前うつ=真面目さ」、「仕事への負担感のなさ」に変化はない。

    ただし、「仕事への意欲(1.9ポイント)」は低下し、活力の減退が危惧される。

  6. 6.女性も、男性とほぼ同一傾向にあるが、むしろ悪化度は強い。(「嗜癖性(11.6ポイント)」は極端に悪化した。)

以上から、産業人は、将来に不安を抱え、心身を不調にしながらも、真面目さを保ちつつ、仕事・職場に真剣に適応している姿が浮かび上がった。

III.仕事・職場環境が産業人のメンタルヘルスに与える影響について(表参照)

(本文p90~101)

  1. 1.メンタルヘルス尺度と、多くの高い相関が見られた仕事・職場環境の尺度は「仕事の正確度」であり、以下「仕事への負担感のなさ」、「将来への希望」、「仕事への適応感」、「同僚との関係」、「仕事への意欲」であった。

    なお、「上司との関係」とは、高い相関がみられなかった。

  2. 2.「仕事の正確度」は、気分の不安定感や劣等感、抑うつや神経症傾向との相関が強く出ている。仕事上のミスや事故などと、その背景にあるメンタルヘルス上の問題のつながりが確認された。
  3. 3.「仕事への負担感のなさ」は、疲労との相関が強い。負担感を物理面と精神面に分けると精神面との相関が大きい。つまり、精神的な負荷が疲労を形成する部分が大きい。抑うつや強迫、不安との相関も大きく、負担感と精神面の不安定さの関係の強さが読み取れる。
  4. 4.「将来への希望」は、経年変化では悪化の一途である。将来への希望が低下すると、気分がふさぎ込み、失敗を恐れて行動できない傾向があらわれ、職場の雰囲気は暗くなる。
  5. 5.メンタルヘルスサポートとしての人間関係では、「同僚との関係」の方が「上司との関係」より重要である。同僚との関係が希薄になると職場になじめず、気分がふさいだり、疲れを感じ、神経症的な傾向が増す。
  6. 6.メンタルヘルス増進の鍵は、「仕事への適応感」と「仕事への意欲」にある。メンタルヘルス尺度とプラスの相関が多く出ている尺度は、「仕事への適応感」と「仕事への意欲」である。仕事への適応感は、真面目さや心身とも好調である意識、活動的な傾向が出ており、今の仕事が面白くやれることのあらわれであろう。「仕事への意欲」は、いわゆるモラールよりもポジティブな意味での意欲であり、仕事へのチャレンジ精神と言える。探究性、自己顕示、外向性といった積極的・前向きな尺度との相関が強いのに加え、真面目さも強い。

「仕事への適応感」は真面目で元気、「仕事への意欲」は元気で真面目と、その傾向に多少差はあるが、ともにどのような姿勢で仕事に取り組むかが、メンタルヘルス上も影響しており、個人のエネルギーを引き出す鍵となっている。

IV.産業人メンタルヘルス増進に向けての提言

(本文p10)

メンタルヘルス増進は、狭い意味での健康管理に留まらない

<1>生産性の向上

<2>危機管理対策

<3>コストメリット

<4>企業イメージの向上

<5>産業人の創造性の開発

その実現のため、以下の提言をする。

  1. 1.政策として-
    • 「こころの健康基本法」の制定を

      (本文p15)

    • 民間活力を活かしてのメンタルヘルス活動の推進を
  2. 2.企業、組織として-
    • メンタルヘルス増進を経営・人事方針と労使の共通目標に
      • 「責任ある寛容の原則」に基づくガイドラインの策定を
      • メンタルヘルスを扱う労使及び医療職等からなる委員会組織の設置を
      • 労働組合運動の主要な取り組み課題に

        (本文p12~13)

  3. 3.産業人のためのメンタルヘルス増進への6ヶ条

    <1>タフの仮面からの脱却を

    <2>うつ病は誰でもかかる-精神科にかかることは恥ではない-

    <3>時間の使い方を工夫、「仕切り」とメリハリを

    <4>ストレス・コントロール法を一つは持つこと

    <5>楽天的に考えよう

    <6>笑いとユーモアを習慣化しよう

    (本文p15)

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