イノベーティブな組織を作る人材戦略③ 三菱地所

2021年6月7日

オープンイノベーションを促進する新人事制度

人事担当者3名に聞く
    • 根神 剛   人事部 給与・厚生・働き方改革推進ユニット統括
    • 内田 沙紀  人事部 人事ユニット副主事
    • 武居 直宏  人事部 採用・育成・人権啓発・ダイバーシティ推進ユニット

概要

    • 2019年、オープンイノベーション、ビジネスモデル革新を促進するため、新たな人事制度を創設。
    • 新たな人事制度では主に、①副業の解禁、②副業・兼業人材の公募、③退職者の再雇用、④配偶者の転勤に伴う転居先への異動などの制度を整備。
    • 人事制度に加えて、本社の移転や、新規事業提案制度、生産性を高める目的での仮眠を認めるなど、イノベーティブな組織に向けて様々な施策を展開。
    • まだ直接的に大規模なイノベーションにはつながっていないものの、積極的な外部との交流や多様な働き方を認めるという方向へ、組織風土が変化しつつある。
    • 新たなビジネスを生むことを支援できる人材育成を考えたい。

ヒアリング内容

取材日:2021年4月23日
      • 1. 新たな人事制度創設の目的と背景~中期経営計画の実現~
        中期経営計画(2017~2019年度)にオープンイノベーションの促進、ビジネスモデル革新を掲げており、具現化する手段の一つとして、2019年に社員の副業解禁、副業・兼業人材の公募を含む新たな人事制度を創設した。その目的は、社員の主体的なキャリア選択の可能性を拡充すること、社内外の専門的な知識を持った人材を登用しやすくすることである。様々な知見を得やすくなり、ダイバーシティが生まれオープンイノベーションを促進できることに加えて、一層働きやすく新たなアイデアが生まれる環境づくりも実現できると考えた。さらに、原則禁止としていた副業・兼業を許可制で解禁した。厚生労働省の労働基準法にもとづく2018年の「モデル就業規則」改正など、世の中の機運も背中を押した。

      • 2. 副業解禁で、社員の成長やスキルアップに繋がるチャレンジを後押し
        副業制度は許可制で実施している。二重雇用にならないよう、副業先とは、委託契約など雇用以外の契約にすることや、健康状態を損ねないよう上限は月50時間といったルールを設け、それに合致する形で副業先の企業や業務内容を申請し、人事部で承認する。
        情報漏洩のリスクを考えて、当社と競合に当たる同業種での副業は禁止としているが、社員が興味のあることにチャレンジすることを後押ししている。
        副業は、業務時間外に行うのがルールであるが、フレックスタイム制を採用しているため、本業に支障が出ない範囲であれば平日の時間を使うことも可能である。

      • 3. 柔軟かつ多様な働き方を支える人事制度により、組織風土に変化
        導入から1年程度経った現在、約30名が副業に取り組んでいる。副業をしている社員からは、「当社内では得られない貴重な人脈や経験が得られている」という話を聞いており、社員の成長や、イノベーションの芽につながっているのではないか。副業を行っていない社員にも、外部に触れて様々な知見や経験を得ることを会社が推奨しているという認識が広がっている。
        また、一部業務において副業・兼業人材の公募も行っている。当社では、ビジネスモデル革新を目的として新事業の社内提案制度を設けているが、この制度により2019年4月に立ち上げた「メディテーションスタジオ*の運営事業」に、副業・兼業人材の公募を行った。これが、副業・兼業人材公募の第1回目の試みであり、応募のあった個人は子会社の運営会社と業務委託契約を結びこの事業に携わっている。
        そのほか、これまで配偶者の転勤等の事由に限定していた退職者雇用制度を拡充し、育児、介護、転職、起業等を含め、自己都合により退職した社員について、退職期間の経験等を踏まえ、一定の面接を経た上で再雇用を可能とする制度を整備した。また、通常は転勤の無い職種の社員について、配偶者の国内での転勤等を理由に当人が転居先エリアへの異動を希望する場合は、組織運営上実現可能な場合に限り、当社グループでの転勤を可能とした。
        これらの制度を通じ、会社が多様な働き方を認めているということを、多くの社員が理解してくれるようになってきた。

        *メディテーションスタジオは、新事業提案制度から生まれたMedicha(メディーチャ)という子会社が運営する、都会のワーカーをメインターゲットとしたリラクゼーション瞑想スタジオ。

        • 4. 全社でイノベーティブな組織づくりに取り組む
          当社は「イノベーティブな組織」になったとまでは言い切れないかもしれないが、確実に「イノベーティブな組織風土」になりつつあると感じている。
          本社の移転に伴いフレキシブルに働ける空間を作ったり(下写真)、仮眠を認めたりと、これまでは考えられなかったような取り組みにより「働き方の面でいろいろなことができる」という雰囲気が生まれてきている。
          先述した新事業提案制度を創設したり、全社員が業務時間の10%を、何らかの形でビジネスモデル革新につながるような取り組みに使うことを義務付けるなど、人事制度以外の方法でもイノベーティブな組織づくりに取り組んでいる。
          本社のフレキシブルに働ける空間

    • 5. 一つの領域に特化せず、様々な視点で人材を育成、新たなビジネスの創出を支援
      世界の流れとしてデジタル化が進んでいる。新入社員だけでなく、全社的なデジタルスキルを向上させるべく、採用や研修のあり方も見直す必要があると感じている。オンラインの研修とオフラインの研修で、其々に長短所があるため、そのバランスも重要。DXについては数年前から進めているが、さらに分析を行いながら改善したい。
      当社でも専門性を持った人材の外部からの採用は増えているものの、完全なジョブ型採用には課題があると感じている。社員の個々の能力を高め、適切に配置することを優先し、特定の領域に必要な人材は外部から採用して配置するという「当社に合った」タレントマネジメントの形を探っていきたい。
      社員の採用・育成・評価どれも大切だと考えている。社員の育成に当たっては、不動産業においては一つの領域に特化するのではなく、色々な要素をかけ合わせることで新たなビジネスが生まれることがあるので、社員がいろいろなことを経験できることを支援する育成の在り方を考えていきたい。