イノベーティブな組織を作る人材戦略① オイシックス・ラ・大地

2021年4月13日

優秀な人材の確保と従業員の成長のための「副業・兼業の解禁」

三浦孝文 HR本部人材企画室長に聞く

概要

三浦 孝文
オイシックス・ラ・大地
HR本部人材企画室長
    • 2014年、食品の宅配を主な事業とする同社の創業者である高島宏平氏が採用活動を行う中で、高いスキルを持つ優秀な人材を確保することを目的に、副業・兼業制度を導入した。
    • 多様な働き方を認めることで、今までアプローチしにくかった優秀な人材や、働くことに意欲的な人材を取り込むことができ、また一方で、従業員のスキルアップと成長にもつながり、会社への相乗効果が生まれている。
    • 全従業員1,600名超(2020年3月31日時点)のうち40名ほどが同制度を利用している。申請・面談では副業・兼業の目的を明確にさせており、副業・兼業先の技術やノウハウ、知識を自社でも活用することで、新しい事業や取組みにつながると期待されている。
    • 従業員の「成長機会」をつくる新しい取り組みとしては、手を挙げた従業員が役員会に参加できる制度を創設した。参加した従業員にとっては、会社の問題を自分事として捉える良い機会となるなど、同従業員の意識改革につながっている。
    • 今後のさらなる事業の成長に向けて「経営としての人事」を模索している。
オイシックス・ラ・大地のブランドごとの食材セット(一部)
Oisix
大地を守る会
らでぃっしゅぼーや

ヒアリング内容

取材日:2021年3月10日
      • 1. 副業・兼業制度導入の経緯と目的~優秀な人材の確保と従業員の成長~
        2014年、食品の宅配を主な事業とする同社の創業者で代表取締役社長の髙島宏平氏が、積極的に採用活動を行っている中で、自分で会社を経営している人、高いスキルを持ち、いろいろなことにチャレンジしている優秀な人をどうすれば採用できるのか考えた。そのとき、兼業で良いのでそういう人材に自社で一緒に仕事をしてもらいたいと考えたのが、最初のきっかけだったという。
        その一方で、従業員自身のスキルアップと成長にもつながり、その結果、本業への相乗効果が生まれると期待して、この制度を導入したとのことである。

      • 2. 本業に良い影響を与える副業・兼業を選択
        全従業員1,600名超のうち、常時副業・兼業をしている従業員は40名ほど。その業種は多種多様だが、収入を得ることを主な目的にしたものではなく、「本業に良い影響を与えるもの」「個人のスキルアップ・成長につながるもの」を推奨しているため、自分の業務やミッションに関連した副業・兼業をしている人が多い。例えば、執行役員を務めるかたわら、デジタルマーケティング支援の会社を経営する幹部従業員や、また本業のロジスティックス部門の新センター立ち上げに伴い、必要なスキルの習得を目的にロジスティックス事業を営む他社で兼業しながらスキルを学んでいる従業員もいる。
        取材に応じた人材企画室長の三浦氏も、他社で人事のコンサルティング業務を行う他、ライターとして寄稿するなどの副業をしており、全て本業の業務につながっていると話す。その他に、短期プロジェクトやNPO的な活動の手伝いなど、自分の関心のあるテーマに対してスポットで副業・兼業をしている従業員もいるとのことだ。
        副業・兼業をする際は、事前に所属部署の上司に相談をした上で人事部門に申請をする。申請には、どのような会社で、どんな業務を、どれぐらい就業するか、そして「それによってどんな成長をしたいのか」を明確にすることが求められるとのこと。副業・兼業が認められた後は年2回の上司との面談時に、本業に支障が出ていないか、副業・兼業先でどのような活動を行っているのか、引き続き副業・兼業を行うのか、などについても確認している。
        利用者の特徴としては、「100%+アルファ」(本業の就業時間を変えずに副業・兼業の業務を行う)の場合と、「100%未満」(本業の業務時間を減らして副業・兼業の業務を行う)の場合の、大きく2つのパターンがあり、人によって異なる。ただし、「100%+アルファ」の人の方が多く、平日は本業で就業し、時間外や土・日曜日に副業・兼業を行っている。これはもともと、同社が掲げる「食や社会課題をビジネスで解く」というミッションに共感して入社している人が多いためで、プライベートの時間もそれに関係したことをやりたいと考える人が多いためだろうと考えられている。「100%以下」の場合は、自分で会社を経営していたり、役員であることが多く、そのようなプロフェッショナルな人は他社でもミッションを担っているため、本業の契約内容だけを定め、勤務時間等は本人に任せているとのことだ。
        この制度の利用者は20~50歳代まで男女・年代を問わず幅広くおり、期間は3箇月もあれば、週1日を1年以上、または案件が来たときだけスポット的に副業・兼業するなど、実施方法は様々である。これまでは40~50代の従業員からの申請が少なかったが、ここ1~2年はその年代からの相談が増えているという。

      • 3. ノウハウや知識の活用で従業員も会社も進化~新しい事業や取組みにつながる~
        副業・兼業先での技術やノウハウ、知識を本業で活用することで、新しい事業や取組みにつながると期待しているとのこと。例えば、副業・兼業をしている経営陣であれば、他社の経営ノウハウ、マーケティングノウハウなどを吸収できるので、それを本業の事業に転換するとどんなことができるかなどを考え、業績向上や事業拡大のための「経営ノウハウの進化」に活かせているという。また現場レベルにおいても、メンバーが副業・兼業により、新しいスキルやノウハウを獲得することは、そのチームや組織にとってプラスとなり「日々の業務の進化」に効果が生まれているという。
        各部門では、副業・兼業をしている従業員と半年ごとに上司が面談を行うことにより状況を把握しており、情報漏洩等の問題が起きたことはない。しかし、副業・兼業をする従業員の労働時間は、上司が副業・兼業先の労働時間まで細かく把握するのが難しく、本業と副業・兼業先の両方の職場で労働時間が増えてしまうと健康に差しさわりが出てくることが考えられるため、人事部門としては副業・兼業をしている従業員の健康に十分に配慮しているとのことである。なお、同制度を利用する従業員からは「気持ちの切り替えができて良い」「張りが出る」などの意見が出ているという。

      • 4. 従業員の「成長機会」をつくる新しい取組み~役員会への参加による意識改革~
        最近は、従業員にとっての「成長機会」を、社内でどのようにオープンに透明性をもってつくっていくかを意識して取り組んでいる。例えばこの2~3年ほどは、毎週行っている執行役員会の場に、従業員5~6名が参加できる「オブザーバー制度」を設けている。現在は、コロナ禍の影響で経営陣の会議もオンラインで行っているため、オンラインで参加できる。
        入社したばかりの若手従業員でも、年代を問わず手を挙げた従業員が参加することができるという。参加により会社の未来像や、意思決定の様子を知ることができるため、それを自分の業務にどう活かすかなど、すぐに聴いた内容を各自の業務に活用できるとのこと。また、会議の後、経営陣から参加した感想や意見を求められることもあるそうだ。参加した従業員からは、目線や視座も変わり、「会社の問題を自分事として捉える良い機会になった」「経営陣の真剣さが伝わることで士気が上がった」とポジティブに捉える人が多く、参加した従業員の意識改革につながっている。

    • 5. 今後の組織のあり方と人材戦略
      現在同社は売上が710億円規模(2020年3月期)であるが、今後さらなる発展を目指していく中で、どのような組織体系で運営をするのか、意思決定の形をどうするのかなど、同社にとっての「最適な形とサイズ」について日々議論を重ねているという。経営の意思決定が各事業部門(現場)の最前線までスピーディーに伝わり、現場の最前線で常に意思決定をしていかなければならない中で、「人事部門として、採用や異動なども含めて従業員に次の成長機会としての教育の場をどうつくり、事業を伸ばしていくための形とは何かを日々問うている」とのことである。
      例えば、HRBP(HRビジネスパートナー:人と組織の面から事業の成長や新規開発等を実現する役割の役職)のような役割が必要なのか、あるいはカンパニー制のような組織にする方が良いのかなど、今まさに模索をしているところだと三浦氏は話す。会社や事業が成長するための「経営としての人事」が求められていると言えそうだ。

参考

オイシックス・ラ・大地の社内では、兼業制度は下記のように呼びかけられている。

兼業制度について

本業以外の経験を通じて、個人の能力を高め、本業でのより高いパフォーマンスにつなげてもらうことを目的とし、兼業を推奨しています。
まずは人材企画室へご相談ください。


承認条件

  • ①兼業での学びをどう本業で活かすのかが明確
  • ②個人の成長や仕事へ寄与しそうなもの
  • ③収入補填目的ではない
  • ④利益相反しない

申請方法:ワークフローより
「申請する」⇒「人事」⇒「兼業申請書」

  • 兼業申請書①
    週5日勤務未満で兼業希望の人
  • 兼業申請書②
    週5日勤務、業務時間外に兼業する人