イノベーティブな組織を作る人材戦略④ 新生銀行

2021年8月26日

ニューノーマル下でのイノベーティブな組織づくり~ダイバーシティ推進と人事制度の再設計

林 貴子 常務執行役員・人事担当に聞く

概要

林 貴子
新生銀行
常務執行役員・人事担当
    • 新生銀行グループは、主要グループ各社の間接機能を新生銀行内に設置した仮想の「グループ本社」に集約し、統合・一体運営する体制を構築。ビジネス面においても、グループ各社が持つ情報や機能を有機的に活用し、新たなビジネスモデルの創出と外部との価値共創を志向。
    • 2018年に法人ビジネスユニット長が委員長を務める「グループ女性活躍推進委員会」(新生銀行グループ5社が対象)を立ち上げ、企業価値向上に向けた経営課題としての本気度を示すことで、役員クラスだけでなく部長クラスの意識変化に繋げた。
    • 個人の成長と多様なキャリアの推進のため副業・兼業を新生銀行グループで解禁。雇用形態や働く時間・場所に囚われない、柔軟な働き方を推進している。
    • 近日、グループ会社の人事制度の改定・統一予定。長期雇用とメンバーシップ型組織のみを前提とした従来型の人事制度からの脱却を図り、Pay for Workの理念のもと、内外の人的資源の最大活用による組織力向上を目指す。

ヒアリング内容

取材日:2021年6月24日
      • 1. グループ一体経営~イノベーティブな組織づくり~
        新生銀行グループは、2017年度より、主要グループ各社の人事、財務、企画、法務・コンプライアンス部門など全ての間接機能の部署を、新生銀行内に設置する仮想の「グループ本社」に集約し、統合・一体運営する体制を構築し運営している。例えば、以前の銀行の人事部は、30~40人程度であったが、現在は「グループ人事部」として約100人の部員でグループ会社全体を見ている。これにより、各社の人事部メンバーが席を並べて働いているような環境が実現できており、出身会社や業種の異なるバックボーンを持った多様な人と身近に触れ合う機会が格段に多くなり、良い効果に繋がっている。また、ビジネス面においても、中期経営戦略の「価値共創」に基づき、グループを跨ぎ、外部パートナーと協業して新たなビジネスモデルの創出と価値創造にチャレンジしている。こうした新しい取り組みを実行していくうえでも、グループの人材が有する個性や多様性を十分発揮できるイノベーティブな組織作りをしていくことが重要であり、ダイバーシティ推進は、人事戦略の要であると考えている。

      • 2. 新生銀行グループが取り組むダイバーシティ推進
        新生銀行グループ5社(新生銀行、昭和リース、新生インベストメント&ファイナンス、アプラスフィナンシャル、新生フィナンシャル)では、「ダイバーシティ推進」を経営戦略の一つと位置付け、2018年2月に「ダイバーシティ推進室」を設置した。主に「多様なキャリアの推進・活用」「女性活躍推進」「多様な働き方の推進」「多様な人材の活躍推進」などの課題を中心に、各種の取り組みを進めている(下図参照)。
        図 新生銀行グループのダイバーシティ推進

      • 3. 新生銀行グループの女性活躍推進の取り組み
        女性活躍推進の取り組みで重要なのは、一つ目に「トップマネジメント層を巻き込む」ことである。2018年に、法人ビジネスユニット長が委員長を務め、ビジネス部門の責任者が中心となって構成する「グループ女性活躍推進委員会」を立ち上げた。これは、社内外に対して、ビジネスの伸長や企業価値向上のために、経営戦略の一つとして「女性活躍推進に本気で取組んでいる」と示すこと、さらに、委員になった役員自身の意識の変革を促し、ダイバーシティ推進のリーダーシップを率先して執るようにすることから、重要な意味をもつ。
        次に重要な点は、「(直属の)上司の巻き込み」である。女性に限らず、多様な人材の活用が進まないのは、役員クラスよりむしろ現場の部長クラスの価値観が関係していると言える。日本企業全体にも言えることだが、部長クラスのポジションには、同じ組織で長く一緒に働いてきた同質性の高い男性が多い。そうした人たちが「自分たちも変わらなければいけない」という自覚を持つことを期待している。2020年度からは、ダイバーシティ推進をより一層、スピード感をもって着実に進めていくため、管理職の業績評価の項目に「ダイバーシティ推進目標の設定」を義務化した。
        3つ目は、「周囲・職場の意識改革」である。近時、「男性の」育休取得の促進に積極的に取り組んでいる。育児中の男女従業員へのヒアリングを踏まえ、妻の検診付き添いなどサポートがしやすいように、出産時ではなく妊娠判明時から休暇の取得ができること、長期の連続休暇だけではなく、「半日単位」で取得できるようにした。夫婦が互いに助け合いながら上手くバランスを取って子育てに取り組めるようにしている。
        4つ目は、「人材の成長マインドセットの醸成を行う」ことであり、選抜した女性従業員に対し、本人の業務ラインとは違う役員をメンターに付けたり、また役員とのランチ会やワークショップなどを通じて経営的な視野や人脈を広げる機会を与えている。
        最後に、「女性人材の昇格運営」における注力点に触れる。一定以上の世代では、性別役割期待に基づく旧来の価値観のもとで、自らキャリアを限定化して考える人も少なくない。そうした女性には常に新しい可能性への「気づきと機会の提供」をすること、登用・抜擢時には、目的や条件・役割期待に加え、本人の不安に対するサポート体制まで丁寧に合意形成を図ることが重要である。具体的には、毎年多面的視点でポテンシャル人材のレビューを行うとともに、重要ポジションへの任命にあたっては、登用の約半年前からコミュニケーションを開始し、会社からの一方的な通達人事にならないようにしている。
        なお、2020年4月から3ヵ年計画で、グループ5社合計および個社別の女性管理職比率を、13.9%から18%以上にする目標を設定しており、2021年7月には18.3%まで上昇した。最終的には、「意思決定に関わる役職に占める女性比率を30%にすること」を目指している(下図参照)。
        図 新生銀行グループの女性管理職比率目標と実績

      • 4. 個人の成長とキャリア多様化のための新生銀行グループ企業の副業・兼業解禁
        新生銀行では、個人の成長と多様なキャリア推進のため、2018年4月、大手銀行で初めて副業・兼業を解禁した(その後グループに拡大)。一般に、大企業では副業・兼業が直接的に自社にリターンをもたらすことを期待し、兼業の許可にあたってその目的を審査する会社もあるが、それは新生銀行のスタンスとは異なる。会社の外での経験は本人の成長の機会であり、結果として仕事でのパフォーマンスにも良い影響があること、多様な経験を積んだ社員が増えることで将来的な組織のイノベーションに繋がることを期待するのは間違いではない。他方で、兼業をするか否かについてはそもそも個人の自由であり、会社側が規制するものではない。介護や育児で仕事の時間を思うように確保できない人もいれば、趣味が大事でほどほどに仕事したい人など、さまざまな人がいる。働き方も時間も場所も関係なく、個人が持つ得意技を最大限にパフォーマンスし、価値を提供してくれれば、会社はそれに見合った報酬を支払うという発想だ。
        なお、副業・兼業を「他社雇用型」で認める場合は、現行の法令では先に勤務していた会社が、総労働時間を管理する必要がある。グループ全従業員のうち「他社雇用型」の申請者は1割に満たない。兼業副業による人材活用を社会的に実効化するためには、行政サイドにおける法令やガイドラインの再検討・整備が必要だと考える。
        今後、優秀な社内外の人材を、「正社員・無期雇用」「有期雇用」「フリーランス」「業務委託」など、雇用・就労形態に捉われず活用し、公正に処遇できる制度の整備を加速する。「週3・4日勤務」やコアタイムのないスーパーフレックスタイム制度なども導入していきたい。

    • 5. グループ共通の人事制度を進展させ、人材の流動化と人材資源の最大化を実現
      グループ一体経営を進め、共通の人事施策作りが進む一方で、現状はグループ各社それぞれの人事制度、異なる人事管理システムでの運用になっている。2022年夏までにはこれらを統一する予定であり、各社の制度をどれか一つに共通化するだけでなく、今日的な組織運営・人事運営にマッチする、新しい人事制度の導入を志向する。これにより、グループ人事部の業務効率化・高度化を図り、社内外の多様な人材の獲得と確保、活躍支援のプラットフォームが実現するだろう。
      また、新卒採用についても、2022年度入行者から「イノベーターコース」を導入している。起業経験のある人や、自分が中心になって何かを成し遂げた人など15名の学生が候補者として書類選考を通過したが、残念ながら今回は採用実績を作れなかった。面接の際に、「銀行員になってほしいのではなく、金融というフィールドでできることを自ら探して提案して欲しい。あなたのキャリアパスはあなた自身で作るもの。年次や経験年数ではなくあなたが提供する価値に対して公正に処遇する。何をするのも自由です。」と伝えた。面白いことを言っている魅力ある企業と認識してもらえた手応えは感じた。多様な人材獲得に向けて、これを第一歩として今後も継続したい。
      最後に、ニューノーマルにおける新しい働き方を促す施策への取り組みについて紹介する。選択肢としてのリモート勤務の常態化を踏まえ、本年2月より定期券代の支給を廃止し実費精算にして、使途自由の業務支援手当の一律支給を開始した。2021年度中には、実費精算も止め、代わりに一律の交通費見合いを含む業務支援手当の増額を行う。同様の趣旨で、住宅補助手当についても社宅・分譲・賃貸のいずれか、自分・配偶者・同居人の誰のものかで区別せず、より公正性の高い手当として拡充することで、一人ひとりが望む「新しい働き方」を支援する。
      昔ながらの人事制度から脱却し、「働く」ことに直接関係のないものをできるだけ排除して、Pay for Workの理念のもと、シンプルかつ公正な制度に進化させ、新生銀行グループにとって「必要なスキルを持った人材」が、グループ内外から自由に行き来し、活躍できる職場環境の実現と人的資源の最大化を目指している。